第102話、価値
「ガン様」
「は、はい。な、なんですかね」
王女様は座り込むガンさんの傍に立つと、腰を曲げてずいっと顔を近づける。
もう少し近付けば鼻が当たりそうな距離で、ガンさんは驚いたのか仰け反った。
けれど王女様はそんな彼へ更に近付き、手を取ってまた顔を寄せた。
「貴方は素晴らしい。国の宝です」
「へ?」
「なぜ貴方の様な方が燻っていたのか。貴方の価値を誰も認めていないのか。私には全く解りません。私は貴方を最大限に評価します。いえ、貴方は評価されなければいけない人です!」
「え、ちょ、お、王女様?」
王女様は凄く熱のこもった様子で彼を誉め、褒められている本人は困惑している。
ただそれを聞いている私は嬉しい気持ちになっていたりする。
私が大好きなこの人を、王女様も好きになってくれているみたいで。
「貴方はご自分がどれだけ凄い事をやっているのか自覚が無いのでしょう。ならば私が貴方に語りましょう。貴方がどれだけ素晴らしい人なのかを! どれだけの価値が在るのかを!」
「待って待って。王女様落ち着いて。ちょっと怖い」
興奮した様子で詰め寄る王女様に、じりじりと下がって逃げるガンさん。
ただ逃げるだけ王女様が詰め寄るから、全く距離は取れていないけど。
そもそも王女様はずっとガンさんの手を握っていて、ガンさんも振り払ってないし。
「なぜ逃げるのですか、ガン様」
「だから何か怖いんですって・・・!」
「私など貴方の前ではただの小娘です。貴方が少し本気で力を入れればこの手など一捻りです」
「いや、そんな事出来る訳無いじゃないすか・・・」
「貴方は優しい方ですね。尚の事をこの手を放したくなくなりました・・・!」
「リーディッド、キャス、助けてー!」
『お前、年端も行かない娘に圧されて助けを求めるとか、情けなさ過ぎるだろう・・・』
詰め寄る王女様が怖くなったガンさんは、とうとう助けを求めた。
その声に応えてキャスさんが動き、王女様を背後から抱えた。
「王女様ー。気持ちは解るけど、ちょーっと落ち着こう。嫌われちゃ元も子もないよー?」
「・・・そう、ですね。興奮の余り我を失っておりました」
「ん、良い子良い子ー」
「・・・貴女、気安く私の頭を撫でますね」
「ん、嫌だった?」
「いえ、むしろ悪くない気分です。褒められる事が少ないので」
「じゃーもっと撫でてあげよう。うりうりー」
「いえ、あの、撫でるのは良いんですけど、髪を崩すのは止めて下さい・・・!」
王女様は落ち着いたのか、キャスさんにわしゃわしゃと頭を撫でられながら下がった。
それを見届けたガンさんはホッと息を吐き、立ち上がってこっちに戻って来る。
「びっくりしたぁ・・・どしたの王女様。何であんなに興奮してんの」
「当り前でしょう。あんなものを見て貴方を欲しいと思わない貴族など滅多に居ませんよ」
「・・・俺が倒れて終わりなのに?」
「貴方はグロリアさんと、古代魔道具と打ちあえていた。この時点で貴方の価値はかなり高い。少なくとも王女様にとっては体を使ってでも誘惑する価値があります」
「えぇ・・・けど打ち合えただけで、どう足掻いたってグロリアには勝てないぞ?」
「打ち合えるだけで十分ですよ。むしろ常識的に考えれば異常です」
『・・・成程。侮れないのは『魔道具使い』というよりも『ガン本人』という事か。いや、勿論ガンという例が存在する以上、他にもそのレベルの魔道具使いが要ると思うべきだが』
ガライドの言う事は尤もだと思う。私はガンさんより前に主に会っているから余計に。
ただ多分、そこまで強い人は少ないんだろう。
でなければ私が何時までも闘技場で戦い続けられた理由が解らない。
私より強い人が沢山居たなら、主に会うよりもっと前に私は負けていたはず。
勿論何処かで同じぐらいの人に会う事は、ちゃんと気構えておいた方が良いとは思うけど。
次は絶対に、負けない為に。そう心に強く決めて、拳を握り込む。
「グロリア様」
「え、は、はい、何ですか、王女様」
突然声をかけられて少し狼狽えつつ、王女様へと目を向ける。
彼女はもう興奮が収まったらしく、何時もの笑顔で近付いていた。
「興奮の余り貴女への言葉も忘れておりました。申し訳ありません。貴方はまさしく古代魔道具使い。もし貴方さえよければ、今後も平穏の為にお力添えを願えればと思いますわ」
「平穏の、ため、ですか」
「ええ。お互いの平穏の為、この国の、この街の、貴女の友の平穏の為に」
国まで言われると解らないけど、街と友達の為なら当然手を貸す事は構わない。
それで皆が平穏で居られるのなら、私の力程度幾らだって使ってみせる。
「みんなの、為、なら。頑張り、ます」
「ありがとうございます。そのお言葉が頂けただけで、この街に来たかいがありました」
王女様は嬉しそうに、心から嬉しそうな笑顔でそう告げた。
そんなに私の力が必要だったのかな。
「王女様も、友達、です、から。手を、貸します、よ」
「―――――はい、ありがとうございます」
ん、気のせい、かな。今一瞬、困った顔になった、様な?
『・・・今の表情を見るに、一面だけを見て決めるのは早計なのだろうな。エシャルネを見抜けなかった事を考えれば、今の表情が本物かどうかも、まだ疑うべきであろうが』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます