第42話、秘匿
今私はしょぼんとしながら、ギルドの端っこの椅子に座っている。
ただ落ち込んでいる理由は自業自得でしかない。
ガライドを取り上げられると言われ、我を無くしてしまった。
違う。かもしれないって話だ。実際に取り上げられると言われた訳じゃない。
なのにギルマスさんの様子も、周りの様子も見えなくなって、紅を纏ってしまった。
もし二人が慌てて止めてくれなかったら、私は一体何をしていたんだろう。
そう思うぐらい、さっきは感覚がおかしかった。明らかに何時もと違った。
初めて紅い力を纏った時も、二度目の時も、私は『力を使っている』感覚は有ったと思う。
だから自然と攻撃に使えたんだと思うし、二度目も何も考えずに打ち出せた。
勿論どちらも気分が高ぶる感じは有ったけど、それでも何処か冷静だったと思う。
ちゃんと敵を見て、敵を倒す事が、頭にあった。けどさっきは敵なんていない。
じゃあどこに力をぶつける気だったのか。ぶつける所なんて何処にも無いのに。
ならもしかしたら、あのまま、全方位に力を――――――。
「グロリアちゃーん。お茶をどうぞっ!」
「っ・・・ありがとう、ござい、ます」
フランさんに声を掛けられ、ビクッと背筋を伸ばして彼女に顔を向ける。
その手にはお茶の入ったカップが有り、そっと私の前に置いてくれた。
今少し、怖い考えになっていた気がする。この考えは、止めておこう。
次はこんな事をしない様に、落ち着いて話を聞く様に気を付ける方が優先だ。
そう思いながらカップに口を付けてお茶を啜り、優しい味と暖かさにホッと息を吐く。
「おいしい・・・」
思わずそんな言葉が漏れ、へにゃっと体の力が抜けたのが解る。
するとフランさんはクスクスと笑い、私の頭を撫でながら隣に座った。
「私のお茶でご機嫌が治りましたか?」
そしてプニプニと私の頬を指で突き、そこで今更気が付いた。
このお茶は私に気を使ってくれた物だったんだと。
落ち込む私を見かねて、美味しい物を飲ませれば気分も治るだろうと。
その優しさが嬉しいと同時に、気を遣わせた申し訳なさも覚える。
けれどここで暗い顔をしてしまうと、折角の気遣いを無駄にするだろう。
なら素直にお茶を飲んで、笑っている方がきっと良い。
「はい、なおり、ました」
「ふふっ、なら良かった。あ、お代わりも有りますよ?」
「じゃあ、飲み終わったら、もらえ、ますか?」
「はいはい、勿論ですよー♪」
フランさんはとても優しい。ううん、彼女だけが優しい訳じゃない。
この街の人は、皆が優しいんだ。それはギルマスさんだって変わらない。
ガンさんとキャスさんも心配そうな顔で、何時までもあんな顔をさせちゃいけない。
・・・うん、落ち着いた。もうさっきの変に高ぶった感覚は無い。
そこでふと、何か違和感がある事に気が付いた。
落ち込んでいる時は気が付かなかったけど、心が平常に戻ると違和感がある。
さっきからガライドが一言も喋らない。何時もならもっと喋っている気がするんだけど。
「・・・ガライド、もしかして、怒ってますか?」
だから少し気になって、テーブルに転がるガライドに声をかけた。
普段は横でフワフワ浮いているのに、今は何故かテーブルの上だ。
ただ私が声をかけると、ガライドはふわっと浮きあがった。
『すまない。何か勘違いをさせてしまったか。ううむ、やはり気遣いという点が難しいな。気落ちしている様に見えたので、今は変に声をかけない方が良いかと思ったんだ』
「・・・そう、ですか」
怒ってる訳じゃないなら良かった。うん、やっぱり、ガライドも優しい。
「ありがとう、ござい、ます」
『礼を言われる事は出来ていない。君の機嫌が良くなったのは彼女のおかげだ』
ガライドはキュルっとフランさんに向き、彼女はその様子に首を傾げている。
いや、ガライドにというよりも、私とガライドにだろうか。
視線を何度か往復させた後、また不思議そうに首を傾げているし。
「んー、グロリアちゃん、答えたくなかったら答えなくて良いんですけど」
そしてそんな前置きをして、彼女はピシッと背筋を伸ばして私に目を合わせた。
真剣な表情に私も緊張した気分になり、彼女に体ごと向けて言葉を待つ。
「グロリアちゃんって、魔道具と・・・えっと、ガライド君? と話してますよね」
「はい、話して、ます」
「それはその・・・お返事は有るんですか?」
「はい。あり、ますよ。何時も、色々、教えてくれます。助かって、ます」
ただ真剣な表情の割りに、何で今更そんな事をと思う質問だった。
思わず少し首を傾げたものの、そういえばガライドの声は聞こえてないと思い出す。
何故かは解らないけれど、ガライドは私にしか聞こえないようにずっと話しているんだ。
「・・・それは、グロリアちゃんにしか、聞こえない感じなんですか?」
「えっと・・・どう、なん、でしょう?」
私以外にも聞こえる様にした事が無いから、私には判別が付かない。
なので視線をガライドに向けて訊ねると、彼女も私と同じ様にガライド見つめた。
『そう、だな・・・全員に聞こえる様には出来る。出来る、が、出来ないと伝えて欲しい』
「・・・わかり、ました」
ただその答えに更に首を傾げてしまいつつも、反論はせずに頷いて返す。
嘘を伝えるのは少し抵抗が有るけど、ガライドがそう言う以上は理由が有るんだろう。
「聞こえない、らしい、です」
「成程・・・うーん、そうですねぇー・・・」
ガライドに言われた通りに伝えると、フランさんはまた少し悩む様子を見せた。
どうしよう、悩ませてしまった。凄く申し訳ない気分になる。
困った気持でガライドに目を向け、ただふと気が付くと他の人達も私を見ていた。
その中にはギルマスも居て、少し目が鋭くなっている。
嘘を吐いた事が解っていて、怒らせてしまったのだろうか。
そう思い少し不安になっていると、彼は近付いて来て私の前にしゃがみ込む。
「グロリア、さっきの回復魔法は魔道具の力って言ったよな」
「え、と、はい」
「つまり魔道具が拒否したら、回復魔法は使えねえって事だったりするのか?」
確かに。それはそうだと思う。だって二度目に紅を纏った時、ガライドはその光を消した。
つまり回復魔法でもきっと同じ事が出来る訳で、ギルマスさんのいう事は正しいはず。
『そうだな、それが良い。グロリア、肯定してくれ』
「はい・・・えっと、ガライドが、そうだって、言ってます」
今度は本当の事だから、特に戸惑いもなく答える事が出来た。ちょっとホッとしてる。
するとギルマスさんは目を瞑って悩みだし、少ししてパンと膝を叩いて立ち上がった。
「本物の古代魔道具の性能を知ってる奴なんてほぼ居ねぇ。つまり今のグロリアの言葉が真実か嘘かも判別できねえはずだ。となれば魔道具が能力以外で人を選ぶという点は、無視出来ねぇ事柄だよな。これで押せば行けるか・・・?」
『流石ギルマス。思っていた通りに話を進めてくれたな』
・・・良く、解らないけれど、ガライドが嬉しそう?
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