第26話 コーヒー豆の再利用
そして次の日の朝になりました。
昨日言われた、『悪くなったコーヒー豆の別な使い方』というものが気になって、早くその謎を解きたい衝動にかられてしまいました。そんは訳でもありまして、午前中の仕事はかなり早めに仕上げてしまいました。
「よし、入力O.K.。遠藤さん、ダブルチェックをお願いします」
こうしたパソコンを使っての入力作業では、些細なタイプミスがよくありますから、別な人にもう一度チェックをしてもらうのが慣例になっています。この時も、同僚の遠藤さんにチェックをしてもらいました。
「……うん、大丈夫。これでO.K.ですよ。松本さん、入力が以前よりも早くなったんじゃない?」
「え? そうですか?」
……言えない。コーヒーを飲みたいがために、早く仕事を片付けてるなんて、とてもじゃないですが言えません……。
ともかく午前中の仕事は終わってしまいましたので、お昼休みまで別の仕事です。電気ポットのお湯が沸いているのを確かめ、ティーバッグやスティックのインスタントコーヒーの残量を確かめます。すでに朝にやっている事の繰り返しですが、そうでもしないと待ちきれない状況です。
昨日のあの言葉の意味は……。
そして、待ちに待ったお昼休み。
「じゃあ、行きましょうか」
私は遠藤さんと一緒に、いつも
コーヒースタンドはいつもと同じように、四人くらいのお客様が並んでいて、コーヒーが出来上がるのを待っていました。その列に私たちも並ぶのですが、並んだ時にお店のカウンターの左端に、いつもは置いていない小さな箱が置かれているのが目の端に止まりました。私は「多分これなんじゃないかな?」と内心推理を働かせて、列が流れるのを待っていました。
ある程度列が流れてカウンターの前あたりまで近づいた時に、カウンター端のその箱の中身を見てみると、白い布で作られた、昔におばあちゃんの家にあった『お手玉』のような、丸く包まれたものが並べてあり、「ご自由にお持ち帰り下さい」と、立て札が立ててありました。
白くて丸い大福のような“それ”は、とても素朴で飾り気の無い、そんなものでした。一体何に使うものなんでしょう?
そんな不思議なものについて考えていると、列は流れて私たちの順番になります。そこで思い切って白くて丸い“それ”について、聞いてみる事にしました。
「ああ、いらっしゃい」
「あの、すいません。あの白い玉は何ですか?」
私の問いに、イケメン店員の石原さんは顔をひきつらせながら奥に視線をやり、「な……なんだっけ?」と、小声で奥の店員さんに質問していました。
奥の店員さんは「やれやれ」と呆れた表情で作業テーブルの奥から少し前に出てきて、私の質問に答えてくれます。
「この前に、古いコーヒー豆には使い道があると言いましたけど、“これ”がその使い道です。中に古いコーヒー豆を挽いたものが入っていて、それが脱臭・芳香剤の代わりをしてくれるんです。靴の中や下駄箱の中に入れると、いい働きをしてくれますよ」
へぇー。コーヒー豆がそんな事をしてくれるとは、思ってもみませんでした。靴の消臭・芳香剤なら、人によって需要はありそうですね。
「じゃあ、深炒りと、この芳香剤を二つ。お願いします」
すかさず私が注文すると、遠藤さんも同じように「私も深炒りで」と注文してくれました。
奥の店員さんは注文を受けると、白い布の玉の芳香剤を指差し、
「いくつでも持っていっていいですからね。で、効果が薄くなったら、またこちらに戻して下さい」
と、注釈を入れてくれました。
「捨てるのはダメなんですか?」
と私が問いかけると、
「捨ててもいいですけど、こちらに戻すのがいいですね。中身を腐葉土と混ぜて、
なんと、徹底的に使い倒すつもりです。
「はぁー。すごいですね。最後まで使いきるなんて。やっぱり考えているレベルが違いますね」
私が感心している間に、深炒りコーヒー二つがササッと淹れられて、私たちの前に差し出されました。
「お待ちどうさま。ここまでやれて、
お見それしました。
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