第101話、回復の効果
休憩しては数度打ち合い、休憩してはまた数度打ちあう。
何度かそんな事を繰り返して行く内に、段々お互いの動きに慣れて来た。
私は彼の潜って来るタイミングが、彼は私の打つタイミングが。
ただどうも、私の方が少し遅れている感じがする。
その理由は何となく解る。本人から聞いていないから間違っているかもしれないけど。
私の戦闘は頭で考えていない。今までずっと闘って来た感覚に頼っている。
手加減などの訓練も、頭よりも体に覚えさせるように何度もやった結果に過ぎない。
けれどガンさんは違う気がする。彼は常に頭を回して戦っているんだと思う。
私の動きを常に観察して、反射よりも予測で戦って、私の動きの先を行く。
だからお互いに慣れれば慣れる程、私が不利になって行くんだ。
けれど一つ。たった一つだけ、私が彼に勝てる要素がある。
「も、もう、だめ・・・」
ばたんと庭に体を投げ出し、ぜーはーと荒い呼吸をするガンさん。
対する私は大して呼吸も乱れておらず、両手足は未だ紅く光っている。
つまり魔力量という一点に関して、私は彼に絶対負けない。
『グロリア、ガンを回復してやると良い。前回のデータを参照するに、少しだが魔力も与えられるはずだ。効率が悪いのであまりお勧めはしないがな』
「はい、わかり、ました」
ガライドの言葉に従って倒れたガンさんの横にしゃがみ、彼の体に手を当てる。
そして回復を願って力を籠めると、紅い光がガンさんを淡く覆った。
そうして暫くすると、彼の呼吸が落ち着いて来る。
上手く行った事を確認して、私も手足の力を落とした。
ずっと光らせていたせいか、流石にちょっと疲れた感じがする。
いや、それよりもお腹が空いた、かな。
「うへぇ、マジか。疲労感も取り除くとかすげえな、回復魔法って」
「そうなん、ですか?」
私には未だ良く解らないので、ガライドに首を傾げながら訊ねる。
『魔力の切れかけから補填して貰った事で、疲労が回復した様に感じているだけだ。魔力切れは肉体の疲労よりも遥かに疲労感を感じる様だからな・・・いや、だがこれは魔力の譲渡分というよりも、その回復力で魔力も回復している所が大きいのか?』
「ええと、回復で、魔力も回復した、って事ですか?」
『そうなるな。ただし繰り返しは出来ないぞ。魔力・・・このエネルギーは人体の生命を支える力だ。消耗と回復を短時間に繰り返せば何が起きるか解らん。先ず肉体が消耗に耐えられずに崩壊するだろう。非常事態以外はきちんと休む方が良い』
ほ、崩壊? ガンさんが!?
「ガ、ガンさんは、大丈夫、ですか!?」
『落ち着けグロリア。繰り返せばと言っただろう。一度ならば問題無い。ただ今日はもう、魔道具を使うのは止めておいた方が良いな。良く食べて、良く寝て、自然回復に努めるべきだ』
「よ、よかった・・・」
ホッと息を吐いて安堵する。私のせいでガンさんがひどい事にならなくて良かった。
「え、な、なに、俺どうなるの?」
「あ、ごめん、なさい。大丈夫、です。でも、今日はもう、休まないと、駄目、みたいです」
「ええと・・・俺が、だよな?」
「はい。何回も、回復すると、ガンさん、崩壊するって、言われました」
「こっわ! 休む! 俺もう今日は何もしない!」
震えるように体を抱きながら、休む事を宣言するガンさん。
なのでこれで鍛錬は終わりと判断され、リーディッドさんが解散を告げている。
その言葉に従い兵士さん達も使用人さん達も解散し、リズさんだけが残った。
「グロリアお嬢様、お疲れ様です。お水をどうぞ」
「ありがとう、ござい、ます。でも、ガンさんに、先にあげて、下さい」
「承知いたしました。ガン様、どうぞ」
「あ、ああ。ありがとうございます」
ガンさんは少し緊張しながら、リズさんからコップを受け取って水を飲む。
「ぷあはぁ! あー生き返る。つーか汗だくで気持ちわりぃ・・・風呂行くかぁ」
「では湯の用意を致しますね」
「え、いや、俺は街の浴場で――――」
「グロリアお嬢様もお湯の用意を致しますので、少々お待ちくださいね。あ、お水はここに置いておきますので、ご自由にお飲みください。では」
リズさんはガンさんの返事を聞かず、スタスタと屋敷へ向かって行った。
「・・・えぇ。あの人何で俺の話聞いてくれねえの?」
「聞いてない、訳じゃ、ないと思うん、です、けど・・・」
『私も多分、ないがしろにした訳ではないと思うが・・・少々自信が無いな』
リズさんの事は未だに私も良く解らないので、はっきりとは答え難い。
良い人、なのは間違い無いんだけど、色々掴みきれない人だと思う。
そう二人で困惑していると、リーディッドさんとキャスさんが近付いて来た。
「リズなりの労いだと思いますよ。アレは」
「あ、リズさんのアレ、ガンの意見をただ無視してた訳じゃないんだ」
「ただ無視するつもりなら、グロリアさんだけ連れて行って風呂の用意してますよ」
「あー、成程露骨に違うねぇ。こりゃーガンのモテ期が到来かぁー?」
「それは無いと思います。リズは絶対ガンには惚れないです。断言出来ます。ガンみたいなタイプは絶対無理ですよ彼女。ごめんなさいって言われるのが落ちです」
「ガン、どんまい。明日が有るよ・・・!」
「何で俺は勝手に振られて勝手に慰められなきゃいけないの? おかしくない?」
そっか、アレは労いだったんだ。リーディッドさんが言うなら間違い無いよね。
なら心配しなくて良いかな。ガンさんの事が嫌いとかじゃないなら良いや。
「素晴らしい・・・!」
その声に、その場に居た全員が顔を向けた。
皆の視線の先に居るのは王女様。ただ彼女目は、大きく見開かれていた。
な、何かちょっと、怖い。ど、どうしたんだろう。
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