閑話、ガンの奔走

「グロリア! 意識は有るか!?」


 慌ててグロリアに駆け寄るも、彼女からの反応は無い。

 おそらく魔力の使い過ぎだろう。あれだけの力を使えば当然だ。当たり前だ。

 下手に手を出すと邪魔になると思ったが、んな事考えず最初から手を出せば良かったか。


「いや、森の中で倒れなかっただけ良しと思うか」


 グロリアを抱き抱えながら、一番起きたら不味かったであろう事を呟く。

 それを懸念していたからこそ、森の狩りに付いて行ったんだしな。

 こうやってすぐ助けに向かえる状況なだけ、良かったと思うしかない。


「少し堪えてくれよ。すぐに助けてやるからな・・・!」


 光剣に魔力を微量に注ぎ、身体強化を維持したまま走る。

 取り敢えずギルマスに軽く事情を伝えておかねえと。


「ギルマス。グロリアが魔力切れで倒れた。俺はこのまま急いで薬を貰って来る。あとあっちで今回の犯人を縛ってるのと、リーディッドとキャスが監視してるから」

「解った。グロリアはお前に任せる。治療が終わったら――――」

『待てガン。それではグロリアの回復には不十分だ』

「「「「「!?」」」」」


 ギルマスの元へ辿り着き、返事を聞いたらすぐにその足を踏み出そうと思っていた。

 けれど突然何処からか聞き覚えの無い声が聞こえ、その場に居た殆どが周囲を見渡す。

 ただ俺は何故か、グロリアが『ガライド』と呼ぶ奴だとすぐに思った。


「おまえ、本当に喋れたん、だな」

『驚く場所が少々ズレている気がするが・・・まあ良い。ガンの予想通りグロリアは魔力切れ。その為の薬が在るのは知っているが、アレはグロリアには足りん。効かぬとは言わないがな』

「じゃあどうすれば良い。手遅れになる前に教えてくれ」

『簡単な話だ。グロリアは魔獣を食べて回復する。新鮮な魔獣の血肉でだ。そしてそれは強ければ強い程効果が有る。ガン、お前ならば解るだろう。グロリアと共に森に入ったお前なら』


 森に一緒に入った時・・・グロリアは回復の為に魔獣を食べていると言った。

 そういう特殊な体質なのだと、確かに言っていた。

 なら魔力回復の為の薬よりも、魔獣を直接食わせた方が余程早いのか!


「解った。ギルマス、グロリアを頼む。取り敢えず領主館へ連れてってくれ」

「え、そ、それは良いが、オマエはどうするんだ?」

「魔獣を狩って来る!」


 ギルマスにグロリアを預け、端的に答えて足を踏み出す。

 長々喋っている時間が惜しい。早く狩って帰る!


『ガン! 血抜きはするなよ! 今のグロリアは意識を失っている以上、食事という形は難しい! 血を飲ませるしかない! 出来るだけ体内に血を残して持って来い!』

「解った!」


 と答えたものの、あの魔道具は凄い無茶を言うな。どうやってもってくりゃ良いんだよ。

 新鮮な血を持って帰らなきゃいけなくて、けど仕留めると血肉は時間と共に悪くなって行く。

 となると方法は二つ。生け捕りか、仕留めて即行持って帰るかだ。

 

