第31話 『落下する夕方』を八幕九場構成で分解したよ

『落下する夕方』を八幕九場構成で分解したよ


 江國香織氏の『落下する夕方』のあらすじ分解です。


 ラリー・ブルックス氏の著作をもとに八幕九場構成で分割しています。ラリー氏は四幕です。

 通常(映画など)は三幕八場構成なので、興味がある方は調べてみてください。

 以下は総ネタバレなので、小説を未読の方はご注意ください。


あらすじ


 八年間つきあってきた恋人の健吾が梨果に別れを告げた。健吾は新しい女を好きになったといって、同居していたマンションを出ていく。

 梨果は健吾のマンションでその女と遭遇する。梨果がマンションの家賃を払えなくて困っているところへ、その女――華子は梨果と同居したいと申し出る。

 梨果は華子と同居生活を始める。梨果は華子と付き合っている健吾との関係を断ち切れず悶々とするが、華子が本当に健吾が好きかどうかはわからなかった。

 華子は長期間行き先を言わずに失踪することがあった。その裏に潜む男の影に気づいて、健吾は苦しむようになり……


章立て……14章

シーン……79シーン

文字数……約130500字 (原稿用紙約435枚)

1シーンの文字数……約1651字(原稿用紙約5.5枚)


起 1~26 39000字

承 27~51 40800字

転 52~66 27300字

結 67~79 23400字

 

1 梨果が健吾に振られ、健吾の思い人華子が梨果と同居する

2 健吾が同居を反対するが、梨果は華子と気が合うという

3 華子が無断で家を出て行き、健吾は華子が旅行中男といたことに落胆する

4 健吾が華子に拒絶され、華子は梨果のチケットを使って香港へ行く

5 華子が梨果のもとに帰ってきて、華子が梨果に弟を紹介する

6 華子の保護者の中島が訪れる。華子との関係を清算しようとする健吾から華子と梨果が逃げる

7 華子が中島の別荘で自殺する

8 健吾を現実に連れ戻すために、梨果が健吾を強姦しようとする


 これが八幕構成のあらすじです。

 1シーンの文字数1651字は、一般小説でもかなり細かめです。自分調べですが、一般小説の平均は2300字くらいです。

 あと、今回は八幕九場構成に無理矢理当てはめた感があるので、分け方にはあまり自信がありません。なので前半が約8万字とかなり長めです。

 後半が約5万字、特に起承転結の結の部分が短めに構成されています。

 前半の分量が長いということは、梨果・健吾・華子の三角関係にページが割かれているということだと思います。


■八幕九場構成のあらすじ


1 起1 24600字


 「設定」

設定とは作品の舞台や人物紹介、今後の葛藤や対立などの伏線のことです


梨果が8年つきあっていた健吾にふられる

健吾が同居していた家を出ていく

香港に住んでいる友達の涼子から電話がくる

健吾を取り戻せと言われる

梨果の仕事 教育機関で子供に絵を教えている


 「フック」

フックとは読者を作品へ引き込む「掴み」のことです

冒頭の部分に健吾の新しい彼女との遭遇のシーンがあります


健吾のアパートに行く

女と遭遇する

きれいな顔をしているけれど、表情にどこか野蛮なところがある


十日後に健吾から電話がかかってくる

華子のことを健吾から聞かされる

健吾は華子に梨果のことをぜんぶ説明した

梨果は、そんな健吾もそんな話を聞く自分もどうかしていると思う


 「インサイティング・インシデント」

話の流れを変えるドラマティックな出来事で、話が転がっていく起点です

話はここからプロットポイント1に繋がっていきます


梨果の家に華子が待っていた

8万円でここに住みたいという

梨果はバイトをしなくてもすむし、それが3人にとって完璧な解決法だと華子はいう


どうして健吾と住まないの? と梨果が聞く

華子は健吾と住む理由がないという


梨果が健吾に華子がいっしょに住んでいることを告げる

こういうことになっちゃったと華子がいう

住むところが見つかってよかった

梨果は不条理さに心細くなりながら鼻歌を歌う


2 起2 14400字


「一週間外出する」と華子の書置きがある (華子のエスケープ一回目)

