姫と執事の内緒⑥
瞳の色だけでエドガーの言葉を完全に信じるのは少々早過ぎる。 しかし動揺してしまったニーナは、自身が偽物であるとすっかり思い込んでしまっていた。
「・・・私はこれからどうしたらいいのかしら?」
「と、申しますと?」
「私はこのまま、このお城にいても大丈夫ですの? それとも真実をお話して出ていく方が賢明ですの?」
「それは姫様自身がご決断するのがよろしいかと。 姫様が隠すというのなら、僕も当然黙っておきます」
「・・・」
このまま隠し続けられる保証はない。 だが城を出て一人で生きていく術もない。
「もしこのお城から出られるのでしたら、姫様は行く当てがあるのですか?」
「それはもちろん・・・」
思い浮かぶのは本当の実家だ。 だがそれをエドガーは見透かしたように言う。
「姫様本来のご実家には、本物の姫様がおられるのですよ」
「・・・ッ、そうだったわね。 本物の姫も入れ替わっていることを知らないでしょうし、今更また入れ替わるというのも・・・」
正直無理だと思った。 もう一度入れ替われば流石に周りにバレることは明白だ。 そうなれば、王族と子供を入れ替えた罪が軽いはずがない。
おそらくは打ち首、よくてももう二度と日の目を見ることは叶わないだろう。
「姫様の本当のご両親のお気持ちもありますからね」
「・・・それって、確かめることは可能ですの?」
ただ現在どんな風に思っているのかはやはり興味がある。
「ご両親のお気持ちを、ですか?」
「えぇ」
「それは一度、ご実家に戻られるということですか?」
「その通りです。 エドガーは私の実家の場所を知っておられますの?」
エドガーは思い出すような仕草を見せる。
「それとなく聞いてはみました。 探したらすぐに見つかるかと思います」
「では早速街へ出かけましょう。 エドガー、案内をお願いしますわ」
「かしこまりました」
あまり城下へは行かないため街へ出るのが新鮮だった。 小さな子供が大通りを駆けていく。
―――こんなに小さい子、多かったかしら?
そう疑問を持ちながら案内された場所は、たくさんの花が置かれている小さな家だった。 確かにエドガーは自分のことを花売りと言っていた。
花売りの経験はもちろんないため、花売りの子、ということになる。 今住んでいる城と比べれば当然のこと、周りの家から見ても裕福そうには見えない。
ただ廃墟のようになっているわけでもなく、つつましく生活をしているように思えた。
「あちらです」
「エドガーはここで待っていなさい。 私一人で行ってきますわ」
「分かりました。 ・・・ですがあまり、期待はしませんように」
「・・・」
ニーナは家に近付き気持ちを整えるとノックをする。 するとそこから母親らしき人が出てきた。 驚いた顔をして言葉を失っている。 目が潤んで今にも泣きそうだった。
「・・・あ、あの」
口を開くと父親らしき人も出てきた。 しかし、何故か怒った顔をして近付いてくる。
「どちら様ですか? ・・・失礼しました、姫様でしたね。 この家に何かご用が?」
「え、えぇと・・・」
あまりの威圧さに戸惑っていると家の中から声が聞こえてきた。
「お母さーん! 洗濯物、ここでいいのー?」
一斉に家の中を見る。 そこにいた同い年くらいの少女と目が合った。
「え、姫、様・・・?」
「ッ、失礼しました!」
もう見ていられず深く頭を下げこの場を離れ、エドガーのもとへと走って戻った。 何故か分からないが、目からは涙が溢れている。
―――・・・期待はしないようにしていましたが、やっぱり寂しい。
―――とても質素な生活をしていたけれど、どこか温かくてとても幸せそうで・・・。
―――本当に私はあの家へ戻ることができるのかしら?
「姫様。 振り返ってみてください」
エドガーにそう言われ振り返る。 そこには泣いている両親が家の中に戻っていく姿が見えた。
「ッ・・・」
「あの涙が真実ですよ」
エドガーからハンカチを貸してもらい涙を拭きながら二人はこの場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます