第161話、望み

 闘技場で闘って翌日、リーディッドさん達に連れられてまた闘技場にやって来た。

 ただ昨日とは違いって一般側の入り口だからか、沢山の人が私を見ている気がする。

 多分気のせいじゃないよね。昨日の子だって言ってる人も居るし。


「むふふ。いやぁ、何だか気分良いね」

「何でキャスが胸張ってんだよ・・・お前関係無いだろ・・・」

「グロリアちゃんが褒められてるんだから嬉しいじゃーん?」

「まあ、それは、そうだが」


 キャスさんは私を褒める言葉が聞こえるからと、ニッコニコ笑顔で歩いている。

 彼女が喜んでくれるなら嬉しい。ガンさんは余りそういった様子が無いけど。

 でもキャスさんの言葉に同意してくれてるし、彼も喜んでくれてるのかな?


 ただ視線が集まり過ぎて少しソワソワしつつ、前を歩くリーディッドさんに付いて行く。

 少し歩くと受付のような所があり、そこにいた女性の一人に声をかけた。


「責任者の方をお呼び頂けますか?」

「・・・少々お待ち下さい」


 受付の女性はチラッと私を見ると、小さく腰を折って後ろの扉へと入って行った。


「どうやら話を通していたみたいですね。ここで足止めを食らう様子が無くて何よりです」

『明らかにグロリアを見てから行ったからな』


 受付の女性が帰って来るまで座って待っていようと、近くにあった座席に座って待つ。

 その間も私をチラチラと見る人は居たけど、近付いて来る人は居なかった。

 お前行けよ、いやお前が行けよ、みたいな事を言っている人は居たけど。


 そうして待つ事暫く、昨日のお爺さんが笑顔でやって来た。


「まさかこんなに早く来てくれるとは思ってなかったぞ」

「こういった話は早い方が宜しいでしょう?」

「まあ、そりゃあそうだが・・・最悪嬢ちゃんが大人になってから誘う事も考えてたんでな」

「それは気の長い事で。よっぽど彼女を気に入った様ですね」

「当たり前だろ。こんな逸材滅多に居るもんじゃねえよ」

『まさか年単位で待つ気だったとは。この爺さん中々長生きしそうだな』


 取り敢えず詳しい話は場所を変えよう、という事でお爺さんの誘導で別室へ。

 応接室らしい部屋に通され、ふかふかな椅子に座る様に言われた。

 言われるままに皆座ってから、お爺さんはぐるっと全員をに目を向ける。


「んで、保護者様ご一行の答えを聞かせて貰っていいかい?」

「結論を急ぎ過ぎでは?」

「こりゃすまんな。だが来てくれたって事は、悪い話じゃないんだろう?」

「そうですね。断るつもりで在れば来なければ良いだけなので」


 リーディッドさんがニコッと笑うと、お爺さんもニヤッと笑う。

 確かに断るつもりでは来ていないけど、お爺さんにとっては良い話なのだろうか。

 リーディッドさんが言うには、中位リーグに出すつもりだって話しだったし・・・。


「貴方の予想通り、グロリアさんを闘技場に出す為にきました」

「そいつぁ嬉しいね」

「ですが条件が有ります」

「上位リーグにいきなり入れろ、ってか? 流石にそれは無理だぜ」

「でしょうね。下位は飛ばせるでしょうが、流石に中位の者達を無視はできないでしょう」

「解っていてくれて何よりだ」


 お爺さんはホッとした様子で応え、けれどリーディッドさんはにこっとした笑みを崩さない。

 今日の笑顔は笑ってない笑顔だ。だって雰囲気がちょっと怖いもん。


「ですが彼女は王都に住むつもりはありません。魔獣領こそが彼女の住処だと、彼女自身が主張しております。であれば私は彼女の望まない事をさせる訳にはいきません」

「魔獣領・・・遠いと聞いちゃいたが、確かに気軽に行き来は出来んな・・・」

「はい。移動だけで数日かかりますから」

「じゃあどうするってんだ。さっきも言ったがいきなり上位には――――」

「特別リーグに登録をお願いします」


 リーディッドさんがそう告げると、お爺さんは一瞬固まった後に私を見た。

 そして私が胸に抱くガライドに目を向け、少し考えるそぶりを見せてから口を開く。


「それ、魔道具か」

「ええ。彼女の魔道具です」

「魔道具持ちか、魔道具使いか、どっちだ」

「魔道具使いですね」

「・・・マジかよ」


 お爺さんは背もたれに体を預け、天井を仰ぐ様子を見せた。

 特別リーグ。昨日リーディッドさんが言っていた、通常とは違うリーグ戦。

 それは『魔道具持ち』の試合と『魔道具使い』の試合だと。


 試合のルール自体は変わらないらしいけれど、通常の試合とは比べ物にならない試合になる。

 だから人気なリーグ戦で、問題点は選手がかなり少ない事だとか。

 魔道具を持っている人間自体が少なく、使える人間となると更に少ないらしい。


 その上魔道具同士の戦闘は、ルールを守っていても大怪我の可能性がある。

 下手をすれば試合中に命を落とす。力が拮抗していれば尚の事、事故は起きる。

 だからたとえ魔道具を持っていたとしても、特別リーグに登録するのは物好きだけだとか。


「良いのか。魔道具使いの試合って事は、下手すりゃ腕や足の一本無くなる可能性が在るぞ」

「それは通常の試合でも同じ事では?」

「危険性がまるで違う。嬢ちゃんはまだ子供だ。子供の未来を潰す真似はしたくない」

「それは困りましたね。彼女は王都に住むつもりはありませんし、特別リーグの試合数ならば彼女も闘技場に出場できるのですが」


 リーディッドさんはさも困りましたという態度だけれど、本当に困ってるのか解らない。

 だって一度は断られるだろう、と言っていたし。お爺さんが真面な人ならとも言ってたけど。


「なあ、嬢ちゃんは解ってるのか? 魔道具使い同士の戦いがどういうものか」

「えと、はい。何度か、した事が、あります、ので」

「・・・魔道具使いと何度もやった事がある、ってのか?」

「はい」


 お爺さんは困惑した表情で私を見つめ、そして黙り込んで何かに悩み始めてしまった。


「彼女は古代魔道具使いです。そう言えば、その実力を理解出来ますか?」

「っ、まさか、噂の・・・!」

「おや、ご存じでしたか。まあ王子殿下と繋がりの有る方ですから当然ですか」

「・・・それで魔獣領か。納得がいった。アンタ魔獣領の領主の妹だな?」

「・・・ええ、まあ、そうですね」


 リーディッドさんは不服そうに答え、お爺さんは怪訝な顔をする。

 けれどコホンと咳払いをして、彼女は佇まいを直した。


「何処まで話を聞いているか知りませんが、彼女の実力は本物ですよ。魔道具を使わずとも魔獣を打ち倒し、魔道具を使えばそれこそ敵は居ない。一騎当千の体現者でしょう」

「嬢ちゃんの実力は勿論この目で見たから解っちゃいるが・・・いや、だがな・・・」

『グロリアの身を案じてくれているのは解るが、これ以外に落とし所が無いと解っているが故に悩んでいるな。グロリア。君はどうしたい。ここは君の意見を口にするべき所だと思うぞ』


 リーディッドさんが「任せて下さい」と言っていたので、私は何も言うつもりは無かった。

 けれどガライドが私にそう言ってくれて、だからお爺さんのをしっかり見て口を開く。


「私は、戦え、ます。大丈夫、です」


 腕の中のガライドをしっかりと抱きしめながら、お爺さんに強く言い切った。

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