第33話.志田一樹「未来の俺よ、よく見とけ」
【志田一樹】
気を失ってから、気付いた時には自宅のベッドの上だった。あんなにあった身体の傷はほとんど消えてしまっていたけれど、お腹の傷だけは跡が残ってしまっていた。
聞くと、二葉も同じように傷が残ってしまったとのこと。酷く落ち込んでいたから、「お揃いだな」とからかったところ、「不快。やめて」とのお返事を頂いた。うむ、いつも通りで何より。
そうそう、あれから、ジャンジャンミンには逃げられてしまったらしい。俺が気絶した瞬間にスタコラサッサと走り去ってしまったんだとか。くそう。
「ふぅー、ちょっと疲れたなぁ」
本当に、あの日は色々とありすぎた。ドルーから始まり、二葉が襲われたり、三華が攫われたり、ジャンジャンミンと戦ったり。なんと果てには、未来から成長した三華が現れていたんだそうだ。会いたかったな、残念だ。
「あ! お兄ちゃん、ウサギだよ!」
未来の三華から得た情報で、俺たちの目的は大きく変わってしまった。
記憶の奪還。それに、『三菜』の救出。
正直今までの記憶が全部偽物って事実自体には、あまりショックを受けなかった。
だってそうだろ? 体育の授業で二人組が組めなかったあの記憶も、吉澤さんに告白してみんなの前で言いふらされた記憶も、俺の知らないクラスのグループラインがあった記憶も、あれも全部嘘だってことだよな?
いやー、だと思ったよ。俺がそんな陰キャなわけないから。
神様。お願いだから記憶を作るならもっとマシな記憶にしてくれ。ブチ切れ不可避案件だぞ。
ただ、どこからが本当の記憶なのか未だに分からない。俺たちはいったい何年、何ヶ月、――もしかしたら何日、日本にいたのだろう。
三菜という人物のことは、誰一人として憶えていなかった。俺たちにもう一人家族がいるなんて正直考えられない。セラは別として、ずっとこの五人でやってきたんだ、そう簡単には受け入れられない。
「おー、本当だな。ケビットだ」
「相変わらず足デカすぎて引くんですけど」
しかし驚きだ。まさか異世界転移モノじゃないとは。
魔法は未来技術で、ここが地球で、俺は未来人? え、なにそれ、何てSF? 「異世界に転移されたと思ったら、実は未来だった件について〜記憶を書き換えられていた俺たちは、失われた技術で無双します〜」って名前付けてネットに投稿しようかな。ネットないけど。
「カズ君、もうすぐ王都が見えるよ」
「おお、見たい!」
魔法はUTとかいう科学技術で、魔力はUE。意味分からんけど、未来の俺ってばすごく頭が良くなっていて、SUTとかいう神アイテムまで作り出していたらしい。三華が褒めてた。
その後ソファで寝転び漫画を読む俺を見て「これだからイマお兄ちゃんは」と嘆いていた。そのミライお兄ちゃんも昔はこうだったんだよ、三華。
「まずは『エルシー』を探さないとね」
「そんな子が本当に仲間になってくれるのかしら……? もしかしたら、私たち捕まってしまったりしない……?」
「もー、大丈夫だってママ! てか王都めっちゃ楽しみなんですけど! もしかしたら運命の出会いも……」
「ねえよ」
「うっさい! 黙れ!」
エイモアが泣いてるぞ。
次の目的地となったエルフの里は、誰に聞いてもどこにあるか全く分からない。エイモアでさえ知らなかった。
だから俺たちは、エルフの里を知っている人、そして『エルシー』を探しに王都へと向かっている。
――さあ、これからは俺たちの記憶と家族を巡る旅が始まる。
きっと困難もあるだろう。辛いこともあるだろう。
だが、それでいい。人生は谷があるから山もあるのだ。多分。
せっかくこんなサイエンスでファンタジーな世界に俺はいるのだ。楽しまなければ損だろう。
未来の俺よ、よく見とけ。
お前が出来なかったこと、叶えられなかった願いは、俺たち志田一家が全て、叶えてやる。
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