行き先は不明 一週間後に帰ってくる


健吾が華子に会いにくる

自分に会いに来ない健吾を待つのは寂しいと梨果は思う


次の日、梨果が健吾に呼び出され、

昨日みたいなこと、不愉快だろと言われる

健吾に、華子といっしょに住んでいると

梨果と華子が姉妹のようだと混乱する

梨果は平気なのかと聞かれる

華子とは気が合うと梨果が言う


華子が湘南へ行くので十日間くらい留守にするという

(華子のエスケープ二回目)

華子は健吾を愛していないという

梨果は健吾がかわいそうだと思う


健吾から連絡が来る

華子は海のほうに出かけたという(本当はゴルフだが、梨果は気を遣って言わなかった)


 「プロットポイント1」

主人公の状態や計画、信念に影響を与えるものが現れる瞬間です

これ以降主人公の体験の方向性が決まります


スイカの鉢植えを買う

健吾が来る

健吾が出て行ったことも華子のことも、長くて悪い夢だったのだと思う

急にやってきて悪かったかなと健吾に言われる

梨果は健吾の他人行儀な態度を見て、絶望的に悲しくなる


3 承1 27300字


華子が帰らない 二週間経っても音沙汰がない

直人くん(梨果の絵画教室の生徒)が華子は直人の家に泊まっているという

華子が以前会った直人くんの父親に連絡を取っているのだと梨果は思う


華子から電話がくる

湘南に行ってるのではなかったのかと華子に聞く

二週間行ってきたの、と言われる。その先を華子は説明する気がない

直人の父親と知り合いだったのか聞く

どうしておこるの、と不服そうに言われる

華子はおこられるのが大嫌いだという


三週間ぶりに華子が帰ってくる


梨果が華子が帰ってきて嬉しいと思っていることを友人の涼子に憤慨される

飛行機のチケットを送ってあげるから香港に遊びに来いと言われる


健吾を呼んでスイカを食べる

健吾が華子に、海に行ってたんだって、と聞く

華子が湘南でゴルフに行ったという

ゴルフをするのか? 私はただ見ていただけ

華子がひとりではなかったことに気づいて健吾が落胆する


4 承2 13500字


健吾がやつれている

最近うまくいってるのに、どうしてなのと梨果が聞く

健吾が心底意外だというように梨果を見る

相模湖でデートしたというが、健吾は探るような目で梨果を見ている

華子は元気かと聞かれる

元気と答え、華子のようすを説明する


華子が外出する

直人の父親のところへも行っているらしい

健吾の元気がないようすを伝える

華子は気づかなかったという

相模湖のボートで健吾とセックスしたと華子が言う

健吾は困っていた。危ないよといってボートを押さえていた


 「ピンチポイント1」

敵対勢力が現れたり、敵の本質を認識したりする瞬間です


健吾が突然会社を辞めた。働く意欲がない

3人家族みたいだなと健吾が言う

お金が尽きたら3人で住めばいいと梨果は思う

健吾といっしょにいられれば、梨果にとって一番健全なのだと思う


華子から勝矢の話を聞いてないかと健吾に聞かれる

勝矢と華子がまだ続いているのかもしれないと思う


失業してから、健吾がご飯を食べに来る

華子がまた湘南に行ったときは、健吾と台所でご飯を食べる

昔みたいだな、と健吾が言う

健吾を母親みたいに、友達みたいに、恋人みたいに好きだと思う


健吾と華子が出かける

ふたりぶんの書置きがある

ふたりのばかげた誠実さ

こっそり行ってくれれば、こんな疎外感を感じずにすむのに


健吾が酔っ払って帰ってくる

健吾が梨果に抱きつく

華子が下着姿になって風呂へ入りに行く

動じない健吾に、健吾は順調に付き合っているのだと思う


華子が梨果といっしょに寝たいという

私、甘えられるの大嫌いと華子が言う

大きななりしてばかみたい、と

健吾に関しては、梨果は脳味噌が溶けていると言われる

知らなかったの? という梨果に華子が眉を吊り上げる


華子は健吾を放り出せという

だってもう会いたくないんだもの、と

梨果はここは健吾のための場所だという

華子の目に同情の色が浮かぶ


涼子から香港への航空チケットが送られてくる


健吾の連絡がない

健吾への思いが錯覚だと思ったことはないかと華子に聞かれる

ないと答える

華子は健吾のことが最初から好きじゃなかったのかもしれないという


華子にふられた健吾をなぐさめたい でも自分では役に立たない

梨果が健吾のもとへ行けばいいと華子が言う

私には健吾を救えない

恋人と人生を共有するときの幸福が華子にはわからない


 「ミッドポイント」

ストーリーの真ん中に置かれる新情報、新展開です

これによって主人公の体験することや認識が変わります


華子が留守にすると書き置きを置いて失踪する(華子のエスケープ三回目)

