第8話、森を抜けて
ガライドと会ってから、もう何日か過ぎた。
あれからずっと、魔獣を倒して食べている。
毎日お腹いっぱい食べられて、凄く嬉しい。
『ふむ、本当に広いな、この森は。元々山奥であった事は間違いないが、ここまで広かっただろうか。昔の地図情報であればとっくに森を抜けてもおかしくないはず。いや、文明が滅ぶ様な出来事と時間、変異獣と人類の在り方がまるで違う様になっていると考えれば――――――』
ガライドがまた何か喋ってる。ガライドは良く喋る人だ。独り言が凄く多い。
最初は私に話しかけてるのかなって思ったけど、別にそういう訳じゃないらしい。
言ってる事が殆ど解らないから、私はぼーっと聞きながら走り続ける。
『む、この反応は・・・何だこれは!?』
「・・・どうか、したん、ですか?」
『いや、どうやらもう暫く走れば森を抜けそうなのだが・・・適合者が複数居る様なんだ』
「てき、ごうしゃ、ですか」
『ああ。君程ではないが、我々を扱えるだけの力が有る。勿論特別製の私に完全適合する程の力ではないが、量産型に適応出来る程度の力はある。どうなっている・・・?』
やっぱりガライドの言う事は良く解らない。
取り敢えずこのまま走っていたら、人に会うのかな。
「向こうに、行かない方が良い、ですか?」
『・・・いや、進もう。ただ森の木々以外の物が見える距離になったら、止まって欲しい』
「解り、ました」
言われた通り足を止めず、全力で走り続ける。
毎日お腹いっぱいだから、どれだけ走っても全然疲れない。
疲れてもガライドが魔獣を探してくれるから、戦って食べれば良い。
そう思って走り続けて、ふと森の向こうに道が見えなくなった。
『止まれグロリア!』
「っ!」
ガライドが突然指示を出したので、近くの木を思い切り蹴る。
その勢いで止まり、蹴った木は音をたてながら倒れた。
『グロリア・・・崖に飛び込むかと思ったぞ。ここまで上り坂になっていたのだから、もう少し警戒してくれ。止まらないから本気で驚いた。それにしてもかなり地形が変わっているな。何だこの断崖絶壁は。これでは魔獣達も簡単には降りる事が出来んだろうな』
「崖、これが崖、ですか」
ガライドの言葉に少し進んでから下を見ると、物凄く下の方に地面があった。
ううん、私が高い壁の上に居るのかな。どっちかは解らない。
崖ってこういう物なんだ。私こんな所から落とされたんだ。
『先程の反応は崖下の者達だな・・・何だアレは。手から火や風が出ている。まるで高位変異獣と同じ・・・何か呟いているな。詠唱・・・魔法? ははっ、これではSFではなくファンタジー小説だ。もう今の人類は完全に新人類と、そう思った方が良さそうだな』
しんじんるい、が何かは解らないけど、ガライドの言う通り崖下では魔法が放たれている。
魔獣と戦ってる人が居るみたい。あの人達もお腹が空いてたんだろう。
ただどうも、あのままだと負けそうな気がする。魔獣に攻撃が余り効いていない。
『ふむ、だが見た所、変異獣・・・魔獣の方が優勢だな。やはり人類の個の力は余り強くないという事か。グロリアは例外と思った方が良いな。さてグロリア、どうする。彼らを助けるか?』
「たす、ける?」
『ああ。今の私達は何も知らない。世の事を何も解っていない。ならば困っている人間に恩を売って、手を貸して貰うのが一番だ。まあ、彼らが恩を感じるかどうかは解らないが』
「・・・良く解らない、けど、魔獣を倒せば良いん、ですか?」
『まあ、そうなるな。行くならば―――――』
「行き、ます!」
崖は物凄く高いけど、私はその崖に落とされた。
なら自分の意思で落ちるなら行けるはず。そう思って飛び出す。
ただきっと痛い。だからぐっと、生き残る為にぐっと力を籠める。
生きる為に、生き残る為に、魔獣と戦い食べる為に!
『この高さでいきなり飛び降りる奴が有るか! くっ、変換が間に合うか――――なに!?』
赤く、紅く光る。黒かったはずの手足が、視界が、紅く染まる。
まるで私の髪の様に、今着ているドレスの様に、一度無くした目の様に。
紅蓮と呼ばれた私の手袋とブーツ。またアレを身に着けているかの様に赤く光る。
「ぐ、が、があああああああ!!」
『出力が急激に上がり続けて・・・溢れ出している・・・!』
感覚が変わる。闘技場で戦っていた頃の、力がみなぎる感覚に似ている。
この手足を手に入れてから何時も力は張っていた。
けれど今はもっと、もっともっと、何でも砕けそうなくらい力が張る!
「な、なんだ!? 何か赤いのが上から落ちて来たぞ!?」
「今の不味いよ! いきなり凄い力を放って来た!!」
「二人共下がって! 土煙の中で戦うのは危険です!!」
着地すると土煙が上がって、魔獣も私もその中に消える。
けれど見えている。魔獣の位置が何故かはっきりと見える。
「があああああぁぁぁあっぁぁあああ!!」
声を上げて魔獣に殴りかかると紅い光が突き抜け、その勢いで土煙が晴れる。
魔獣は頭が吹き飛び、それどころか胴体も吹き飛んでしまった。
「――――――っ、そん、な」
わなわなと、両手を見る。なんで、何でこんな事に。
『っ、どうしたグロリア! 体に異変が在るのか!? こちらでは異常が何も観測出来ない! 自覚症状が有るのであれば教えてくれ!』
「食べる所、が、無い・・・全部、ふき、とんだ・・・」
『・・・うん、そうか、うん・・・それは、一大事、だな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます