第42話 空っぽの手提げ金庫
「何があったんですか?」
奥の店員さんは、イケメン店員の石原さんの消えた人混みの方を見つめながら、私の質問に答えてくれました。
「まあ、相変わらずの金銭問題ですよ。アイツがアチコチで飲んで女性をナンパして、その時の料金を店にツケていたんです。」
何とはなしに想像がついてしまいました。おそらく石原さん、以前の親睦会みたいに「ここは俺がおごるから」と言って、お店から支払う形にしていたんだと思います。
で、その支払いがされてない事を不審に思って、お店まで出向いた、と。
「昨日もどこかのキャバクラか何かの店員が来て、「ツケを払え!」って脅してきましたよ。もちろんそんなお金は無いですから、金庫を開けて見せて、「さあどうぞ」ってやりました。空っぽの手提げ金庫をね。それで相手は帰りました」
奥の店員さん、なかなか度胸がありますね。私だったら、声も出せなかったでしょう。
「今頃アイツ、色々な所からのツケの請求で、てんてこ舞いになってるんじゃないかな?」
自虐的に少し笑う奥の店員さん。その笑顔の裏には、寂しさが見え隠れしていました。
「……あの、力にはなれないかも知れませんが、応援はしてますから……」
私が搾り出した答えは、これだけでした。
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