百合の花 ー16ー
A(依已)
第1話
町に帰ると、例の民族衣装を着た若い女性の集団に、呼び止められた。
ただの通りすがりの、見知らぬ旅人であるはずのこのわたしに、なにか用でもあるのだろうか。なにやらペチャクチャといっているのだが、わたしに理解出来るわけもなかった。
彼女達は、自分達と同じ顔つきの東洋人であるのに、北京語がまったく通じないわたしが、よほど珍しかったのか、キャッキャッキャッキャッとはしゃぎ始めた。
わたしは、相変わらずきょとんとしているのだが、彼女達が屈託なく嬉しそうにしているのを見ると、なんだか自分も嬉しくなってきた。思わず、声に出して笑い声をあげてしまった。
彼女達のひとりが、いきなりわたしの手をギュッと握った。
"えっ、なになに、いったいどうした?"
突然の出来事に、ひどく驚いた。きっと端から見たならば、相当すっとんきょうな顔をしてたに違いない。
いつの間にか全員手を繋いでおり、輪になっていた。そして、素朴な、それでいて太陽を思わせるかのような女性の力強さ溢れる歌を、いっせいに唄い始めた。その歌に合わせ、クルクルと、輪が大きく旋回した。時折、脚を左右にあげながら、みなでひとつの同じ動作を共有し、躍動的に舞うのであった。
呆気にとられるひまも無く、ソレは強制的に始まっていたので、わたしも見よう見まねで、ソレを始めた。
楽しかった。
中学生の頃の、キャンプファイヤーを思い出した。あの頃も、なんだかインディアンにでもなったみたいで、ちょっと恥ずかしかったっけ?あれからそう何年も経っていないはずなのに、心の奥深くからふつふつと湧きあがるかのような、久々に感じる高揚感だった。
わたしはここ何年もの間、"ありとあらゆる色彩を失っていたのだ"と、痛感した。
百合の花 ー16ー A(依已) @yuka-aei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。百合の花 ー16ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます