第7話、これから

『・・・本当に良く食べるな』


 ガライドの呟きが聞こえて、ビクッと食べる手を止める。


「だめ、ですか?」

『駄目という訳では無いんだ。どうなっているのだろうなと思ってな』

「どう、ですか?」

『ああ。その小さな体躯の何処にあれだけの量が収まるのかとな・・・胃も膨らまぬし』


 駄目じゃないと言われたので、もしゃもしゃ食べながらガライドと同じ物を見る。

 今のガライドは丸い物になってるけど、目みたいなものが有るから何処を見てるかは解る。

 そこには私が食べ終わった魔獣の骨が積みあがっている。大分お腹が膨れて来た。

 でもまだ食べたい。もうちょっと食べたいな。


『質量を考えると、明らかに異常なのだが・・・察するに今まで不足していたエネルギーに全て変換し続けているのだろうな。普通に考えれば既に腹が破けている量だ。消化では追い付かん』

「お腹、やぶけちゃい、ますか。それは、怖いです」


 思わずお腹を押さえてしまった。でも膨らんで破れそうな感じはしない。


『ああ、すまない。現状そんな様子は無い。もし君の脳に異常があり満腹を感じられないのであれば、その時点で私が止めよう。ただ私の持つ常識との差異に驚いているだけだ』

「はぁ・・・」


 良く解らないけど、ガライドはお腹が破けない様に教えてくれるらしい。

 なら言われるまで食べて良い、って事だと思う。

 もしゃもしゃと手持ちを食べきって、骨を置いて立ち上がる。


「じゃあ、もう少し、食べたい、です」

『まだ食べるのか・・・少し待て。周囲に居たのはあらかた狩ってしまったからな。少々遠くまで行かねばならんか。しかし、今の人類は君の様な者ばかりなのか。これでは何の為に我々が作られたのか解らんな。我々の様な武装など一つも要らぬではないか』

「え、ガライドは、要りますよ」

『そ、そうか? そう言って貰えると嬉しいが』

「だって、ガライドが居ないと、魔獣見つけるの、大変です」

『・・・そうか。うん、そうだな』


 私は何時も闘技場で向かって来る魔獣の相手をしていた。

 自分で探さなきゃいけない状況、っていうのは初めての事。

 でもガライドが教えてくれるから魔獣がすぐ見つかる。だから絶対要る。


『グロリア、これを見てくれ』

「・・・なん、ですか、これ」


 突然目の前に模様の入った板が現れて、赤い点が幾つもピカピカ光ってる。

 首を傾げて訊ねると、ガライドの手が出て来て真ん中を指さした。


『簡易的な地図と考えてくれ。ここが今君の居る所。そしてこの赤い点が魔獣だ』

「地図・・・私と・・・魔獣・・・?」

『そうか、地図の見方も解らないか。君の境遇を考えればそれが当然か』

「・・・ごめん、なさい」

『謝る必要は無い。言っただろう。私は君のサポートをすると。君の足りない所は私が補おう。そして君の知らない事は私が教えよう。まあ、今の時代の常識はお互い知らなさそうだが』


 怒られなかった。ガライドは私を全然怒らない。何でだろう。

 解らないとか、間違えたりとかすると、今までなら絶対怒られたのに。


『取り敢えずそのマップ・・・赤い点を見ながら少し歩いてくれるか』

「わかり、ました」


 言われた通り赤い点を見ながら、真っ直ぐに歩いてみる。

 すると赤い点がゆっくりと動き出して、それに首を傾げながらも黙々と歩く。

 暫く歩くと赤い点が真ん中に近くなって来た。


『グロリア、魔獣が見えるか?』

「え、あ、は、はい。見え、ます」


 赤い点をじっと見てたから気が付かなかった。ちょっと向こうに魔獣が居る。


『こうやって赤い点が真ん中に近付く様に歩けば、魔獣に近付くと考えれば良い。逆に言えば魔獣に会う気が無ければ、赤い点が近づかない様に動くんだ。解ったか?』

「わかり、ました」


 こくこくと頷いて、魔獣に駆け寄る。そして頭を軽く殴り飛ばす。

 それだけで魔獣の頭はぐしゃっと潰れて動かなくなる。

 食べる度に体が軽くなって、段々力が要らなくなって来た気がする。


「いただき、ます」

『・・・素朴な疑問なのだが、焼くとか、煮るとか、調味料とか知っているか?』

「焼くのは、知ってます。にるとか、ちょうみりょうは、知りません」

『いや、そうか。うん、そうだろうな。何となく解っていた』


 もしゃもしゃと魔獣を食べながら答え、さっきの赤い点を見る。

 これが魔獣。まだいっぱい居る。

 コレだけ居るなら暫くお腹いっぱいで過ごせそう。


「ふぅ・・・お腹、いっぱいです」

『そうか。幸せそうで何よりだ。それでこれからの方針だが、先ず人里に向かうとしよう。ただどうも現在地は深い森のど真ん中の様だ。何がどうなればこうも地形が変わるのか、昔の地図とまるで地形が違うな。どちらに向かうべきか。少なくとも帝国とやらに行くのは避けたいが』

「帝国に、戻らないん、ですか?」

『戻りたいのか? 君から聞いた話からの判断でしかないが、戻ればまたお腹が空く生活になりかねないぞ。いや、確実にそうなるだろうな』

「そ、それは、嫌、です。戻りたく、ないです」


 お腹が空くのは辛い。ここに居ればそんな事は無い。

 いっぱい食べれる。なら、戻らない方が、良い。


『了解した。とはいえ現在地が解らん以上、とにかく進むしかない。衛星機器にアクセス出来れば違うのだが残念ながら全く反応が無い。せめて私の索敵機能がもう少し広ければな・・・』

「とにかく、進めばいいん、ですね?」

『ああ――――』


 言われた通り、真っ直ぐに進む。走る。体が軽い。ここまで軽いのは初めて。

 走る事を楽しいなんて思った事は無いけど、余りに軽くて楽しい気持ちになる。


『グロリア。いきなり走り出すのは驚くから止めてくれ』

「あ、ごめん、なさい」


 後ろから飛んできたガライドに謝って、足に力を入れて踏み留まる。

 けれど地面を滑って止まれなかったから、近くの木を蹴って無理矢理止まった。

 蹴った所がバーンと弾け、木は土を巻き上げながら倒れる。


『おお!? い、いや、急に止まるのも無しだ。君は本当に極端だな』

「・・・ごめん、なさい」

『君は謝るのが癖の様だな。いや、間違った時に謝る事が出来るのは美徳だ。だが私に対して無暗やたらに謝る必要は無い。君は何も・・・そう、何も知らぬ子供なのだから』

「謝らなくて、良い、ですか?」

『そう・・・いや駄目だな。うん、謝る事は必要だぞ。ただ私には要らないだけだ』

「ガライドには、要らない。わかり、ました」


 謝らなくて良いなんて、初めて言われた。

 でも良いのかな。本当に謝らなくて。

 後で怒られて、痛いのは、嫌だな。


『まあ、ゆっくりやっていくとしよう。急いでも仕方ない』

「はい、わかり、ました」

『・・・子育てでもやっている気分だな』

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