 生け捕りは出来るかもしれないが、連れて帰って万が一が有ったら事だ。

 なら出来るだけ急いで持って帰るしかねぇ。少し無茶するしかないか。


「キッツいな。体、もつかな」


 思わず泣き事を言ってしまうが、やらないって選択肢はない。

 だがこうなると俺一人じゃ厳しい。二人の協力が要る。


「キャス! リーディッド!」

「え、ガン、ど、どしたの、何かあったの?」

「悪い、手を貸してくれ。魔獣を狩りに行く」

「・・・グロリアさんの為ですね?」

「正解。リーディッドは察しが良くて助かる。つー訳で悪い」


 リーディッドが答えた事でキャスもハッとした表情を見せ、二人とも納得したのを確認。

 なので良いかと訊ねずに二人を脇に抱え、そのまま森に向かって走る


「きゃ!?」

「・・・後で覚えてなさいよ、ガン」


 二人の視線が怖いが今は気にしない方向で行こう。

 此処から一直線に向かうには、前に登った程じゃないが壁があったはずだ。

 その壁の前に辿り着いたら、光剣に注ぐ魔力を増やす。

 普段の量じゃ足りない。思いっきり注がないと飛び上がれない。


「二人とも口閉じてろよ!」


 そして全力で飛んで壁の上に登り、二人から手を放した。

 ぼてっと地面に落ちた二人から視線を切り、光剣を構えて警戒をする。


「索敵頼む!」

「・・・ガンが人は良いんだけど男性として好きになれないって評価、今改めて納得した」

「同感です。いかんせん女性に対する気遣いが欠けています」


 いや、あの、二人共、今急いでるんだけど。

 何で俺への酷評が始まってんの。お願いだから早く索敵して。


「ガン、来てますよ。向こうです。此方を狩りに来たつもりの様ですよ」

「うん、隠れずに一直線に向かって来るね。二体きてるからね」


 あぶねぇ。口に出さなくて良かった。もし出してたらさらに責められてた気がする。

 指示された方向に目を向け、二体の魔獣を相手にするつもりで構える。

 魔獣を視界に捉えた瞬間光剣の力を全開にして、二体とも一撃で仕留めた。


「ぐっ・・・くつ・・・!」


 やべ、キッツい。流石にちょっと力を注ぎ過ぎた。気分悪い。

 こっから帰りも急がなきゃいけないってのに。

 でもあれぐらいの力じゃなきゃ、二体相手に速攻は無理だった。


「よ、良し・・・か、帰るぞ・・・!」

「ガン、これ飲んどきなさい」

「んぐっ!? んっく、げほっ、まじぃ・・・リーディッド、なにこれ・・・!」

「魔道具使い用の魔力回復薬ですよ。全く、貴方が倒れたら話にならないでしょうに」

「・・・これが有るなら、何でグロリアが倒れた時に言ってくれなかったんだ」

「倒れた以上は医師に見せた方が良いと思ったまでです。素人判断で薬を飲ませて様子を見るよりは、貴方の足で街に連れて行った方が良い。そう判断しただけですよ」


 確かにそれもそうか。医者に見せた方が一番良いわな。

 今回はあの魔道具が居たから、こうやって魔獣を狩る形になっただけで。

 それにしても不味い。この魔力回復薬は舌に残る。

 しかも別に一気に回復するわけじゃないんだよなぁ。まあ無いよりはマシか。


「良し、念の為二体とも持っていくか。んで二人は悪いけど、俺に抱き付いててくれ」

「振り落とされたらガンを一生呪いますからね」

「私は子々孫々呪ってやる」

「お前ら怖いよ!」


 二人に呪い殺されない様に気を付けて、一番近くの高い木に飛び乗る。

 当たり前の様に木の枝は重みに耐えられなかったが、折れる前に別の木へ。

 それを数回繰り返して下に降り、そのまま全力で領主館へ走った。


「リーディッドお嬢様! グロリアお嬢様は今お部屋で医師が見ております!」

「解りました。ガン、行きますよ」


 屋敷に着くと門の前に使用人が居て、端的に情報を伝えて来た。

 その為にずっと待っていたんだろう。リーディッドもそれに応えて俺を呼ぶが・・・。


「ご、ごめん、俺、もう、だめ・・・」


 ここで限界に来た。光剣はその光を消し、俺は魔獣と二人の重みで潰される。


「ぐえぇ・・・お、重い、た、助けて・・・」

「女性に重いとは何て失礼な! 世の誰が許してもこのキャスは許しません事よ!」

「キャス、流石に今はふざけるのは無しにしましょう。本当に限界みたいですから。それにグロリアさんに早く魔獣を届けないと」

「ん、ごめん。そうだね、今回は流石にふざけ過ぎた」

「な、何でも、良いから、早く退いて・・・俺の上で話さないで・・・」


 冗談じゃなく重いんだって。折れる折れる。どこかの骨が折れるから・・・!


「私は兵士達と共に。魔獣を運びます」

「じゃ私はガンを休ませに行くねー。ほらガン、肩貸してあげるから。立てる?」

「ううっ・・・なん、とか・・・体中痛い・・・」


 キャスに肩を貸して貰いヨタヨタと歩を進め、どこかの部屋に案内された。

 ベッドに転がるようにと言われたが、やたら高そうなベッドに少し気後れする。

 ただ大きな椅子が有ったから、そっちで休ませて貰う事にした。


「私はグロリアちゃんの様子見てくるから、ガンは休んでなね」

「わか・・・たあ・・・あと・・・たのむ・・・」

「はいはい。お疲れ、ガン。頑張ったね。ほんと、人に無茶するなって言いながら、コイツは」


 意識が朦朧とした状態で答える俺の頭を、キャスが撫でて行ったような気がした。

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