華子が私にここを出て行ってほしい? と聞かれる

梨果は返事をしなかった


健吾に電話をかける

『留守にする』んだろう、いつものことだと健吾に言われる

大丈夫なの? と健吾に聞く 大丈夫じゃない

好意を持つのは勝手だけれど、期待されるのは大嫌いだと華子に言われたという

健吾が華子がいなくて安らかだよなあという かき乱されない


勝矢の妻が華子に一度会いたかったという

梨果が華子と住んでいることがわけがわからないと言われる

勝矢と別れると言われる

勝矢と華子はまだ続いているのかと梨果が聞く

終わったことだと言っていたが会ってはいるみたいと妻がいう


勝矢と健吾と梨果が食事をする

勝矢が離婚したという


華子が香港に来ていて、クリスマスカードが梨果に送られてくる

梨果は自分のチケットを使われたことに唖然とする

健吾に梨果のチケットを使って香港へ行ったことを知らせる

健吾は行方が知れてよかったよという

梨果はたまらないと思う


梨果が涼子に電話をする

華子は飛行機のチケット泥棒だといわれる


涼子が華子を高級ホテルで見つけたという

華子はすごく自信ありげに高級ホテルに泊まっている

華子はひとりではないと健吾が言う

華子がかえってきたら自分は健吾とまたいっしょに暮らすだろう

老夫婦みたい、と梨果は思う うれしくない


現地のお粥屋で華子を見つけたと涼子がいう

不幸のどん底みたいな顔をしていた


勝矢と華子の話をする

華子はあれで臆病だからと勝矢はいう

梨果は意見を差し挟めない気持ちの密度を感じる

華子は帰る場所がなかったという

帰るところがないと今でも思っているのだろうか


健吾は華子がいないと身体にいいと寂しく笑う


華子を探しに来た男の人に会う

四十七八の物腰の柔らかい男の人

いつ帰るかわからないですよね、と言って去っていく

男の人に会った二三日後に華子が帰ってくる


5 転1 15300字


仕事から帰ると、華子の靴がある

どうして香港だったの、誰と旅行に行ってたの?

