第9話、初遭遇
そんなつもりはなかったのに、魔獣の胴体まで吹き飛ばしてしまった。
肉片どころか跡形もない。紅い光に呑まれた様に何も無い。
あれ、そう言えばこの紅い光って何だろう。今までこんな事無かったのに。
むしろ光る処か、その光が体を覆っている様な。変な感じだ。
なんて思っていると、ゆっくり光が消えていく。
暫くするとまた黒い手足に戻った。今のは何だったんだろう。
「え、えーと、人間、だよな? 魔獣とかじゃ、ないよな?」
両手足の状態を不思議に思っていると、背後から話しかけられて振り向く。
そこにはさっき魔獣と戦って居た人達が、武器を構えながら立っていた。
武器を向けられているなら、あの人達は戦う相手だろうか。
『グロリア。私は念の為黙っておく。ここからは君の頭に直接話しかけるので、なんとか自分で会話をしてくれ。ああ、両手足と私の事は『魔道具』という事で説明を頼む』
「・・・あ、そう、か」
魔獣を吹き飛ばしてしまった悲しみで忘れていたけど、あの人達を助けるのが目的だった。
なら戦っちゃ駄目だ。ガライドも説明してくれって言ってるし。
ガライドの事は魔道具、で良いんだね。解った。
「私は、人間、です」
「そ、そうか、わ、悪い。突然上から降って来たもんだから、さ」
「助けに、来ました」
「あ、ああ、そうなのか、え、えーと・・・」
先頭に居る人に聞かれた事にちゃんと応えたら、何故か黙り込まれてしまった。
何かいけなかったのかな。私には解らない。
動かない様子にどうしたら良いのかと首を傾げていると、後ろに居た人が前に出て来た。
髪の長い女の人が、手に持っていた短剣を収めて近づいて来る。
「はいはい、ちょっと退いて下さいね」
「お、おい、無暗に近付いたら・・・!」
「もし彼女が私達を害すつもりなら既に殺されていますよ。さっきのを見たでしょう?」
「いや、そりゃ、そうだが・・・」
「取り敢えず、貴方が武器を構えているせいで、向こうも構えていると思って下さい。それともあの光に貴方も吹き飛ばされたいんですか。私は勘弁ですよ」
「お、俺も嫌だぞ!?」
先頭に居た人は構えていた武器を慌てた様子で降ろした。
もう一人後ろに人が居るけど、その人は最初から武器を構えてない。
それを確認した女の人は、ゆっくりと私に近付いて来る。
「失礼しました。私の名はリーディッドと申します。お名前をお聞きしても宜しいですか?」
「私は、グロリア、です」
「そうですか。ええと、助けて頂いた、と言う事で宜しいんですよね?」
「そう、なります」
「そうですか。ありがとうございます。大変助かりました。つきましてはお礼をしたいと思いますが、手持ちが余りないのです。ただ今は仕事の最中でして、報酬を貰った後なら出来るかと。もしお暇でしたら、街までご一緒して頂けると嬉しいです」
「はぁ・・・」
凄い勢いで喋られて、半分ぐらい聞き取れなかった。
えっと、街に一緒に、行ったら良いの、かな?
『グロリア。ここは頷いておけ』
思わず首を傾げているとガライドから指示が来たので、コクリと頷いて返した。
「それは良かった。ああ、ただまだ仕事中ですので、少々お付きあい頂けますか?」
「ん、解り、ました」
「すみません。助けて貰っておきながら、図々しいお願いをして。ほら、皆もお礼を」
「あ、そ、そうだな。すまない。さっきは助かった。俺はガンって言うんだ」
「ありがとう。私はキャスです」
「・・・グロリア、です」
名前を言われたので名乗り返すと、また沈黙が流れた。
何か間違ったかな。それとも返事が遅かっただろうか。
でも皆で色々言って来るから、理解するのに少し時間が居る。
私はあんまり人と話した事が無い。だから会話はちょっと難しい。
「自己紹介は済んだようですし、仕事を再開しましょう。はい、二人共手早く済ませてしまいましょう。また魔獣が来たら困りますからね」
ただリーディッドと名乗った女性がパンパンと手を叩いて歩きだした。
残りの二人が慌てて付いて行き、私はその様子を見ながら後ろを付いて行く。
ただ途中で三人がやけに近付いて、小声で話している様に見えた。
『・・・グロリア、収音データを送る。あまり驚かずに、静かに聞いてくれ』
「ふえ?」
ガライドの言葉の意味が解らず振り向くと、突然三人の声が大きく聞こえて来た。
不思議な事にビクッとしたけど、言われた通り静かに聞く。
『おい、マジで報酬あの子に渡す気かよ』
『ガン、そういうの良くないよ。私達助けて貰ったんだよ』
『いや、そういう意味じゃなくて。こいつにしては珍しいと思ったんだよ』
『二人共何を勘違いしているのか知りませんが、私はあくまでお礼をするとしか言っていません。報酬から幾らとも、明確な額も告げていません。それでも彼女は了承しました』
『・・・でたよ、コイツ』
『リーディッド・・・どうなのそれ』
『何とでも良いなさい。それに彼女の強さは見たでしょう。あの強さであれば、また魔獣に襲われても問題無い。彼女は強力な魔道具を扱う力が有る様ですが、世間を知らない様です。街までありがたく護衛をして貰いましょう。なに、ちゃんとお礼はしますよ。一食ぐらいはね』
『『うわぁ・・・』』
三人の会話がはっきりと聞こえ、思わず嬉しくなった。
食べさせてくれるって言った。リーディッドって人が食べさせてくれるって。
どれぐらいの量か知らないけど、一食食べさせてくれるって。
魔獣を吹き飛ばしてしまって悲しかったけど、ガライドが助けろって言った事が良く解った。
人を助けたら、食べさせて貰える。今度からちゃんと覚えておこう。
『リーディッドという女、中々良い性格をしている。まあ、あのぐらいが丁度良いか』
「ん、良い人、です」
『・・・グロリア、本気で言っているか?』
「だって、食べさせて、くれるって、言いました」
『・・・そうだな。君の判断基準は基本そこなんだな。いい加減私も慣れよう』
ガライドが溜息を吐いている様に聞こえた。もしかして疲れたのかな。
そういえばガライドは何か食べているのかな。
何処に居るのか解らないけど、疲れたならちゃんと食べないと。
「ガライド、疲れたなら、何か食べましょう」
『・・・問題無い。私は君の力が有れば稼働出来る』
「そう、ですか? でも、お腹すいたら、言って下さい。魔獣、倒して、きます」
『・・・気持ちだけ受け取っておくよ』
また溜息を吐いている様な。本当に大丈夫かな。心配。
・・・心配、するんだ、私。そっか、ガライドの事、心配なんだ。
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