1-2. 世界最強! 聖剣エクスカリバー
「はい、もういいわよ……」
俺が振り向くと、彼女は水色のワンピースを着て腕を組み、赤ら顔で俺をにらんでいた。
「もしかして……シアン?」
「そうよ、これが私の本当の姿なの」
「え? なんで猫になってたの?」
「……。何だっていいでしょ!」
とても不機嫌である。
俺は話題を変えてみる。
「で、ここはどこなんだい?」
「異世界に決まってるじゃない。あなた異世界に来たかったんでしょ?」
シアンは透き通る綺麗な水色の瞳で俺をにらむ。
来たかったか? と言われたら……そうなのかもしれない。
俺はラノベが大好きで、日頃からラノベばかり読んでいた。その中には異世界の物語がいくつもあり、とても魅力的な輝きを放っていた。モンスターをカッコよく倒して女の子にキャーキャー言われる世界は、すさんだ俺の日常をいやしてくれる唯一の光だった。しかし……である。本当にいきなり連れてこられるとなるとちょっと話が違う。
「そ、そりゃそうだけど、それは俺にとって都合のいい異世界であって……」
「あら、ここは宏にとって都合いいわよ」
「え!? 本当!?」
色めき立つ俺。チートでハーレムでウハウハなのか!?
「なんたって私がついてるんですから!」
そう言ってドヤ顔で俺を見る。
俺は固まった。
いや、確かにシアンは可愛いよ、でもいきなり平手打ちするヒロインは……俺は苦手なんだが……。
「何よ! 文句あんの!?」
シアンの周りに怒気が黒いオーラとなって浮かぶ。
「い、いや、そ、そんな事ないよ! シアンがいてくれてよかった!」
冷や汗かきながら弁解する俺。
「ちょっと私の魅力を教えないとダメみたいね……」
そう言ってシアンは目をつぶって人差し指を立て、軽くクルクルと回した。
俺は何だか嫌な予感にとらわれた。
「ゴブリンが来たわよ」
シアンはなんだか嬉しそうに言う。
「えっ? 魔物!?」
「三匹だから頑張って!」
「え? どうやって倒すの?」
「どうやって倒したい?」
シアンはニヤッと笑って俺をジッと見る。
「え? どうやってって……なんかこう……魔力こもった聖剣とかでバッサリと……」
「聖剣に魔力なんてこもらないわよ! 仕方ないわね、これ使って」
シアンはちょっとあきれると、人差し指をまたクルクルと回した。
直後、豪華な装飾のついた幅広の剣が空中に現れ、落ちてきて『ガン!』と地面に転がった。
俺が驚いていると、
「世界最強の剣、聖剣エクスカリバーよ。気合を込めてこれを振れば、光の刃が飛んでどんな生き物でも一刀両断よ」
「どんな生き物でも? 魔王でも?」
「魔王でもドラゴンでも、生きていれば一振りで終わりよ」
「チート武器、キタ――――!」
俺はエクスカリバーを拾うとまじまじと眺めた。豪奢な装飾がついた金色の
構えてみる……重い、ずっしりとくる。剣なんて持ったことないからどう構えたらいいか良く分からないが、両手で持って適当に少し離れた木に向かってエイッと斜めに振り抜いてみた。
すると、まばゆい光の刃が飛び出し、木にあたってパンと音を立てた。幹は斜めに一刀両断され、ズズズズとずれていき……最後にはズズーンと音を立てながら倒れる。
「うぉぉぉ!」
俺は思わず叫んだ。何だこの威力は!? 確かにこれならどんな敵が出てきても楽勝かもしれない。
俺が盛り上がってると、
「ほら、ゴブリンよ」
と、シアンが嬉しそうに言う。
ガサガサっとやぶの向こうから現れたのは緑色の肌をした小人……ゴブリンだ。手には短剣を持ち、猫背でよだれを垂らしながらこちらをギョロリとにらむ。俺を殺して餌にして、シアンを犯して
俺はすかさずエクスカリバーを振るう。
飛び出た光の刃はあっさりを先頭のゴブリンを真っ二つに切り裂いた。
「ギャウッ!」
と、言う断末魔の叫びを残し、汚い体液をまき散らしながら倒れていく。
たとえ魔物とは言え、殺すというのはやはり良心がとがめる。しかし、殺らなければ殺られるのだ。俺は『ごめんな』と心の中で唱えた。
「あら、上手いじゃない」
シアンが他人事のように言う。俺が失敗しても大丈夫なのだろうか?
