第2章 神の願い

零、創造

 ここは、此岸と彼岸の狭間。浮世うきよでもなく、常世とこよでもない。反対にいえばどちらへも干渉が可能であり、干渉されることもままある場所。只人が迷い込めば何が起きるかわからない、ここは『神々』の住まう領域。


 これは、自由気ままに日々を過ごしている、とある神様たちの日常の物語。






 本来神様というものは自然に宿っていたり、人間の立てたほこらや神社のような固定されたものに住み付いたりしている。もちろん常世にも住んでいる神様はいて、俗にいう天国にはたくさん住んでいるし地獄にも物好きであったり管理者であったりする神々がいる。だが、とある神々が住んでいるこの場は浮世にも常世にも繋がっていながら『位相』が異なる。ここに住んでいる神様のうち、ここを創造した神様がそのようにつくった場所で、いわばここは規模の大きな家。気の許せる神々だけが共同で住んでいる大きな家といえる。だから普通の人間には見えないし、常世の者たちもおいそれと入って来られるような場所ではないのだ。


 ところで、この世界で『神』というのは、命に明確な限りはないものの人間からの『信仰』がなくなると酷く弱体化し、最悪消滅する可能性がある。この『信仰』というのは崇め奉ることに限らず、嫌悪にせよ興味にせよ認識がなくならなければよいものである。そのため、かの有名な白い太陽神や黒い冥府の女神、はては死神も認識が強いため確固たる力をもつ。しかし一度認識が薄れると、その神は自分の存在を保つことが難しくなる。そのため神々は、人間の認識から己の存在が薄れることを恐れた。だが、認識が薄れても存在が保てる方法がたった一つだけある。それは、己に向けられた『生贄』だった。


 この『生贄』という習慣はどうしてか神々が手ずから教えることもなく、勝手に人間たちが始めた文化であった。しかし、このように人間を捧げてもらうことによって認識が薄れても存在を揺ぎ無いものに出来ることを知った神々は、わざと天災を起こして生贄を取るようになった。


 これを見て、私欲に濡れていることこの上ないとなげいた二人の神がいた。あくまで神というのは人々や自然の移ろいを見守る存在であり、勝手に干渉するのはよろしくないと意見が一致した二人は、せめて自分らが守っている領域だけでも手付かずでいてほしいと他の神が干渉できないように、あるがまま時が流れるようにと見えない境界を築いた。そして切り取ったその領域から少し位相をずらし、あの世とこの世の境に見た目は現世そっくりな自分たちだけの領域を創り出したのだ。






 そこから時は流れ、この領域に住む神は増えて世代は交代した。変わることなく美しいこの領域は、徐々に活気に溢れることとなる。それは浮世でのこの領域にも言えることで、あの初めの二人はそっと顔を合わせて笑いあった。この幸せがいつまでも続くようにと願って、この世界を見守っている。

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