第109話、全力稼働(練習)

 王女様が帰ってからは、普段通りの生活が戻って来た

 兵士さんと手合わせをして、友達と遊んで、お仕事をして、森で魔獣を食べる

 今までと違う事といえば、ガンさんと魔道具での訓練をする様になった事ぐらいだろうか。


 ああ、魔力補給の薬の事も、普段とは違う事だったっけ。

 薬を飲んだ副作用に関しては、既にリーディッドさんに報告している。

 だからなのか、出先で無理に呑まなくて良い様にと、色々考えてくれているらしい。


 ガンさんとキャスさんにも無理はするなと言われたので、緊急時以外は飲まない約束をした。

 それでも皆ちょっと不満そうだったけれど、これだけは譲れない。

 この薬は私にとって、きっととても大事な物だ。必要な物だ。


 なのでその為の血を集め、スカスカになったお肉を食う。

 ただ前の様に一気にやると帰りが遅くなるし、私の食べる時間がなくなってしまう。

 なので一度森に入るにつき二瓶分を限度として、余裕をもって帰るようにした。


 屋敷に帰ると毎日リズさんが迎えてくれて、何時も綺麗な笑顔でお世話してくれる。

 最近は傍に居て心地良い時と凄く緊張する時両方あって、逆に前より緊張してきた気が。

 嫌いではないし、むしろ好きなのだと思うけど、どうしても緊張が解けないのは何故だろう。


 大体そんな感じで、楽しい毎日を送っている。うん、とても、楽しい。

 きっと今私はとても幸せなのだろう。こんな幸せがずっと続いて欲しいと願っている。

 ただ生きていられれば良い。そんな風に思っていた私の事を忘れそうになる程に。


「・・・でも、忘れちゃ、だめだ」


 この幸せは簡単に奪われる。そうさせない為には力が要る。

 ギッと拳を握り込み、力を込めて両手足を紅く光らせる。

 まだ足りない。もっと、もっとだ。もっと強く光れ!


「ぎっ」


 歯を食いしばってあらん限りの力を籠め、魔道具が私の意志に応える様に更に光る。

 その状態で全力で踏み込み、真っ直ぐに、思いっきり真っ直ぐに駆けた。

 周囲の景色が一瞬で後ろに流れて行くのを感じ、そして思いっきり踏み止まる。

 地面が衝撃に耐えられずに爆ぜ、力で無理やり移動を止めた。


「まだ・・・まだ、あげられる、筈・・・!」


 お腹の下に力を籠め、もっと、もっと力をと、自分自身に叫ぶ。


「がああああぁぁぁぁぁああああ!!」


 キィンと音が聞こえた。段階を超えた時に聞こえるあの音が。

 ガライドが全力で起動したときのあの音と共に、魔力が凄まじい勢いで魔道具に吸われていく。

 紅く、何処でも紅く、私の肌すらも紅く見える様に光る。強く、もっと強く、さらに強く!


「――――っ」


 その力を全力で使わんと、両手足で地面を掴んで前に飛ぶ。

 最初とは比較にならない速さで、けれど速すぎて止まれない。

 近くにあった木を蹴っても爆散するだけで、何の意味もなく突き抜けて行く。


「があっ!」


 纏う力を思い切り斜め下に叩き付け、反動で無理矢理止まる。

 地面は放った力で思い切り抉れ、けれど軌道を変える事は出来た。

 これなら相手が複数でも、攻撃と軌道変化の両方が成り立つ。


「ふぅ・・・!」


 着地して息を吐き、紅い光をすっと消す。同時に一瞬膝から力が抜けそうになった。

 紅い力を全力で使うと、戻った時に力が抜けるのが少し困る。

 とはいえガライドに相談しても、これは慣れるしかないと言われてしまったけれど。


『出力調整は大分上手くなって来たな』

「はい、今なら、全力で、紅い一撃、打てそう、です」


 ギッと拳を握り込む。手ごたえはあった。多分ガンさんとの訓練のおかげだ。

 魔道具同士の打ち合いを何度かしたおかげで、魔道具の発動が前よりやり易くなっている。

 おかげで段々解って来た。私の力の有効な使い方が。ガライドの言う通りの大出力攻撃が。


「ガンさんとの、手合わせでは、使えま、せんが」

『仕方ない。こんな物を放てば流石にガンとて死んでしまう』


 私の全力の紅い一撃。それはガンさんの『光剣』では耐えられないらしい。

 一撃だけなら防げるかもしれないけれど、それでも無事で済むかは解らないと。

 なので全力を出す訓練は、人里離れた所で一人でやっている。

 そして全力を出すと、当然だけれど物凄くお腹が減る。


「じゃあ、魔獣を、倒しに、いきましょうか」

『ああ、行こうか』


 お腹がグーっとなるのを聞きながら、魔獣の森へと向かって走る。

 本当は魔獣相手に全力を出せればいいんだけど、そうなると全部吹き飛ばしてしまう。

 食べられるものまで何もかも吹き飛ばすのは、どうしても私が許せなかったから。


 そんな感じで日々を過ごし、そしてある日リーディッドさんが言ってた通りになった。

 王女様からの招待状が屋敷に届いたんだ。友人として遊びに来て欲しいと。







 因みに、ガンさんにも招待状が在った。


「何で俺も!?」


 と言っていたけど、流石に私も当然だと思った。だって王女様ガンさんの事好きだし。

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