第56話 言葉にならない感謝
黙々とコーヒー資機材をダンボールに詰めて、軽トラックに乗せて行く奥の店員さん。
何度か往復をして、軽トラックの荷台には荷物がダンボール5箱ほど。お店の方はすでに何も無い状態に。ここまででものの5分ほどの時間でした。
本当にあっけなく片付いてしまって、まだ閉店するという実感が私には湧きませんでした。
「さーて、これで終わり……か」
奥の店員さんが、ポツリと言葉をこぼします。寂しいようなスッキリした感じと言うか、何とも複雑な、こぼれた言葉に感じました。
「では、これで帰ります。短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました」
そう言って、奥の店員さんは深々と頭を下げてから私に正対し、晴れやかな笑顔を私に向けてくれました。
その時にやっと感じました。「ああ、これで本当に終わりなんだ」と。
私の返答を待たずに、軽トラックの運転席に乗り込む奥の店員さん。ドアを閉める「バタム!」という乾いた音が、最後のピリオドとなってしまいました。
客と店員、その関係は終わりです。
私はエンジンがかかって走り出した軽トラックを見送りながら、心の中で感謝の言葉を送ります。
「貴重な時間をありがとう」と。
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