第160話、特別

「なーんで誘ってくれなかったのぉーーーー! 見たかったー! グロリアちゃんの活躍私も見たかったー! 行ってたら客席で喉がかれるまで全力で応援したのにーーーーー!」

『幼児かお前は・・・』


 試合をある程度見終わり、夕暮れ時に城に帰ってキャスさんに今日あった事を訪ねられた。

 そこで闘技場の試合に出た事を話し、リズさんも何故か得意げに語っていた。

 すると話終わった所でキャスさんがこう叫び出し、床をゴロゴロ転がってしまっている。


 あの、ドレスでごろごろ転がるのは、良くないと思うんです。

 いやでもキャスさんは鍛練場でも寝転がってたっけ。

 ん、そういえば服が変わってる。汚したりしたんだろうか。いやそうじゃなくて。


「あ、あの、いえ、えっと・・・」


 誘うべきだったのだろうか。確かに言われてみると誘うべきだったかも。

 だって私の成果を見て貰う為に出た試合だし、皆に見てもらわないと意味が無い。

 リズさんに見て貰えて満足していたけど、本当ならもっと皆に見て貰うべきだったのか。


「お前なぁ。お前が最初に単独行動するって言ったんだろうが。誘えも何もお前がちゃんと傍に居なかったのがわりぃんだろうが。見ろ、真に受けてグロリアが困ってるじゃねーか」

『全くだ』


 何て考えていると、ガンさんが助けを出してくれて、ガライドも肯定してくれた。

 そこで少しホッと息を吐くと、キャスさんが気まずそうに眼を逸らす。

 ただ転がったままだ。頑なに起き上がらないのは何故だろう。


「お嬢様は確かに闘士として役目を全うされました。素敵なお姿でしたよ」

「リズもリズで今日は大分ポンコツになってますね。よっぽど嬉しかったみたいですね貴女。表情と声音だけ取り繕っても、言動が完全に浮かれてますよ」

「私は事実を述べているだけです」

「それがキャスに対する煽りになってるんですよ。私は別に面白いから良いですけど」

『良くは無いだろう。絶対お前達は主従揃っておかしいぞ』


 煽ってる、のかな。リズさんが喜んでくれてるなら、私は嬉しいんだけどな。

 ただ今のリズさんは普段のすました様子だから、何時も通り色々解り難いけど。

 でもリーディッドさんがそう言うならきっとそうなんだろう。多分。


「それにしても闘技場で、それも問題児を相手に反則を叩き潰しての勝利、ですか」


 リーディッドさんは手元の手紙を、お爺さんからの手紙を見ながら呟く。

 どうやら闘技場での試合の内容が書かれていたらしい。そして私を誘う内容も。

 闘技場に出さないのは国の損失だ、とまで書かれているそうだ。流石に言い過ぎだと思う。


「・・・グロリアさんはどうしたいんですか?」

「私、ですか?」

「ええ。手紙を託した老人の誘いを受けたいのですか?」

「・・・私は、魔獣領に、居たい、です」


 誘ってくれたのは嬉しい。評価して貰えたのも嬉しい。

 闘技場で歓声を受けた時に、自分が喜んでいるのも自覚していた。

 闘う事を喜ばれる。どうやら私はその事実が嬉しいらしいと。


 なら、闘技場で戦わないかという誘いは、多分きっととても嬉しい事だ。

 凄く凄くありがたい。けど、それには王都に住まないといけない。

 それがどうしても嫌だし、ここで生活していける気もしない。


「グロリアさん。私が聞いているのは、もっと単純な事なんですよ」

「・・・単純、ですか?」

「貴女は闘技場で戦いたいのか。それとも戦いたくないのか。その一点をお答えください」

「それは・・・」


 確かにとても単純だ。場所とか、距離とか、食事とか、そういうの無しの考えだ。

 ただただ私が闘技場に出たいかどうか。それは、それだけを考えるなら・・・。


「でたい、です」

「なら決まりです。明日この老人に話を通しに行きましょう。グロリアさんを正式に闘技場の闘士として登録する様に。文面から滲み出る感情を見る限り、どんな条件でも受けるでしょう」

『いや、確かに受けそうな気配だったが・・・一体どんな条件を出すつもりだ・・・』


 リーディッドさんはニヤっと笑い、ガライドが不安そうに呟く。

 ただ私は彼女の答えにただただ慌てていた。だってそんな事になったら帰れない。


「わ、わたし、魔獣領に、帰りたい、です!」

「ああ、これは申し訳ありません。言葉が足りませんでしたね。勿論グロリアさんは我々と共に魔獣領へ帰りますよ。貴女の望まない結果など出すつもりはありません」

「・・・え?」


 リーディッドさんの言ってる事が無茶苦茶で、理解出来なくて固まってしまう。

 そんな私の様子がおかしかったのか、彼女はクスクスと笑いだした。


「グロリアさんも段々しっかりしてきた気がしてましたが、まだ可愛らしいですね」

「お嬢様。グロリアお嬢様を余りからかわないで下さい」

「はいはい。怖いお付きさんが居るのでこの辺りにしておきましょう。まあやる事は単純です。つまりグロリアさんが闘技場に出れて、かつ魔獣領に帰れば良いだけの話でしょう?」


 それは・・・そう、なの、かな? いやでも、出来ないから、悩んでた訳で・・・。


「私は闘技場についてそこまで詳しくは無いんですが、この国の闘技場は基本はリーグ戦でしたよね。それ以外に特別試合も有りますけど、それは措いておくとして、基本はリーグで上に上がらないといけないはずです。この誘い文句からすると下位リーグは免除でしょう」

「下位リーグ、ですか」

「ええ。下位リーグは試合数をこなさないといけないはずなので、確かに王都に住まないと無理でしょうね。そもそも表の舞台でやらない事も多いみたいです。客に見せられるような試合をする人間が少ないから下位なのでしょうしね。ただグロリアさんは確実にその域を出ています」


 お客さんに見せられない試合なんてあるんだ。それは闘士の人がちょっと可哀そうだな。


「中位リーグになれば良いかと言われれば、これも微妙な所ですね。確か結構な数がひしめき合ってるはずですし、かなりの試合をこなさなければいけません。ならばこれも出られない」

「・・・そう、ですね」


 中位リーグは、今日見て来た試合だ。

 あの後もしばらく見たけど、あんまり強い人は居なかった。

 何人か周りの人より強い人が居て、その人はかなりの数勝ってるらしい。

 もう上位リーグに入るのは確実だとか、客席で応援してる人が叫んでた。


「上位に入れば多少は融通が利きます。入るならここですが・・・流石にいきなり上位には入れてくれないでしょうね。グロリアさんは確かな実力を見せつけましたが、中位リーグに居る連中が納得しないでしょう。その為にも普通にやるには中位リーグで勝たなければいけない」

「じゃあ、やっぱり、無理です、よね?」

「ええ。普通なら、無理でしょう。普通なら、ね」


 そこでまた彼女はニヤッと笑う。なんだかとても楽しそうだ。

 キャスさんが「そういうの良いから早く」と急かして、むっとした顔になってしまったけど。


「・・・闘技場には通常リーグ以外に特別リーグが在ります。それに登録させるんですよ」

「特別?」


 少しつまらなさそうに告げるリーディッドさんだけど、私は変わらず首を傾げてしまった。

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