第108話、服用効果
王女様が帰って行くのを見届けたら、皆そのまま解散となった。
私は今日は特に用事を入れていない。ちょっとした実験をする為に一日開けている。
なので一旦リズさんと自室に戻って、彼女が部屋を出て行くとガライドが喋り出した。
『私とした事がうっかりしていた。すまないな、グロリア』
「気にしないで、下さい。私は、気にもして、ませんでした、から」
『だからこそだ。君が気が付かない部分を補助するのが私の役目なのだからな』
昨日も謝って来たのに、また今日も謝るガライド。
何の話かといえば、ガライドの作った薬に関する事だ。
あの薬は私の為だけに作った物で、私のお腹を満たす為の物。
薬とは言っているけど、それは実質食べ物だと思う。お腹が膨れるんだし。
なので一体どんな味がするのかと尋ねた所、ガライドは空中でびたっと動きを止めた。
『しまった。先ずは何よりも、君が口に入れて問題無いかを試すのが先だろうに・・・!』
愕然とした声でそう告げた後、凄い勢いで謝って来た。
私は何故彼が謝るのか解らずに首を傾げ、説明を求めた。
『この薬は君の体質を考えて作った物だ。ひと瓶で君の魔力を補給する事が出来るはずだ。だがそれは計算上でしかない上に、これだけ高濃度に圧縮した物を食べて大丈夫なのか、という点が完全に抜けていた。効率だけを考えて副作用の可能性を考えていなかった』
「え、ええと・・・」
『要は、食べて大丈夫か、という点を確かめるのを忘れていた』
「食べて、ですか・・・でも、私は毒も、大丈夫、ですよね?」
『だからこそうっかりしていた。完成品を作った時に問題無いか試してみるべきだった』
という事で今日は何があっても問題無い様に、一日のんびりする事にした。
昨日ガンさんと魔道具での訓練もしたので、お腹も減っているから丁度良い。
王女様が帰る前にもう一度見たい、ってお願いしてきたんだよね。
お願いされずとも近い内にやりたかったから、私がガンさんにお願いした。
前よりはガンさんに付いて行ける様になったけど、接近戦だとやっぱり少し不利だ。
ただ彼は接近しないと駄目だから、私が遠距離攻撃をすると困ってたけど。
その場合の新しい問題は、私が上手く加減できない事だったけど。
『さて、グロリア。先ずは少量口に含んで見てくれ』
「はい。解り、ました」
腕から出て来た瓶を開け、ゆっくりと傾けながら口に含む。
血で作った薬らしいけれど、血の味はしない。むしろ味がしない様な?
言われた通り少量を飲み込み、一旦瓶から口を離す。
『どうだ。不調などは無いか?』
「・・・良く、解らない、です。お腹は・・・少し、膨れてる、ような?」
『ふむ・・・自覚症状は無しか。だが体温が少々高くなっているな』
「言われてみれば、そうかも、しれません」
言われないと解らない程度だけど、確かにちょっと熱い様な気もする。
そういえば飲んだ時も、ちょっと喉が熱かったような気がした。
『エネルギー変換は・・・問題無く出来ている様だな。微量の発熱以外に変化はなさそうだ』
「大丈夫そう、ですか?」
『ああ。君の役に立たない可能性に少し焦ったが、これならば問題は無いだろう』
「そう、ですか。良かった、です」
『ああ、良かった』
ほっと安心する様な様子で語るガライドに、私も安心して息を吐く。
私の体のせいでガライドの頑張りが無駄になる事が無くて本当に良か――――。
『む、なんだ急に熱が・・・何だこの熱の上がり方は! グロリア、自覚症状はないのか!?』
「・・・少し、熱い、です、ね」
『冷静だな!? 熱の自覚はある様だが体はだるくないのか!? 痛みなどは!?』
「・・・んー、熱くて、ちょっと、ぼんやり、するような?」
『大事は無いのか・・・いや、すまないグロリア、少し魔力を使わせて貰う』
返事をする前に左腕が音を鳴らし、棒の様な物が出て来て私の体に巻き付きだした。
少し驚いたものの、暑いせいか反応が上手く出来ない。
それにガライドのやる事なら、焦る必要は無いだろう。なすがままになる。
「ひんやり、します・・・気持ち良い、です、ね」
『君の頑丈さを考えれば問題無いのかもしれないが、今君はかなりの熱を発している。常人ならば既に倒れていておかしくない。だが何故突然熱が・・・いや、薬が原因なのだろうが・・・』
「・・・薬を、飲んだから、ですか?」
『現状ではそう判断するしかないだろう。すまない。まさかこんな事が起きるとは思わなかった。自然に生まれたエネルギーではないせいだろうか。圧縮した事でエネルギーが変質してしまっているのか? グロリアにも受け付けないエネルギーが在ったという事か?』
「これ、駄目なん、ですか?」
『・・・ああ。こうなると破棄しなければいけない、かな』
ガライドがとても辛そうに喋っている。薬が使えなかったからだろうか。
折角ガライドが考えてくれたのに。私が熱くなったせいで困っている。
「それは、だめ、です・・・ガライドは、私の、為に・・・!」
頭が少しボーっとするけど、首や脇をを冷やして貰っているおかげで少しマシだ。
体も動いている。ちゃんと右腕の魔道具も自分の意志で動く。
なら飲めるはずだ。折角ガライドが作ってくれた物を無駄にしたくない。
「んっく」
『しまっ! グロリア、吐き出せ! それは失敗作だ! 君が負い目を感じる必要は無い!』
