第14話.志田二葉「アレマジで神の食べ物だから」
長かった組合についての説明が終わった。受けられるサービスとか依頼の受け方とかパーティ募集のやり方とか、とにかく長かった。授業かと思ったもん。
小難しいことは分からなかったけど、とにかく最初の内は一カ月に一つ以上依頼をこなさないと登録が解消されるらしい。サボってサービスだけ利用すんのはやめてくんね? てことかな。
また、組合員にはこなした依頼数や功績に応じた階級が決められているそうだ。初級、下級、中級、上級、特級の五段階。階級に応じて受けられる依頼の難易度が上がる。特級は、アメイジア大陸全体でも十人しかいないらしい。もちろんあたしたちは全員初級だ。
「それでは、もう質問はありませんか? なければ、登録はこれで終わりになりますが」
パパとママが顔を見合わせる。結構質問したから、もう大丈夫そうだ。
「では、また何かあったらいつでも質問してくださいね…………ふぅ、疲れた」
最後の呟き、聞こえてますよー。
▽
「じゃあ、二葉たちみんな魔物と闘ったこともないし魔法もまだ使えないみたいだから、まずは先輩組合員に指導してもらうといいよ。ボクの知り合いの冒険者を紹介するね」
と、言うわけで。
エイモア君に戦い方や依頼のこなし方をレクチャーしてくれる先輩を紹介してもらえることになった。ほんと、至れり尽くせりだわ。エイモア君にいつかパンケーキでも作ってあげよう。アレマジで神の食べ物だから。
「……トーランドだ」
イケボだ。
「ウチの名前はラナールね。中級です。職業は『付与術師』。で、そっちのデカいのは上級の『重騎士』ね。今は二人でパーティ組んでるんだけど、元々は違ったんだよね。ウチは『赤蜥蜴』ってパーティに入ってたんだけど、知らないかな。そこそこ有名だったんだけど。知らないか、まあいいや。でさ、その赤蜥蜴ってパーティ君たちと同じ五人パーティだったんだけど、今トーランドと二人パーティの方が強いんだよね。ウケるでしょ? この前なんてね、」
「そこら辺でやめとけ、ラナ。みんな戸惑っている」
「ああ、ごめんごめん。ウチお喋りだから話し出すと止まらないんだよね。ホントごめんね。赤蜥蜴にいたときもそれで喧嘩になったことが何回かあってさ。その点トーランドは寡黙でウチの話全部聞いてくれるからいいんだよね。あ。でも、」
「とまあ、こんな二人組さ。大丈夫、腕は保証するよ」
エイモア君が強引にラナールさんの話を打ち切った。ホント口が止まんないな。お喋りがどんどん派生していくとこが中学の友達にそっくりで、何だか懐かしい。昨日会ったばかりなのに、おかしいな。
トーランドさんは熊のように大きな人だ。角刈りがよく似合ってる。眉毛が太くて、何だか男性ホルモンの化身みたいな人だ。重厚な装備もあいまって、確かに『重騎士』って感じだ。後ろに抱えた槍なんてエイモア君とこの兵士の持ってた槍の二倍はあるんじゃない?
ラナールさんは眼鏡をかけたパーマの女性。トーランドさんとは対照的に薄着で、肌が結構露出している。大胆な服だ。あたしは着れないな。彼女は線が細く、二人並ぶとちぐはぐな感じがして逆にとってもお似合いに見える。きっとデキてるに違いない。
「じゃあ、これから少しの間よろしくね」
ラナールさんが手を差し出したので、近くにいたあたしは手を握り返す。すごくコミュ力高めな人だな、ありがたい。
「こちらこそ、です。二葉です」
「あ、敬語は使わなくていいよ。それにしても、二葉、あ、呼び捨てでいいよね? ウチも呼び捨てでいいから。二葉、すっごくかわいいね。お肌とかプリプリじゃん。髪もサラサラで羨ましいな。ほら、ウチって見ての通りくせ毛すごいじゃん? 雨の日の時とかすごくてさぁ」
「えー、でもラナールの髪も綺麗なパーマですごいオシャレに見えるけど。逆に羨ましいし」
「え、ほんと? 嬉しいかも!」
やっぱ友達に似てる。仲良くなれそうな予感がした。
そしてラナールがママ、パパ、三華と握手して、最後に兄貴と握手しようとした時、だった。
轟音が鳴って、強烈な光が目を焼いた。あまりの音の大きさに、建物全体がビリビリと揺れる。
一瞬で視界が白一色に染まり、耳も聞こえなくなって状況が分からなくなった。
何、これ。屋内なのに、雷?
しばらくして、視界が段々戻ってくる。建物が壊れたりはしていないようだ。つまり、落雷ではない。
皆が注目する中、そこに立っていたのは白い少女だった。
「――君は、僕が教えるよ」
鈴の音のような声でそう言って、少女は兄貴の手を握っていた。
「――――特級……『雷神』のセラ……」
誰かがそう、小さく漏らした。
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