第49話 帰りは送ります

「早めに戻ってこれて、良かったですよ」

 奥の店員さんは語ります。

「ちょっと買い出しに出かけてまして、たまたま店のシャッターの鍵をかけてない事に気付いて、戻った所であの状況でしたから。運が良かったです」

 本当に運が良かったです。奥の店員さんが、紙コップに水を入れて差し出してくれましたので、それを頂いて気持ちを落ち着けます。


 奥の店員さんはいつになく饒舌に語ります。今までこんなにしゃべっているのを見た事が無いくらい。

「今日の所はこんな状況ですから、駅まで送りますよ。もう帰りましょう」

 その言葉で、私の今の状況がさらに悪くなった感じがします。今後は夜の焙煎作業に顔を出すのも、控えないとダメのようです。


 私と奥の店員さん、二人並んで駅までの道を歩きます。

 道を一本隔てた向こう側は繁華街で、お酒を飲んだ人たちのざわめきが、こちらまで響いてきます。

 そんな道を二人で歩いていると、独りの時とは違う心強さを感じます。誰かと一緒に居る事が、ここまで頼りになるとは思いませんでした。


 駅までたどり着いて、駅前でお別れです。

「後は大丈夫ですか? おれはまた店に戻ります。それでは」

 そう言って、また雑踏の中を戻って行きました。

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