ゴクリと薬を飲み込む。すると喉が物凄く熱く、体の中を熱い物が落ちて行く。
お腹の中で熱の塊が弾ける様な感じがして、体中がさっきより熱くなって来る。
「が・・・あ・・・!」
『グロリア! 大丈夫かグロリア! 意識は有るか!?』
意識はある。そう言葉で応えたいけれど、上手く声が出ない。
頷いて返しながら、全身に力を籠める。熱い。体が、熱い。
―――――――――けれど力は、みなぎっている。
「はっ・・・あっ・・・!」
体の中の熱を吐き出す様に息を吐き、体を紅い光が包み込む。
『むっ、エネルギーが膨れ上がっている・・・?』
「ぎっ・・・!」
そして歯を食いしばり、本能のままにその力を自分に叩き込む。
何故そんな事をしたかは解らない。でもこれで良いと思った。
紅い光が全身を駆け巡り、少しずつ体から熱が抜けて行く。
『グ、グロリア!? 一体何を!? い、いやこれは、回復しているのか・・・!?』
「はあっ・・・! はあっ・・・! 楽に、なって、きまし、た・・・」
『た、確かに熱は急激下がっているが・・・これはこれで不安になる・・・!』
熱くて仕方なかった体の熱が引いて行く。ぼんやりした思考がはっきりして来る。
それと同時にお腹が膨れている事と、少しだけ体のだるさを感じていた。
いや、だるいだけじゃない。体中が痛い。なんだがギシギシする。でも、構わない。
「お腹は、膨れ、ました。この薬は、使え、ます」
『・・・馬鹿者。大馬鹿者。誰がそんな無茶をしろと言った!』
「っ、ご、ごめん、なさい・・・」
ガライドが怒っている。こんなに強くガライドに怒られたのは始めてだ。
その事がショックで、頭の中が真っ白になった。
だって、ガライドに嫌われたら、私は・・・!
『いや、違う。これは違う。私が君を怒鳴る権利はない。すまない。少々焦りで混乱していた。君は悪くない。悪いのは私だ。こんな半端な物を作ってしまった私だ。本当に・・・すまない』
「ち、違い、ます。ガライドの、言う事を、聞かなかった、私が・・・!」
『そうだな。その点に関しては君を叱るべきだろう。君の今回の行動は無茶だった。毒をものともしない君が熱を出したというのに、一気に呑み込むなど暴挙でしかない』
「・・・ごめん、なさい」
『だがそれでも、怒鳴るべきではなかった。君が心配だっただけ等とは言い訳に過ぎん』
ガライドの為と思ってやった事が、ガライドを心配させてしまった。
申し訳なくて唇をかみ、思わず視線を床に落とす。
『だがこうなると、また一から作り直しか。いやだがやはりエネルギーの変質は感じられない。一体何故こんな事になった。高濃度になると同じエネルギーでも処理しきれないのか?』
「・・・全部、呑んだ時、お腹から、体中に、熱が回る、感じが、しました」
『確かに一気にエネルギーが増えたのを感じた。変換自体は出来ているのだろう。だが普段との違いは何が・・・普段の食事でも微量に体温は上がっていたな。アレはまさかエネルギーの変換が理由での発熱なのか? 圧縮されたエネルギーを一気に変換したのが原因か?』
食事の時お腹が暖かい感じは、確かに少し覚えがある。
アレは魔力を溜め込む時の熱だったって事かな。
『そうなると、この薬は無駄という事になるな。圧縮した高濃度のエネルギーを変換する度に、先の様な発熱と苦しみが生まれる事になる。だがそうなると問題点が振出しに戻るな。血液を大量に保存するとしても、膨大な量をそのまま新鮮に保つ方法が在るか? いやだが・・・』
「私、これ、飲みます、よ」
『――――グロリア。先程の事を忘れたのか。飲む度にあの状態になるんだぞ』
「でも、何とか、なります。お腹が、空くより、良いです」
ガライドの頑張りを無駄にしたくない。その気持ちが未だにある事は嘘じゃない。
けれど、どれだけ苦しいとしても、魔力を満たせるならこの薬は使える物だ。
魔力切れを経験したから解る。あの状態になったらそれこそ何も出来ない。
「魔力切れに、なって、殺されるより、マシ、です」
『・・・そうか。そうだな。君はそういう人間だ。解った。薬自体は作るとしよう。おそらくこれに関しては、どう足掻いても改善は不可能だ。何せ発熱の要因が君の体質だからな』
「はい、ごめん、なさい」
『いや、謝る必要は無い。それに妥協案は有る。少量ならば発熱は抑えられるんだ。ならば消耗が少ない内に、少量を飲んで補給すれば良い。一気に使うのはいざという時だけだ』
「なる、ほど」
確かに最初の分程度なら、少し休めば治ると思う。
ガライドのひんやりした棒も気持ちよかった。
あれが無くても水でも被ってれば良いかな。うん、池か川にでも入れば良い。
『結局の所、無茶は出来ない、という結論になってしまったな』
「そう、ですね。きを、つけます」
『ああ、気を付けてくれ』
むんと気合を入れて、ガライドに応えた。
これで少しは、ガライドも気にしないでくれるかな。
『・・・・・・何をやっているんだ、私は。グロリアが無茶をしない訳が無いだろう。あの子はいざとなればこの薬を飲む。それこそ何本でも。これは・・・作るべきではなかったのか?』
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