第104話、総量増加

 翌朝はガンさん達が居るからか、皆揃っての朝食だった。

 とはいえ使用人さん達は別だから、皆とは言えないのかもしれない。

 私としては皆一緒の食事も良いと思うんだけど、それは駄目らしいから仕方ない。


「昨日の手合わせは窓から見ていたよ。いやはや良い物を見させて貰ったよ、ガン」

「あ、ど、どうも」

「グロリアも相変わらず素晴らしいね。ただ無理はしないようにね」

「はい、解り、ました。領主様」


 何だかやけにご機嫌な領主様に応えながら、美味しい朝食を食べ終わった。

 因みに王女様はガンさんの隣に陣取り、彼に沢山話しかけていた。

 ガンさんと仲良くなりたいという類の会話が多かったと思う。


「グロリア様は森に向かうという事ですので、本日はグロリア様に付いて行く事を諦めようかと思います。昨日の件で私が居ては邪魔だと理解しましたので、本日はガン様と共に居ようかと」

「は? 何それ聞いてないんですけど」

「では、ガン様、参りましょうか」

「え、あの、な、何で腕に抱き付く必要が有るんでしょうか」

「お嫌ですか?」

「い、いや、別に嫌って訳じゃ、ないんすけど」

「では宜しいという事ですね。嬉しいです」

「えぇ・・・」


 そんな風にガンさんと一緒に屋敷を出て行ったし。

 ガンさんは何故か戸惑っていたけど、仲が良くて私は嬉しい。

 何だかちょっとだけ、胸にもやっとした気持ちが在ったけど、何故かは良く解らない。

 自分でも不思議で首を傾げてしまった。


「じゃあ、いって、きます」

「はい。グロリアお嬢様。お気をつけて」


 リズさんにぺこりと頭を下げて告げ、屋敷を出て軽く走る。

 街を出るまでは危ないので抑えめに、街を出たら全力で駆けた。

 全力を出せばすぐに予定の場所に辿り着き、今日も崖を上って森へと入る。


 ただこの辺りは小さな魔獣が多いから、もうちょっと奥へ向かう為にまた走る。

 走って、走って、走って、暫く走り続けた所で、マップの赤い点に大きなものが出始めた。


『この辺りの個体であれば丁度良い。血の採取もそうだが、グロリアの食事も必要だからな。昨日の手合わせで魔力をそこそこ使ったのだし・・・いや、そういえば空腹感は有るのか?』

「そう、ですね・・・」


 昨日のガンさんとの打ち合いで、彼の攻撃に対処する為に何度か強く力を込めた。

 紅い一撃こそ大きく放たなかったものの、それでも纏う紅を力に変えて使っていた。


「少し、減ってる、ぐらい、でしょうか?」


 それでもそこまで空腹感は強くない。朝食を食べた後だからちょっと自信が無いけど。

 昨日の時点では少しお腹が空いた気がしたぐらいだから、多分間違ってないと思う。


『ふむ・・・ふむ?』

「どうか、しました、か?」

『いや、すまない。力を使ったのだから補充が必要だ、という考えのみでの発言だったのだが・・・よく考えれば、今のグロリアは以前なら満腹を超えている魔力量なんだ』

「そうなん、ですか?」

『ああ。だが空腹感があるという事は・・・許容量が変わったという事か? まさかこれだけ膨大な総エネルギー量がまだ増加している? 嘘だろう?』

「えと、良くない事、なんです、か?」

『いや、良いか悪いかで言えば良い事だ。自分で言うのも何だが私の使用の為には大きな魔力が必要だ。グロリアの魔力総量が増えるに越した事はない。君は普段の生活にも中々の魔力を消費している。その総量が増えるという事は、消費の心配を抑えられるという事になる』

「そう、ですか。なら、良かった、です」


 悪い事じゃないなら気にしなくて良いだろう。

 ただ前より一杯食べないと駄目なのは、ちょっと困ってしまうかな?

 いや、その分もっと奥の方で強い魔獣を食べればいいか。


『君の体の強さはその魔力の強さにある。だが燃費の悪さだけが欠点だな』

「欠点、でしたか・・・じゃあ、普段は、じっとして、ましょうか?」

『いいや。私は君が健康的に生きられる事を目標としている。その提案は認められない。君の人生を聞いた判断から、きっと君は意図的にエネルギー消費を抑える術が在るのだろう。だがその間は君の心が死ぬ。だからこそ、君は闘技場でのみ君を取り戻し、成長していたのだ』

「闘技場があったから、成長した、って事ですか」

『そうとも言えるが・・・私としては否定したい所だな。無い方が良かったに違いない』

「?」


 ガライドの言っている事がちょっとおかしい気がして、良く解らずに首を傾げる。

 成長したなら良い事だと思うし、闘技場が無かったら食事が無かったんだけどな。


『いや、今は良いか。そろそろ狩りの時間だ。来たぞ、グロリアの強さが解らん魔獣がな』

「はい、倒し、ます!」


 赤い大きな点が私に向かって来ている。結構大きな光だ。

 これを食べたら多分お腹が膨れるとは思う。


『グロリア、すまないが先ずは血の確保を優先させて欲しい。倒したら・・・そうだな、右足に血を入れよう。球体に注いでも良いのだが、いざという時にグロリアの傍にある方が良い。出来上がった薬は全て手足のどこかにストックしておこう』

「え、は、はい・・・」


 食べる気満々だったから、ちょっと気の抜けた返事をしてしまった。


『・・・すまん。食べたかったんだな。良いぞ、先に食べても』

「い、いえ、先に、お薬、つくりま、しょう。ガライドの指示が、優先、です」


 ガライドは何時だって私の為に考えてくれている。

 私にも譲れない時は偶に有るけど、それ以外は聞くべきだ。


『・・・いや・・・ああ、うん。そうだな。頼む、グロリア』

「はい・・・!」


 そしていつも通り、魔獣を視認した所で、地面を思い切り蹴った。

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