第13話.志田二葉「激カワなんだけど」

【志田二葉】


 三華の職業が分かってからは、てんやわんやだった。


 あのエイモア君やシリアさんでさえあんなに驚いていたってことは、それほど珍しいことなんだよね、きっと。『星渡りの聖女』が固有職の中でもかなり上位の強さらしいから、恐らくそれと対を成す『時渡りの巫女』も同様の強さなんじゃないか、ってエイモア君が言ってた。


 固有職『時渡りの巫女』、その魔法は『時渡り』。文字通りに受け取るなら、時間を遡ったり未来旅行したりができるんだと思う。固有職ってことは世界で初めて確認された職業ってことだから、その魔法の詳しい内容は何も分かっていないらしい。三華が自分で探すしかない。


 固有職を発現したら、国の固有職業所有者名簿ってのに登録しなくちゃいけないらしく、それの申請書類を書くのにパパとママがすごい手間取っていた。なんせあたしたちは異世界人だから、こっちの常識はまるで分からない。住所とか色々調べながら書かないといけないのだろう。


三華がキョトンとした顔で椅子に座って足を揺らしている。何も分かっていないと思うけど、あんたマジですごいことしちゃったんだよ、三華。


 三華の職業申請に加えて、この街の住居取得申請やら住民申請やらめんどくさそうな手続きが一段落したけど、最後に組合登録というものをしないといけないらしい。ホントめんどい。

まあ、申請書書いてたの全部パパとママで、あたしと兄貴は三華にこれまでの経緯を説明したり、三人で魔法の練習してただけなんだけど。


ちなみに、あたしと三華は魔法の感覚が全然つかめなかったけど、兄貴だけは初めから使えるみたいだった。なんかムカつく。光の流れがどうだとか、訳の分からないこと言ってたけどイミフすぎるし。


組合登録というのはエイモア君ちではできないらしくて、エイモア君に連れられて街を紹介がてら組合の建物に移動することになった。


「ここが、グレニラーチの中央にあたる『天杯の大広場』さ。真ん中の噴水が、神話に出てくる天使ミカエルの贈り物を受け取ったとされる天杯を模倣したもので、我がグレニラーチ一番の観光名所さ」


 エイモア君が紹介してくれたのは、巨大な噴水だった。いや、マジレベチでデカい。あたしの今まで見た噴水では比べ物にならない。噴水から出た水は、最早小さな湖くらいある水たまりを形成している。

 噴水の近くには、天使を模した大きな石像も建てられていた。とっても綺麗。


「あ、桜。水のことだけど、ここの水は神聖なものとされてるから勝手に取っちゃだめだよ」

「そんなことしませんよ……」


 エイモア君が注意すると、ママは不服そうにそう返した。


 やべ、後から三華連れて泳ぎに来ようと思ってたわ。



 それから、食料品を扱っている店が並ぶ商店街や雑貨屋さん、服屋さん、珍しいもので言うと魔法道具屋さんと武器屋さん、防具屋さんを紹介してもらった。ショッピングは好きだから、後で色々回ってみよう。


 エイモア君と歩いてると街の人がみんな挨拶してくる。こんなに色んな人に好かれるってすごいことだよね。あたしなんて、学校のあんな小さなクラスでさえ仲の悪いグループの子たちも多かった。みんなから好かれるなんて、想像もつかない。


 って感じで、最後に組合の本部についた。正確には、アメイジア組合。私たちがいる巨大な大陸の名前がアメイジアらしくて、アメイジアのどこの国にも組合があるらしい。よく分からないけど、マックみたいなものなのかな。


 組合本部はエイモア君ちほどではないけれど、大きな建物だった。エイモア君ちと違って豪華って感じではないけど、大きな市役所というイメージが一番近い。入っていくのは武具を装備していたり身体が鍛えられている人たちがほとんどだ。


「やっぱギルドかぁ」

 兄貴がよく分からない呟きを漏らした。ほんと、そういうのオタクっぽくてキモイからやめて欲しい。


 建物の内部は、小綺麗としていた。幾つかの受付カウンターや売店のほか、仲間を募る掲示板や軽い飲食ができるカフェのようなものもあるみたいだ。人が多く、がやがやとしている。

何だか圧倒されていると、受付の一つにエイモア君が近づいていった。


「やあリーナ。今日は忙しいかな?」


 受付カウンターに立っていた茶髪のお姉さんは、リーナというらしい。ゆるふわセミロングがすごくオシャレ。激カワなんだけど。


「あら、エイモア様、お久しぶりです。ええ、いつも通り馬車馬のように働いていますよ」

「ふふ、寿退社したがっていたけど、その話はどうなったんだい?」

「フラれました。その話は二度と出さないで頂けるとありがたいです」


 うわぁ、何だか生々しい話を聞いてしまった。


「それより、組合登録の連絡を頂いていましたが、登録をするのはそちらの皆さまですね」


「あ、はい。家族五人でお願いします」


 突然話を振られ、パパが後ろ頭を掻きながら前に出る。んー、何だか情けないなぁ。もっと男らしくしてほしいものだ。


「分かりました。それではこちらの申請書類にお名前と職業、それに受ける依頼の系統、それに本人様のサインをお願いします。それと、ご家族でパーティを組まれる場合は、こちらのパーティ登録書にもご記入ください」


 数枚の申請用紙をリーナさんが持ってくる。万年筆を渡され、私も自分の名前を書いた。こちらの文字で、だ。何故かこっちの文字が書けるんだよね。まるで最初から知ってたみたいに。


 あたしたちが書いた申請書を確認する途中で、リーナさんの手が止まる。


「……エイモア様、これは…………」

「うん、そのことについては箝口令を敷くよ。登録も、ジン支部長に言って秘密裏に行うようにしてもらって」


 三華の職業についてだ。


 志田家としては、目立ちたくないから三華の職業は偽りたいとこなんだけど、この世界には嘘を見抜ける職業がいるらしい。しかも、直接じゃなくて申請書みたいなものでも可能なんだって。組合の登録書類はその職業の人の目を必ず通るから、偽ることはできない。


 登録しないことも考えたけど、色んな街や国に入ったり、様々なサービスを組合員なら受けることが出来るらしく、これから第一王女に会うために旅をする可能性も踏まえて、今回登録することに決めた。今なら、エイモア君がいるからできるだけ人に知られないようにできるのが決め手だ。


 それでも、数人には知られてしまうだろうけど。大丈夫、三華はアタシが守るし。


 コクリとリーナさんは頷いて、三華の登録用紙を一番後ろに持ってくる。


「それでは、登録はこれで終了になります。次に組合の説明に移らせていただきますね……――」

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