第8話 推敲

推敲


 文章の一稿目を1とすると、書いた文章を直すためには最低でも3~5倍、余裕があるときは10倍の時間をかける

 たとえ何千枚、何万枚の文章を書いたとしても、書きっぱなしのまま手を加えず、直すという作業を怠るなら、文章を書く力・技術は永遠に上達しない

 おおかたの作家にとって、一度書いたシーンは削りにくいもの

 削除はやっていくうちにすこしずつ易しくなる


 手直しの90%は削除である

 描写を点検せよ。アクションの流れを妨害していないか。描写がすべての事物や登場人物やストーリーに関連しているか

 すべての場面に、動きがあるかどうかチェックせよ

 登場人物と場所の記述に、矛盾がないか確かめよ


 プロットを点検せよ。それをいくつかの文章にしてまとめ、論理的な矛盾がないか確かめよ


 現実味はあるかどうか。極端に走っていないか。話の筋に合わない挿話はないか。削ってもストーリーの展開に支障がないような挿話は混じっていないか


 すべての文章、段落を「これがなくても物語の構造に支障はないだろうか」と自身に問いかけながら読む


□細部の手直し


 書き終えて一呼吸おき、書いたものを読み返して、その裏に隠されているパターンを探す

 見つかったらそれを二次稿でより意識的に描き出す

 二次稿の役割は象徴性とテーマの補強


 原稿を寝かせるのは六週間ほど

 気がついたことを片っ端からメモにとっていく。範囲はスペル・ミスや矛盾箇所の訂正などにとどめる

 六週間という時間を置いたあとだと、プロットやキャラクターの穴がよく見えるようになる

 原稿を読み返したときに見つかる大きな間違いは、登場人物の動機であることが多い


 ストーリーが首尾一貫しているかどうか

 ストーリーのなかでくりかえし現れるものはなにか

 それらは撚り合わさって、テーマを形づくるかどうか


 二次稿=一次稿マイナス10%


 基本的なストーリーと味わいを損なうことなく十パーセントの削減ができないならば、努力が足りない


□推敲


1 他者の目になって読み返す

2 紋切り型の表現を避ける

3 主語・述語の呼応

4 文の接続・副詞の呼応

5 一文一文を短く

6 ので、から、ため、が、等の重用を避ける

7 ~と思う、~と考える、等を多用しない

8 そして、それから、また、等を多用しない

9 文末が単調にならないようにする

10 誤字、脱字、かなづかい、句読点に注意する


 不要な文字・文章を削る

 足りない文字・文章を補う

 すでに書かれた文字・文章を別の言葉に変える

 書かれた文字・文章を、別の位置に移動させる


□書くとき主観 読み直すとき客観


書くとき主観

 つねに五感を活用しながら一文字ずつ、一文ずつ書き進めていく


読み直すとき客観

 自分が書いた文章を客観的な目で見て書き直す

 自分が書いた文章を他人が書いた文章だと思って直す

 他人が書いた文章ならば、そのよい点、悪い点がはっきり見えるから


□推敲・リライトのコツ


 時間を空ける

 声に出して読む

 舌や唇がひっかかるところはリズムが悪い

 優れた文章は、音としても優れている


 語尾の「時」をはっきりさせる

 「~した」を現在形に変えると文章に臨場感が出る


 接続詞のリズムを整える


 「てにをは」「の、も、と、が」など

 このつなぎのリズムに敏感である

 語尾のリズムを整える

 「~た」だけではなく現在形を加える


 いまはいつなのか、そこはどこなのか

 「今日」と「その日」をずらさないこと

 「これ」「それ」、「その」「あの」がぶれないこと


□五感をずらす方法


香り(嗅覚)を曇り(視覚)

音楽(聴覚)を絵・風景(視覚)

味(味覚)を音楽(聴覚)

指先・頬の感触(触覚)を香り(嗅覚)など


□推敲


推敲その1

 虫眼鏡を手にするように「てにをは」から句読点の一字一句にいたるまで、くわしく細かくチェックして文章を直すこと


推敲その2

 一歩身体を引き、紙面から遠ざかり、文章の全体を眺めながら読み直すこと

 つながりの悪い部分を補う必要があるか、段落もしくはページ丸ごと削除すべき無駄な部分がないか、位置を前か後ろに移動させたほうがよいかたまりはないか


 一歩前に近づくこと、一歩うしろへ退くこと、その行ったり来たりを繰り返すこと


□推敲の注意点


1 まずは冷却期間を置く

2 初稿と異なる書式にしてみる

  ワープロの書式を変える。紙面を大きくしたり小さくしたりする

3 他人に読んで聞かせる


□文章チェックポイント


1 同じ言葉を重複させている

2 助詞の「が」を重複させている

 「が」を多出する文章は話し言葉の調子で書いているとき生じやすい


□削除


 削除は植木の剪定と似ている。余分の枝葉を落とせば、本来の姿が見えてくる

 興に乗って横道へそれたり、枝葉のところで行数を使っている箇所はないか

 削除には多大な勇気が要る。名文なんか惜しみなく捨ててしまおう

 真の名文とは、用途に合った表現の文章をさす


□削るもの

 プロット上必要のない叙述や描写

 形式だけの無駄な会話や副詞、形容詞


□無駄な台詞を省略する


 どの台詞からはじめてどの台詞で終わらせるか、ここぞという台詞をどこで言わせるかを工夫する

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