最終話その1(松本さん視点)

 そして私は仕事に打ち込み、会社での業績はアップ。多少のお給料は上がりましたが、微々たるものです。その2年後に取引先の営業の男性と出会い、半年の交際をへて結婚。

 現在は退職して専業主婦となり、お腹の中に新しい命が宿っています。もうすぐ産まれるくらいの時期です。


 あれからコーヒーを飲む機会も量も減りましたが、あのコーヒースタンドで飲んでいたいつもの深炒りコーヒー以上に、美味しいコーヒーに出会えた事は無かったです。


 確かに今の主人は、私を大切にしてくれ、とても幸せです。ですがたまに、「あの時にあの店員さんの名前を聞けていれば、隣にいる人は変わっていたのかも?」、なんて想像をしますが、それは夢幻ゆめまぼろしのお話。想像しておくだけにしましょう。


 今住んでいるマンションの窓からは、きれいな茜色の夕日が見えます。そんな夕日を眺めていると、ふと思ってしまう事があります。それはまだ、あの店員さんが私の心の片隅に存在している事。決して浮気という事ではありませんが、心の支えになっている事は確かです。


 沈む夕日を眺めながら、私は思ってしまいます。

『まだ私は、あなたの事が好きでいて、いいですか?』

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