そうこうするうちに後ろの二匹がひるむ事なく死体を飛び越え、駆けてくる。
俺は急いで構え直し、さらにもう一匹倒す。
その間に最後の一匹がとびかかってくる。ヤバい!
エクスカリバーは重く、ただのサラリーマンの俺では気軽に連発できない。
しかし、命がかかっているのである、俺は必死の思いで構え直し、何とか直前で3発目を打つ……。
「ウギャァ!」
三匹目も一刀両断され、死体が転がった。
「ふぅ……」
危なかった。どんなに強い剣でも大勢でかかられたらひとたまりもない。俺は経験不足を痛感した。
死体はピクピクとすると、やがて霧のように消え、最後にエメラルド色に輝く緑の魔石が残った。
そして、
ピロローン!
頭の中で効果音が鳴る。
「え?」
俺が驚いていると、シアンがチラッと俺を見て言った。
「レベルアップよ。『ステータス』って言ってみて」
俺は言われるがままに、「ステータス!」と、言ってみると、空中にウインドウが開き、中には俺のステータスが並んでいた。よくあるゲームのステータス画面と同じようだった。レベルは2、ド素人であることが確認できる。
他にもHP、MP、STR、ATK、VIT、DEF、INT……と並んでいるが、どの位あると何がどうだというのはピンとこない。おいおい試行錯誤するしかなさそうだ。
俺はエクスカリバーを軽く振ってみた。すると心持ちさっきより楽に振れる気がする。つまり、レベルを上げればどんどん戦いは有利になるらしい。この辺はゲームと一緒だ。で、あれば、最初やるべきはレベル上げではないだろうか? このチートな聖剣で強い奴バシバシ倒せば一気にレベルは上がるに違いない。
俺は魔石を拾いながらシアンに聞いた。
「レベル上げ……したいんだけど、どうしたらいいかな?」
シアンはニコッと笑って言った。
「この先にオークが出る森があるわ、そこでレベル上げして魔石を集めて街に行きましょう」
「オーク? どのくらい強いの?」
「うーん、レベル30の人向けだったかなぁ? でも宏は聖剣持ってるから一振りで解決よ」
さすがチート武器。レベル上げには最高だ。しかし、ゴブリンでヤバかった俺としては攻撃が失敗した時が気になる。
「失敗してオークの攻撃受けたらどうなる?」
「即死よ」
シアンは当たり前のように言う。
「そ、即死!?」
「当たらなければどうという事はないわよ」
シアンは他人事のようにそう言って、大きくあくびをした。
俺はビビったが、攻撃を当てるだけで一気に経験値を貰えるのだ。ミスが心配という意味では、下手にゴブリンたくさん狩る方がリスク高いかもしれない。俺は覚悟を決めてオーク狩りに行くことにした。
と、その時、ボン! とシアンがまた爆発した。
「うわー! またかよ!」
俺が少し離れて振り返ると……、煙の中からワンピースをかぶった猫が現れた。
猫はひどくウンザリした様な顔をしている。
「あれ? 人の姿は長く続けられないの?」
俺が聞くと、
「呪いなのよ、誰かさんのせいでね!」
そう言って俺をにらむ。
「え? 俺のせい?」
シアンはプイっと向こうを向くと、
「いいから行くわよ!」
そう言ってピョンピョンと森の中を駆けていった。
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