第33話 2050年問題

 それでさっきの会話の中で、『2050年問題』というお話が出てきました。私は聞いた事が無い言葉でしたので、この際ですから思い切って聞いてみる事にしました。

「あの……。『2050年問題』って何ですか?」


 そこで奥の店員さんは、一度焙煎機を準備する手を止めて、私の話を受け止めて、答えを返してくれました。

「まず、コーヒーは赤道を中心とした低緯度地域、いわゆる『コーヒーベルト』で作られるのは、わかってますか?」

 私は本に掲載されていた世界地図、その赤道付近が赤い帯で色分けされて、そこがコーヒーの主要産地である表記を思い出しました。

「はい、図解で出てました」

 そこまで確認すると、奥の店員さんは言葉を選ぶように、解説を始めました。

「コーヒー、特にアラビカ種は、そのコーヒーベルトの地域の中でも標高ひょうこうの高い所、寒暖差のある地域を好むんです。ここまではわかりますか?」

「はい」

「では続きを、そういう感じで、生産地域が限定されているのがコーヒーです。もしこれが、地球温暖化などの気候変動が起こったら、どうなると思います?」

「……あっ」

「わかったようですね。そう、気候が変動すると、その地域ではコーヒーの栽培が難しくなるんです。

 このまま気候変動が続けば、2050年には、アラビカ種の生産地域が半減する、と言われています。そうなれば、一般庶民ではコーヒーが飲めなくなるかもしれない。

 これが『2050年問題』です」


 そんな事になっているなんて、全然知りませんでした。コーヒーが飲めなくなる日がくるなんて、想像が付きません。

「あれ、でも品種の選抜やら栽培地域の開墾かいこん、そういった事はやってんでしょ?」

 一緒に聞いていた年配の男性から、サポートの質問が飛んできました。これは聞きたい所。

「色々やってるようですが、根本の地球温暖化の対策をしないとダメみたいですよ。そのための『SDGs《エスディージーズ》』ですしね」

 あぁ、やっぱり根本から改善しないといけないのですね。これは仕方ないです。


「理解できました。貴重な情報をありがとう御座います。

 あっ、焙煎の作業、邪魔してしまってスイマセン」

 私が頭を下げると、「いえいえ大丈夫ですよ」と奥の店員さんから言葉が返ってきて、カチャカチャと手回し焙煎機の準備が再開されます。

「こういう感じで、質問してきて下さい。分かる範囲で解説しますので」

 奥の店員さんの配慮で、またひとつ、コーヒーについての知識が深まりました。ただただ飲んでいるだけのコーヒーの中に、これだけの手間暇と知識・情報が詰まっているのですから、これからは感謝して頂かなくてはなりませんね。


 こうして、手回し焙煎機から「ジャラジャラ、ジャカッジャカッ」という乾いた音が響いてきて、今日の質問タイムは終了です。

 やっぱり最新の情報が載っている本が欲しくなりました。

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