猫につれられて異世界転移の俺が射程距離∞のチートアイテムで無双するまで

月城 友麻 (deep child)

1-1. 猫に導かれるままに

瞬月斬りエクストラッシュ! 行っけ――――!」

 俺ははるかかかなた、100キロ以上遠くのワイバーンめがけ、聖剣エクスカリバーを振るった。

 ブンッと空気を切り裂く音と共にまばゆい光の刃が一直線に空をかけ……直後、ワイバーンを襲った。ウロコに覆われた恐ろしげな巨体のワイバーンは真っ二つに切り裂かれ、落ちて行く。

 その様子を望遠テレグラスで確認した俺は、

「や、やった! いける! いけるぞぉ! チート最高!!」

 と、興奮を抑えられず、場違いのスーツにネクタイ姿でこぶしを握って叫んだ。


 ピロロ~ン! ピロロ~ン! ピロロ~ン!

 レベルアップの音が頭の中に鳴り響く。


 ワイバーンが飛んでいたのは、肉眼だとうっすらと見えるか見えないかくらいの遠くの山の上。俺は異常に高性能な双眼鏡である特殊なチートアイテム『望遠テレグラス』で、ワイバーンを捕捉ほそくし、これまた世界最高のチート武器『聖剣エクスカリバー』で倒したのだ。


 とんでもなく遠いところにいる強敵を聖剣を振るだけで倒したのだ、こんなチート本当にいいのだろうか?

 俺は訳分からないファンタジーの世界にいきなり転移させられて、絶望しかけていたが、これでこの世界でやっていける自信がついた。


「Yes! Yes!」

 俺は嬉しさで何度もガッツポーズを繰り返す。


 そんな俺をわらうかのように、隣で猫のシアンがつまらなそうに大きなあくびをした。


 俺は遊馬宏あすまひろし、24歳のしがない営業職のサラリーマンだ。ついさっきまで東京にいたのに、この猫のせいでとんでもない事になってしまっている。

 俺は元の世界に戻るため、魔王とやらを倒さねばならないらしい。だが、ただのサラリーマンがそんな恐ろしい奴と戦って勝てるわけがない。俺は気が遠くなったが、なんとこの聖剣エクスカリバーなら魔王も一刀両断にできるそうだ。何というチート武器! だったらとっとと魔王をぶった切って東京に戻ってやるのだ。


 チート最高! チートは正義!


       ◇


 そもそもの始まりは猫との出会いだった。俺は仕事終わりで疲れた体をゆらゆらと揺らしながら、駅に向かって歩いていたのだが……ふと、トコトコと繁華街を横切る青く光る猫が目に入った。

 ロシアンブルーの様なスマートな体に高貴な小さい顔……、それがぼうっと蛍光し、幻想的な光る粒子を振りまきながら歩くそのさまは美しく、神がかってすら見えた。

 猫は小さな路地にトコトコと進む。無類の猫好きの俺は好奇心にひかれて、つい後を追ってしまう。

 猫はさらに狭い薄暗い路地へと入っていく。見失うまいと駆けていくと……暗い小さな神社の前に出た。こんな所あっただろうか……?

 猫は薄暗い神社のさい銭箱の上で、妖しく光りながら俺を見る。俺はその幻想的な光景に魅了されてしまい、怪しいと思いながらも鳥居をくぐってしまった。直後、俺は闇にとらわれる。身体にまとわりつく謎の闇、振り払っても振り払ってもどんどん体は闇に侵されていく。

「うわぁぁ! なんだこりゃあ!!」

 やがて手足の感覚がなくなり……意識が遠のいていく……。

 俺はこの世との別れを直感すると、

「あぁ……あっけない幕切れだ……。彼女くらい欲しかったなぁ……」

 と、間抜けな事を言いながら意識を失ってしまったのだった。


      ◇


 ざらざらとした小さな猫の舌が俺の頬をペロペロとなめる……。

「あ、あれ?」

 目を開けると猫が俺の様子をうかがっている……。

 すらりとした体躯たいくに美しい毛並み……。水色の瞳が俺をじっと見つめている。

「うーん? ここは……?」

 俺は体を起こし……、周りを見て驚いた。

「えぇぇ!? こ、ここはどこだぁ!?」

 そこは壮大な森の真っただ中、見渡す限り木が生い茂る大自然の中にいたのだ。

 遠くでチチッチチッと鳥が鳴いてる声がする……。

 

 俺は呆然ぼうぜんとした。

 東京のど真ん中に居たはずなのに森の中にいる……あり得ない。

 俺はスマホを出して画面を出したが……圏外。急いでアプリを開き、GPSを見たが……機能していない。GPSが効かない所など地球上には無い。つまり……ここは地球ではないって事らしい。

 俺は愕然がくぜんとした。いわゆる異世界転移って奴ではないだろうか?

