第34話 おしゃべりしたいの
さてそんなコーヒー談義が終わって帰宅して、次の日です。
いつも通りの通勤電車の中、吊り革につかまって揺られながら、私はスマホ画面とにらめっこしていました。
原因は、昨日のコーヒー談義。私がネット書籍でゼロ円で入手したコーヒーの本が、かなり昔の書籍で情報が古いものだったと知って、新しくちゃんとした新しい情報が掲載されている本を買おう、ある程度の値段は出してもいいから。と思って登録書籍の一覧を見ているのですが、いまいち「コレ!」という本が見つかりません。
出版年月日を見つつ、なるべく新しそうな本を探しますが、本の表紙からして難しそうに思えてしまうのです。こういう所で『ハードルの高さ』を感じてしまいます。
「ホントどうしよう……。なんだか、どれも同じように見えてしまう……」
そんなこんなでスマホ画面とにらめっこをして、駅を降りて改札を通り、いつも通りの出勤です。
午前の仕事も一段落して、遠藤さんに入力のダブルチェックをお願いしました。そこで遠藤さんから、思いもよらない言葉を投げかけられました。
「松本さん、今日は集中してない様子ね。ほら、ここの入力、間違ってるわ」
言われて初めて、自分が集中できていない事が認識できました。こんな簡単な入力ミスをするなんて、普段では考えられない所でした。
「何か悩みでもある? あるなら聞くわよ」
そんなこんなでそろそろお昼休憩です。そこで思い切って、遠藤さんに今の悩み、コーヒーの本の事を話してみる事にしました。
「以前に、コーヒースタンドの焙煎作業を見学してるって言っていたじゃないですか。そこで話される内容についていけなくって……。本を読んで勉強してても、全然追いつけなくって……」
そこで遠藤さんから返ってきたのは、意外な返答でした。
「もしかしてだけど、本当はコーヒーのお話をしたいのじゃなくて、その奥の店員さんと“普通の”おしゃべりがしたいんじゃない? あの人も誠実そうだし、松本さんにお似合いよ」
えっ……?
一瞬否定しようとしましたが、言葉が出てきませんでした。コーヒーのお話じゃなくて、単に他愛のないおしゃべりがしたい。本当はそっちが本心なのだと、ストンと腑に落ちた感覚がありました。
ああ、私は背伸びをして無理をしていたんですね。
「そうなったら、イケイケゴーゴーよ! 色んな事をおしゃべりしちゃいなさいな!」
遠藤さんに励まされるように声をかけられ、私は決心しました。
「はい! もっとおしゃべりしてみようと思います。なんだか胸のつっかえが取れました。ありがとうございます」
私の感謝の言葉に、遠藤さんは手を振って遠慮します。
「いいのいいの。女子は恋バナが大好きだもの」
それは遠藤さんだけですよね?
ちょっと笑ってしまいました。
そっか。等身大の自分のお話でいいんだ。そう思うと、話しかける勇気が湧いてきました。
次の焙煎作業の時には、色々お話しようと決心しました。今夜が楽しみです。
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