第27話、壁での生活。
リーディッドさんに注意を受けて以降、二度と同じ事はするまいと気を付けた。
気を付けたのだけれど・・・その日はもう魔獣が出て来る事は無かった。
そして夕方になると兵士さんに呼ばれ、壁だと思っていた建物の中へと入る。
夜は此処で寝泊まりするのだと、リーディッドさんは言っていた。
食事もここでとって、また翌朝あそこで待機すると。
それを交代の傭兵が来るまで続けるので、暇で暇で堪らないとも言っていた。
いや、これを言ってたのはガンさんとキャスさんだっけ。
因みに私が倒した魔獣は、兵士さんがどこかに持って行った。
後で色々処理して私に特別報酬が渡されるとか何とか。
「お疲れ様、お嬢さん。食事の用意が出来ていますよ」
「ありがとう、ござい、ます」
優しく笑う兵士さんにお礼を言い、彼に『食堂』へと案内された。
そこには他にも食事をしている人が居て、こんなに人が居たのかと少し驚く。
私が部屋を見回していると、ガンさんが先に奥へと向かって行った。
「おっちゃーん、四人分たのんまーす」
「おう、ガンか。待ってろ、すぐに出すから」
ガンさんがその奥に居る人達に声をかけると、大柄なおじさんが元気よく応えた。
そして言う通りすぐに料理を出して、テーブルへと置いて行く。
ホカホカで暖かそうで、とても美味しそう。
「ありがとう、ござい、ます。いただき、ます」
「おう、嬢ちゃんみてえな可愛らしい娘が食べて嬉しい物じゃないと思うけどな」
「そんな事、ない、です」
「ははっ、そうかい? そう言ってくれるとお世辞でも嬉しいねぇ」
お世辞じゃない。だって私にとっては、暖かいというだけでもう嬉しい。
そう思いながら口に入れると、やっぱり美味しいと思った。
喉から、胸から、お腹から、暖かい感触に頬が緩む。
「・・・こんなに良い顔して食べられたんじゃぁ、暫く張り切るしかねえなぁ」
おじさんはそう言って、笑いながら奥へ消えて行った。
良い顔なんだろうか。笑っている事は自覚しているけれど。
作ってくれた人が喜んでくれたなら、それは私にとっても嬉しい。
本当に、美味しい。美味しくて、とても、幸せだ。
「もぐもぐ・・・ごくっ・・・あぐっ・・・んっ・・・」
一心不乱に目の前の食べ物を食べる、勿論勢いよく呑み込むような事はしない。
全部ちゃんと味わって、何度もよく噛んで、それから呑み込む。
「・・・すげぇ。何だあれ。あれで何杯目だっけ」
「どうやったらあの体に入るんだ」
「道理であんなに材料が運び込まれた訳だよ」
「あれ全部、あの娘の為だったんだな。流石古代魔道具の使い手って事か?」
「ど、どうなんだろうな。それが理由って訳でもない気がするが・・・」
もぐもぐ。もぐもぐ。いっぱい食べる。目の前にある料理がなくなるまで。
胸はもう一杯だ。心は満足している。けれどきっと、体が満足していない。
だから料理が有る限りは食べる。食べ続ける。
「・・・悪い、お嬢ちゃん、もう材料がねぇ」
すると最後の一皿を手に取った時、さっきのおじさんがそう言って来た。
どうやら全部食べてしまったらしい。体は・・・まあまあ満足してる、のかな?
正直気持ちの方が満足してしまっていると、体の加減がちょっと解らない。
魔獣をそのまま食べたのであれば、多分解るとは思うんだけど。
「ごちそう、さま、でした。凄く、美味しかった、です」
「そうかい。そう言ってくれるなら作った甲斐が有ったよ。まああの様子を見て、不味いなんて思われてるとは感じられねえけどな。ははっ」
おじさんは嬉しそうに笑うと、私の頭をわしゃわしゃ撫でて奥へ消えて行った。
ぼさぼさになったは髪は何故かキャスさんが「私の役目!」と言い出したので梳かして貰った。
何時から彼女の役目になったんだろう。そんな話は一切聞いた覚えがないんだけど。
その後はお湯を貰って体をふき、固いベッドで就寝した。
領主館のふかふかベッドよりよく眠れたと思う。固いほうが落ち着く。
そして翌朝は日の出頃に起きて、またみんなで食堂へ。
「おはよう! すぐ用意するからな!」
すると昨日のおじさんが元気良く挨拶をしてくれたので、私もちゃんと返しておいた。
そして言葉通り料理が運ばれ、出して貰えた量を全部食べる。
とはいえ昨日の夜と違い、朝はそんなに多くは無かったけど。
「・・・マジかぁ。朝からあんなに食うのかぁ」
「すげえな、あのお嬢ちゃん。マジで腹どうなってんだ」
「子供出来たら、食費がどうなるか、考えないとな・・・」
「いやまて、流石にあれは例外だろ」
わたしが食堂を出る時は、何故か兵士さんがひそひそ話していた。
ガライドが『気にするな』と言っていたので、特に聞いてはいないけど。
そして今日も昨日と同じ様に、外に出て魔獣の警戒をする。
「ふあぁ~・・・ねむい。おやすみぃ・・・」
「オイコラ寝るなキャス。流石に今回は怒られるぞ。昨日は魔獣が出たんだから」
「そう言いながら、何でガンは目を瞑ったまま立ってるんでしょうね」
『・・・ガンとキャスは本当に正規傭兵で良いのだろうか』
大体そんな感じで、数日間のお仕事が続いた。
その間、結局魔獣が出てくる事は無かった。
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