梨果がチケットを使いそうにはなかったし、私はどこでもよかった

チケットが一枚しかなかったからひとりで行ったと華子がいう

華子はどこにもつなぎとめられないのだと思う


直人くんに華子が帰ってきたか聞かれる

悪い男から逃げていたと直人くんのお父さんが言っていた

悪い男とは誰のことだろう


健吾に電話をかけて華子が帰ってきたことを告げる

華子とまたやり直すわけだと健吾が苛立っている

梨果には健吾がなぜ苛立っているのかわからない

梨果は健吾と華子で利害の一致した3人組なのにと思う


健吾に電話したことを華子に言う

梨果さんがそうすることは知ってたわ


男の人のことを聞く

華子は男の歳だけ答える 梨果も詮索しない

華子は梨果に会いたかったという

梨果の鼻歌やへんなお茶がなつかしかった

一度外にでてしまったら帰ることなんてできないと華子が言う

外にでるというのはそういうことなのよ


華子が男の子に会わせたいという

会わせたいのは華子の弟

健吾が華子に会いにきた、と華子はいう

華子は健吾がぜんぜん好きじゃないという


健吾が仕事の途中で華子に会いに来た

華子はそんな健吾をぜんぜん好きじゃないということに梨果は悲しくなる


華子は弟の惣一と愛し合っているが兄弟だからという

男の人(中島さん)について惣一が華子に聞く

梨果は初めて華子の留守中に訪ねてきた男の名前を知る

中島さんしか私があそこに住んでいることを知らないもの

惣一が、中島さんも困難な人生で大変だなという


梨果に惣一を紹介したかったと華子がいう

私にも信じているものがあるのよ、そのことを見せたかったの

以前なにも信じられないと言った華子を思い出す

血は信じられるの? ばかじゃないの

血じゃなくて惣一を信じていると華子はいう


6 転2 12000字


 「ピンチポイント2」

主人公が敵対勢力と対峙します。読者はヒーローの苦悩を感じ、希望を持とうとします


中島さんが華子を訪ねてくる

ひさしぶりだね

華子は中島さんに、ただいまと無表情でいう

三十分ほど出られないかと中島さんに言われて、華子が外へ出る

華子が帰ってこなくて心細くなる

梨果は健吾をデートに誘う


健吾と会う

私、健吾と二度と会わないことも、もう一度恋愛することも、いますぐ健吾と寝ることもできるという

変なことをいう、と健吾はかなしそうな顔をしている

華子はどうした? どこかに行っちゃって

その日華子は朝まで帰らなかった


 「プロットポイント2」

ストーリーのなかで新しい情報が提示される最後の箇所です

主人公は必要な情報をすべて入手して、結末へ向かいます


健吾がくると電話がきたと華子が告げる

健吾は二度と私と恋愛しないということに気づいたから、ふたりにされても困ると梨果が慌てる

勝矢夫妻もいっしょに来る、と華子は楽しそうな顔をしている

大の大人が結託して乗り込んでくるなんて子供じみてると梨果は思う

いっしょに逃げる? と華子に誘われる


逃げるのってものすごく苦痛ね、と梨果がいう

知らなかったのね、と華子が満足そうにいう

私はいつも逃げてばかりの人生だと華子はいう

逃げ回っても結局逃げられない

中島さんの湘南の別荘へ行こうと誘われる


ずっと逃げてるって、なにから逃げてたの?

まわりのもの全部から、ただ逃げてるの

はやくゲームオーバーにならないかなあっていつも思ってたと華子はいう


7 結1 8700字


梨果は仕事のために先に帰る

きょう帰ってくる?

どうしようかな

華子はほんとうになにも考えていない


仕事から帰っても華子がいなかった

健吾が来る

きのうは勝矢夫妻も一緒に華子と話をする予定だった

誰も彼も華子に用があるのだ 気の毒な華子と思う

きのうは自分も湘南にいたというと、健吾がおどろいたようだった


健吾は華子への感情を恋愛ではなく執着だという

健吾の華子への思いも、自分の健吾への思いも執着だと思う


 「クライマックス」

敵との戦い、葛藤の解決など、主人公が実際に戦って勝ち取るシーンです

今回は勝ち取るシーンではありません


中島さんから連絡が来る

湘南の別荘で華子が自殺した

中島さんが行ったときには手遅れだった


華子の友人に知らせてほしい

彼女の交友関係については自分も彼女の母親もまったく何も知らないからと微苦笑で言われる

梨果が中島さんの口調に違和感を持つ


8 結2 14700字


健吾と葬式へ行く

親族代表の挨拶も中島さんがする

華子が来れば、お葬式ももっと楽しかったのにと梨果がいう

健吾は同情的な顔をする


健吾が梨果をじっと見ている

孤児のような目

健吾と抱き合いたい衝動にかられる


勝矢の妻が来る

大変だったでしょうと妻に言われる

勝矢は華子が死んで楽になったようだという

ほかの男と寝る華子を見ないですむ


あなたは華子に嫉妬を感じないの? と妻に聞かれる

わからない

健吾が楽になったのなら、それでよかったと思う


健吾は二度と私の魂のよりどころにはなってくれないのだと思う


この部屋を出るわけにはいかない

ここには時間が層になって積み重なっている、と梨果は思う


直人くんから華子へ留守電が入っている

華子に遊びにきてほしいと直人がいう お父さんも待ってる、と

部屋のなかに充満していた華子の気配がほどけて外へ出て行く


 「エンディング」

物語の最後のシーンです。戦いを終えて新たなシーンへ向かう主人公や、登場人物のその後が描かれます


健吾のアパートに行く

「寝よう」と言って、健吾を強姦しようとする

せめて健吾の直人くんになりたかった

健吾の前で現実の女でいたかった


健吾と格闘して、健吾が梨果を引き寄せる

この部屋に閉じ込められている華子を、好きな空に出ていってほしい


マンションを引っ越そうと思うと健吾に言う


BOOTHに私が作った『落下する夕方』のプロット表があります。

よろしければ参照してください。


https://peacepeace2.booth.pm/items/2736029

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