第41話、拒否

 ガンさんを回復させたらしい後、フランさんが慌ててギルマスを呼びに行った。

 他の人達も少し慌てている様子で、けれど私は良く解らずオロオロしている。

 ただ少しすると奥の部屋からギルマスが出て来て、困った様な顔で近付いて来た。


「グロリア、回復魔法を使ったってのは本当か?」


 ギルマスさんが真剣な様子で私の前にしゃがみ込み、目線を合わせて訊ねて来る。

 とは言われても、私には良く解らない。そもそも何であんな事になったのかも解ってない。

 光らせようと思って光らせた訳じゃないし、気が付いたら回復させてしまっていた。


『ふむ、先程の力を現代に合わせて呼ぶのであれば、確かに『回復魔法』と呼ぶのだろう。人体の自己回復能力を一時的に向上させ、回復速度を上げる事で治癒した形だがな。だがキャス達が『魔法』を使っていた以上、そこまで騒ぐ事とも思えんのだが・・・』


 どうやら回復魔法を使ったという事は間違い無いらしい。

 私には良く解らなかったけど、ガライドがそう言うならきっとそうなんだろう。


「そう、みたい、です」

「みたい・・・って、どういうこった。使おうと思って使ったんじゃないのか?」

「ガンさんが痛そう、だったから、どうにか出来ないかなって、思ってたら、出来ました」


 だから私には魔法を使った感覚が無い。勝手にガライドが光った感覚だ。

 そもそもあの紅い光は私の力じゃなくて、ガライドの力だと思っている。

 だって闘技場で何度闘っても、私にあんな事は出来なかったから。


 ガライドは前に、魔力が無いと紅い光は使えないと教えてくれた。

 その魔力は私の物らしくて、けれど私の力じゃないと思っている。

 多分ガンさんの『光剣』と同じで、魔道具の力なんじゃないかな。


「多分、ガライドが、やって、くれたんだと、思います」

「ガライド? その魔道具の事か? まさかこの魔道具は回復魔法まで使えるのか」

『勿論機能として確かに有るが、これはどういう事にしておくのが正解か・・・少々情報が足りんな。今までの生活から、あの程度は特に問題無いと思っていたのだが・・・』


 私が状況を説明すると、ギルマスさんは額に手を当てて眉間に皴を寄せた。

 けれど私はその理由が良く解らず首を傾げ、ガライドも不思議そうに呟いている。

 するとリーディッドさんが立ち上がり、大きな溜息を吐きながらギルマスさんに顔を向けた。


「取り敢えず、あの人に報告してきますね、ギルマス」

「あ、ああ。悪い。頼んで良いか、リーディッド」

「ええ。私が直接行った方が話が早いでしょうからね」


 彼女は手をひらひらと振って出て行き、姿が見えなくなるとまた私に視線が集まった。

 ただ誰も何も言って来なくて、それが余計に不安になる。

 私は何かいけない事をやったのかな。もしかして怒られるのかな。痛いのは、嫌だな。


「あー・・・多分グロリアは自分がどんな凄い事をやったのか、解ってないん、だよな?」

「すごい、こと、ですか?」

「うん、その反応で良く解った。解ったからこそ困ったなぁ。単純に戦闘能力の高さならまた話は違ったんだが、回復魔法も使える魔道具となるとな・・・」

『やはり『魔道具』に治癒機能が有ると何か問題が有るのか?』


 ギルマスさんが困った顔で私の両腕を、ガライドを見て溜め息を吐く。

 見られているガライドも解っていない感じで、当然私も首を傾げるしか出来ない。


「グロリア、取り敢えずリーディネットが来る前に少しだけ説明しておくな」


 どうやら説明してくれるらしい。

 ただ領主さんが来るまでにって事は、元々用事があったのかな。

 良いのかな。気にはなるけど、忙しいなら邪魔はしたくないんだけど。

 けどしてくれるって言ってる事を断ると、それはそれで嫌がられてしまうかな?


「先ず回復魔法ってのはな、使える人間が凄まじく少ない。それが使えるだけで生きてける才能だと言って良い。ただ、そんな回復魔法と同等の事が出来る魔道具も、存在しない訳じゃない」

『・・・回復魔法が才能という点は解るが、魔道具が有るならば何が問題なんだ?』


 どうしたら良いか悩んでいる内に、ギルマスさんは説明を始めてしまった。

 そしてガライドが先を聞きたそうなので、もう大人しく私も聞く事にする。


「けどそんなのは国宝級の魔道具だ。国が管理して統治者が有事に使うレベルの道具だ。それを一個人が、貴族でもない小娘が持ってるとなると・・・取り上げられる可能性が有る。勿論前に言った通り古代魔道具の使い手は貴重だ。だが回復魔法となると、どういう反応をするか」

『・・・成程、そういう事か。それは確かに面倒だ』


 ――――――――ガライドを取り上げられる?


「いや、です」


 反射的に言葉が出た。何時もの様にゆっくり悩む事は無かった。

 ただ嫌だと、兎に角嫌だって気持ちだけが、そのまま言葉になった。

 そして言葉にしたせいか、余計に胸の内にもやもやした気持ちが浮かんで来る。


「ガライド、は、渡しま、せん。誰にも、絶対に・・・!」


 その感情のままに言葉を続ける。胸に収まらない気持ちが拳に籠る。

 自分の物じゃない手がギリッと鳴り、薄く紅く光始める。


「お、落ち着けグロリア! 取り上げない! 俺達だってそんな事をしたい訳じゃない! 取り敢えず落ち着いてくれ! ここでお前が暴れたら余計面倒な事になる!」

『グロリア、気持ちは嬉しい。だが今は落ち着くんだ』

「―――――っ」


 ギルマスさんとガライドに止められ、はっとなって無意識に俯いていた顔を上げる。

 すると紅い光はすぐに消えて、ただ胸の音がやけに煩くて落ち着かない。

 胸の内の苦しさも消えてなくて、どうしたら良いのか解らない。


「グロリア・・・大丈夫、大丈夫だ。どうにか、どうにかするから」

『そうだ。私は君の相棒だ。けして離れるものか。だからそんな辛そうな顔をしなくて良い』

「・・・はい。わかり、ました」

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