第6話.志田桜「アタイ……私が、めちゃくちゃにしてあげるから」
【志田桜】
朝から散々だ。水も出ないし電波も飛んでいないし、電気だっていつまで持つか分からない。
ここはいったいどこなのだろう。私たちは何に巻き込まれてしまったのだろう。
頭の中は、不安でいっぱいだった。
これからどうやって生活をしていけばいいの? 子供たちが学校に行けなかったら、他の同学年の子たちより勉強が遅れてしまわない? 三華の症状が悪化したらどこに連れていけばいいの? 水はどこから手に入れればいいの? 真太郎さんは無断欠勤になっているけれど、クビになってしまわないかしら。ちゃんと元の世界に帰れるのよね?
いくら考えても、答えは出ない。
真太郎さんと違って私は、そんなに頭が良い方ではない。遺伝学の研究者として有名な真太郎さんならきっと、元の世界に戻る方法だって見つけてくれるはず。
なら私は、家族を、子供たちを守るために何をすればいいのか。
決まっている。家族の食事や心身のケアは私の仕事だ。幸い、看護師の資格をもっているおかげで少しばかりは医療知識がある。常備薬も切らしていないし、風邪程度ならどうにかできるはずだ。
眠っている三華は、少し顔が赤いが呼吸は落ち着いている。このまま安静にしておけば恐らく大丈夫だろう。
「ねえ母さん」
「ん? どうしたの一樹」
さっきまで自分も父さんに着いていきたいと駄々をこねていた一樹だったけれど、真太郎さんに「母さんと三華を守ってくれ」と言われてからは大人しくなった。普段は少し頼りなく見えるけれど、一樹もやっぱり男の子なのだろう。
窓から外の様子を覗きながら一樹は言った。
「もしここが本当に俺の想像通りの異世界だったら、きっと二葉でも喧嘩になれば勝てないよ」
「あら、何で?」
「魔法があるからね。二葉がいくら中学生最強と言っても、魔法がない世界での、武器を使わない空手のルールに縛られた試合での話だ。だから、多分勝てない。さっきの火の玉を出した男は明らかに戦闘に慣れていたしね」
「そうなんだ。じゃあ喧嘩にならないといいわね……。大丈夫よ、ああ見えてお父さんは肝心なところで頼りになるもの」
魔法、なんてものが本当にあるのかどうかなんて知らないけど、きっと一樹はこんな状況で嘘なんてつかない。純粋に二葉の身を案じているのだろう。あの子もあの子で、きちんとお兄ちゃんをしているのだ。
大丈夫だよ、一樹。私の家族に手を出す野郎どもは、ちびって生まれたことを後悔するくらいにアタイ……私が、めちゃくちゃにしてあげるから。
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