第39話 隙間からの注文
次の日になり起床すると、喉がカラカラになっていることに気が付きました。あの夜のコーヒー以外に水分を取っていないのですから、これは仕方ないですね。
起きぬけに一杯の水をキュッと喉に流し込んでから、朝の身支度です。この“ただの水”が、とても美味しく感じるのです。
そして相変わらずの満員電車に押し潰されそうになりながら、会社までの道を進んで行きます。この時は生きた心地がしませんね。
会社に到着したら、早速いつもの準備のルーティーンです。電気ポットに水を注ぎ、休憩の時に飲むティーバッグやコーヒースティックの残数を確認して、掃除も済ませて、朝礼です。
今日の申し送り事項に目立って大きなものは無く、午前中に仕上げるのはプレゼン資料を集める事です。そちらも滞り無く進み、お昼休みとなりました。
いつものように遠藤さんと一緒にコンビニに寄って、その足でコーヒースタンド『ピーベリー』に立ち寄ります。
今日はイケメン店員の石原さんがお店に立っているようで、お店前では近くで仕事をしているでしょうオフィスレディな姿の女性3人が、おしゃべりに興じているのが見て取れました。
お店前に到着すると、そのおしゃべりの集団がお店の前を占領してしまっていましたので、コーヒーの注文ができません。
そんな時に奥の店員さんが身体を傾けて、おしゃべりの集団の脇からこちらを覗き込んできまして、私と目が会いました。そこで私は、「深炒りふたつ」とゆっくりハッキリと口だけを動かして、奥の店員さんに伝えます。奥の店員さんは手で「O.K.」とサインを出し、注文が伝わった事を示してくれました。
そこから脇に置いてある椅子に座って、少しの時間だけ待っていると、奥の店員さんがお店の中から出てきてくれて、私たちにコーヒーを差し出してくれました。
「すいません、余計な手間を取らせてしまって。深炒りふたつです」
「ありがとうございます」
私と遠藤さんはコーヒーを受け取ると、戻っていく奥の店員さんの背中を見送りながら、会社まで戻る事にしました。
もちろん、その間もおしゃべりの集団は動く事もなかったです。
会社に戻って、サンドイッチにコーヒーを頂きます。
昨日飲んだコーヒーの印象が良かったので、このコーヒーも美味しいのは確定です。タップリ熱々ののコーヒーを「ずずずっ」と口に流し込むと、昨日の試飲で飲んだ時の印象よりもはるかに、芳醇な香りとナッツ系の印象の味わいが感じられました。これがサンドイッチのハムマヨと合うのですよ。
「しかし、今日もおしゃべりがはかどっているようでしたね」
私がポロッと言葉をこぼすと、遠藤さんも同意してくれました。
「ほーんと。以前は私もあの中に入ろうとしてたけど、もう興味が無くなっちゃった」
人間って変わるものです。
そんな短いお昼休憩も終わり。午後も普段と変わらない仕事です。次の仕事は、細かな経費の入力作業です。
美味しいコーヒーも頂いて、元気になりました。頑張って片付けましょう。
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