 実に迷惑な話だ。俺は思わず頭を抱えた。


 この見ず知らずの異世界の中で俺は生き抜かねばならないのか?

 俺は気が遠くなる思いがして、しばし目をつぶって深呼吸を繰り返した。


 猫が俺の足をカリカリとひっかく。

 見ると、心配そうに俺を見ている。


「おいで」

 俺はそう言って、そっと猫を優しく抱え……軽く頬ずりをした。ふわふわで温かい毛並みは混乱する俺にひと時の安らぎを与えてくれる……。


 猫を堪能していると、耳元でいきなり声がした。


「くすぐったいにゃ」

 俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。

「……え?」


「ちょっと、下ろすにゃ」

 猫だ、猫がしゃべっているのだ。


「しゃ、しゃべった!?」

 俺が驚くと、ピョンと俺の腕から飛び出し、

「しゃべったくらいで驚くんじゃないにゃ」

 そう言って、地面で体をブルブルッと震わせ、丸くなって座った。


 しゃべる猫なんて聞いたことがない。一体こいつは何者だろうか?

 この猫は見た目こそ可愛いロシアンブルーだが、光ったりしゃべったり明らかにおかしい。


 俺は恐る恐る聞いてみる。

「お、お前が俺をここに転移させたのか?」

「『お前』じゃないにゃ、あたしは『シアン』、ひろしのサポート猫にゃ。別にあたしが連れて来たわけじゃ無いにゃ、宏が勝手に転移したのでついてきてやっただけにゃ」

 そう言って、体をペロペロッとなめた。

「『勝手に転移』ってひどいな、俺の意思じゃないぞ! どうやったら帰れるんだ?」

 シアンは俺をチラッと見ると、

「魔王を倒せば戻してもらえると思うにゃ」

 と、とんでもない事を言う。

「ま、魔王!? そんな恐ろしげな奴、俺が倒せるわけないだろ!」

 俺が焦ると、

「大丈夫にゃ、あたしがサポートしたら余裕にゃ」

 そう言って大きくあくびをした。


 うっそうと茂る森にいきなり飛ばされ、魔王を倒さないと戻れない、助けになるのがこの猫……。俺は圧倒的な理不尽さに言葉を失う。


 そして、やりきれない思いで、落ち葉の積もる地面をバシッと叩いた。


「どうなってんだよ……」

 ほこりがふわっと舞う……。

 すると……。


「にゃっ」

 猫が何か言う。

「にゃっ」

 猫が大きく目を開けて止まっている。

「なに?」

「にゃくしゅん!」 


 ボンッ!

 猫がくしゃみをすると同時に爆煙が上がり、中からまばゆい光が放たれた。


「うわ~、何すんだよ~!」

 俺は腕で顔を覆いながら逃げ出した。

 なぜ猫が爆発するんだ!?


 振り返ると……煙の中から何かが出てくる……。

 何だろうと思ってじっと見ていると、出てきたのはなんと美しい少女だった。しかも何も身に着けていない産まれたままの姿だ。俺はあっけにとられた。

 少女は大きく手を開き、空中に浮かんでいる。均整の取れたプロポーション、豊満でありながら美しく整った胸、透き通る白い肌……その姿は女神のような神聖さすらたたえていた。

 水色の髪をゆったりと波打たせながら少女はゆっくりと目を開く。その瞳は猫と同じ色の澄んだ水色である。

 女性と交流の乏しかった俺にとって、こんな美少女が目の前で素っ裸になっている状況は生まれて初めてである。男のサガとして、つい、豊満な胸に目が行ってしまう……。


「どこ見てんのよ! バカ――――!!」


 バッチ――――ン!!


 少女の張り手で吹っ飛ぶ俺……。

「はへ――――!」


 少女は片手で胸を隠し、内またで俺をにらんで涙目でフルフルと震えている。

「ご、ごめん」

「いいからあっち向いてなさいよ!」

 少女はプリプリと怒った。

 俺は頬をさすりながら後ろを向く。

「見るつもりなんてなかったんだけど、いきなりだったから……」

「言い訳は止めて! スケベ!」

 ご機嫌斜めである。

 そして、何やらゴソゴソとしている。

 しかし、あの美しい裸体は凄かった……。まるでギリシャ彫刻のようで、エロいというよりは美しかった……。ちょっと心が洗われた気分だ。なんかちょっと一生忘れられそうにない。

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