第40話、回復魔法

「あ、グロリアちゃん、おかえりなさーい!」

「ただいま、です。これ、今日の分、です」


 日が暮れる前に森を出て傭兵ギルドに戻ると、フランさんが笑顔で出迎えてくれた。

 それは何時もの事なのだけど、その何時もの事が嬉しい自分を最近自覚している。

 胸にポカポカした気分を覚えながら、今日持って帰って来た分をギルドの受付に置く。


「今日も大量ですねぇー。ではお姐様方、運搬宜しくお願いします!」

「はいはい。ったく、偶にはアンタも手伝いなさいよ」

「そうそう、そんなんだから小さくてひょろっちくて胸も無いのよ?」

「身長と胸のサイズに腕力は関係無いですーだ!」


 女性の職員さんは私の持って来た物を何処かに運んで行く。

 倉庫が有るらしいけど、そこに保管する前に何かの処理をするとか聞いた。

 私が持って来た物そのままだと、色々と問題が有るとか何とか?


「で、ついでに後ろのお三方、今日は如何でしたー?」

「俺達はついでかよ」

「ぶーぶー、フランちゃん最近つめたーい!」

「フランは元からそういう人でしょう。危なくなったら一番に逃げるタイプですし」

「まっ、失礼な。人を非道な人間みたいに。まあ事実私は真っ先に逃げますけど」

『実際非戦闘員が戦場に残るよりは、避難した方がやり易いな』


 冷たい、のかな。いつも笑顔で優しい人だと思うけど。手もあったかい。

 ガライドもその方がやり易いって言ってるし、きっと間違ってないと思う。

 私もフランさんに危ない事はして欲しくない。怪我をして欲しくない。


 なんて思いながらポヤッとしていると、三人は近くの椅子に腰を下ろした。

 キャスさんがおいでおいでと手招きをするので、私もトテトテと近付いて傍に座る。

 すると抱えられて膝の上に座らされた。何で皆私を乗せたがるんだろう。


「いやぁ・・・足手纏いだったな。それはもう見事に」

「一瞬でグロリアちゃんの事見失っちゃったもんねぇ。アレはびっくりした」

「私は最初から予測してましたけどね。二人と違って」


 多分三人が言っているのは、私が先走ってしまった時の事だ。

 慌てて戻って合流してからは、あんまり離れないように気を付けた。


 ただ足手纏いとガンさんはいうけれど、別にそんな事は無かったと思う。

 だって彼は強かった。思っていた以上に強かった。

 ガンさんなら多分私を斬れる。そんな彼を足手纏いとは言えない。


「あはは、おおむね予想通りって感じみたいですねー。まあガンさんとグロリアちゃんを比べるのは可哀そうですよ。グロリアちゃんと比べると全然強くないんですから」


 だからフランさんがそう言った時、思わず口を出してしまった。


「ガン、さんは、強かった、です。凄く、強かった、です。怖い、ぐらい」


 これは心からの本心だ。ガンさんの強さは怖い。あの『光剣』の事は怖い。

 それはきっとガンさんが強いから。私を殺して食べられるぐらい強い人だから。

 彼が弱いなんて在り得ない。私と比べても弱くなんかない。


「ガーン、グロリアちゃんが怖がるって、一体何したのよアンタ」

「そうそう、この子が怖がるって相当でしょ」

「場合によっちゃ骨の10本や20本は覚悟しなさいよ」

「怖えよアンタら! せめて1,2本だろ! いやそれでも怖いけど!」


 すると私が怖がった事を、何故かガンさんが悪いと言われ始めてしまった。

 本当に何故そうなったのか解らず慌ててしまい、けれど何と言えば良いのかも解らない。

 為すすべなくワタワタと慌てていると、リーディッドさんがため息を吐いてから口を開いた。


「ガンの『光剣』ならグロリアさんを倒せるそうです。だからあれを使って戦っているガンを見て、思わず身構えてしまったそうですよ。自分を倒せる脅威が怖いと」

「はえー。ガンさんの魔道具ってそんなに強かったんですか」

「そういえばフランちゃんは見た事無いんだっけ。魔道具使ってる時のガンは普段と違って格好良く見えるよー。多分普段が格好悪いからだと思うけど」

「だから何でお前らは素直に俺の事を褒めてくれないの?」


 二人の説明のおかげか、ガンさんの誤解は解けたらしい。

 皆「なーんだ」と言いながら散開して行った。

 ただガンさんは肩を強く掴まれたせいか、痛そうにさすっている。


「大丈夫、ですか?」

「ん、ああ、大丈夫大丈夫。割と何時もの事だから」

『・・・これを何時もの事と言うのは、若干マヒしていると思うぞ、ガンよ』


 ガンさんは大丈夫というけれど、ガライドがこう言うならきっと大丈夫じゃない。

 そう思うと余計に心配になって来て、ガンさんの手を握って彼を見上げる。

 どうにかしてあげられないかな。そんな風に思いながら。


「っ!」

「な、なんだこれ、え、ホントに何これ!?」


 すると唐突にガライドが薄く紅く光り出し、その光がガンさんに流れ込んで行く。

 ガンさんはその様子に慌てるも、暫くすると紅い光は消えて行った。

 ふと周りを見ると、他の人達もみんな不思議そうな顔で見つめている。

 ただ私にも何が起こったのか良く解らず、質問に応えられなくて首を傾げてしまった。


「なんで、しょう?」

「え、グロリアも解ってないの? それはちょっと怖いんだけど・・・え、俺大丈夫?」

『解らずにやったのか。今のはグロリアの力をガンに流し込んでいた。攻撃の為ではなく治癒の為に。ガンが『光剣』を使った時に光を纏っていただろう。アレをグロリアの力でやったと思えば良い。だからガンは身体能力の向上だけを発揮し、消耗無く回復した形だな』


 回復。どうやら彼の事を心配していたら、彼の事を治せてしまったらしい。

 多分主と戦った時のあの光。出血を止めたあれと同じ様な物なんだろう。


「ん、あれ、痛みが消えてる? っていうか『光剣』使った反動も消えてる様な・・・」

「回復、させた、みたい、です」

「回復って・・・まさか回復魔法使えんの!? この魔道具で!?」

「「「「「!?」」」」


 あ、あれ、何でみんな、驚いてるんだろう。

 回復魔法って、珍しい物、なのかな。

 私も実際に見たのは主の使った魔法だけだけど・・・。


『・・・これは、もしかして不味かった、か?』

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