百合の花 ー16ー

A(依已)

第1話

 町に帰ると、例の民族衣装を着た若い女性の集団に、呼び止められた。

 ただの通りすがりの、見知らぬ旅人であるはずのこのわたしに、なにか用でもあるのだろうか。なにやらペチャクチャといっているのだが、わたしに理解出来るわけもなかった。

 彼女達は、自分達と同じ顔つきの東洋人であるのに、北京語がまったく通じないわたしが、よほど珍しかったのか、キャッキャッキャッキャッとはしゃぎ始めた。

 わたしは、相変わらずきょとんとしているのだが、彼女達が屈託なく嬉しそうにしているのを見ると、なんだか自分も嬉しくなってきた。思わず、声に出して笑い声をあげてしまった。

 彼女達のひとりが、いきなりわたしの手をギュッと握った。

"えっ、なになに、いったいどうした?"

 突然の出来事に、ひどく驚いた。きっと端から見たならば、相当すっとんきょうな顔をしてたに違いない。

 いつの間にか全員手を繋いでおり、輪になっていた。そして、素朴な、それでいて太陽を思わせるかのような女性の力強さ溢れる歌を、いっせいに唄い始めた。その歌に合わせ、クルクルと、輪が大きく旋回した。時折、脚を左右にあげながら、みなでひとつの同じ動作を共有し、躍動的に舞うのであった。

 呆気にとられるひまも無く、ソレは強制的に始まっていたので、わたしも見よう見まねで、ソレを始めた。

 楽しかった。

 中学生の頃の、キャンプファイヤーを思い出した。あの頃も、なんだかインディアンにでもなったみたいで、ちょっと恥ずかしかったっけ?あれからそう何年も経っていないはずなのに、心の奥深くからふつふつと湧きあがるかのような、久々に感じる高揚感だった。

 わたしはここ何年もの間、"ありとあらゆる色彩を失っていたのだ"と、痛感した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合の花 ー16ー A(依已) @yuka-aei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る