先輩の祖父と出会う・裏

 今更時間なんて気にしない。部屋の電灯が切れかけている。その中でも視線だけはしっかりと分かる。恋愛探偵は俺を嫌悪の目で見つめる。感情的にならないで欲しい。名探偵だろう?


「君は・・・森羅まほろが崩壊した時に傍にいた。ここから先は私でも分からない。調べても答えがでやしない。流石の私も彼女のプライぺートを知る事は出来ない。教えてくれ、彼女に何をしたんだ?」


「何をした?俺は望まれた事をしたんです。先輩は可愛いです本当にね」


 その言葉が引き金になった。恋愛探偵はマイクを振りかぶり、俺の頭部に振り下ろす。だが、それを体を捩じって軽く避ける。異性からも同性からも暴力を振るわれるのは慣れている。ましてや彼女はひ弱で殴りなれていないなら尚更である。


 俺は目を開けまま過去に戻る。


―――


 床が血まみれであり、俺が元着ていた服でそれを拭く。先輩が崩れ始めている。どうにか戻さないといけない。だが先輩を見ると怯えていて、それでいて庇護を受けたがる弱者の顔をしている。こんな顔は似合わない。


「わわ私は君が好きなんだ。本当だ」


「知ってますよ」


 床にぺったりと座っていた先輩を椅子に座らせる。それは幸三が用意した悪趣味な椅子。革張りで品の無い赤。そこに小さな机を置いて快適な環境を作っている。先輩は服を着ていない。


 真っ白な肌、ピンクの乳房、垂れる唾液。放心と恋慕が混ざって強く匂う。先輩はべっとりとしている。


「先輩、服を来て下さい。風邪ひきますよ」


「わ、私みたいなものが、きき着れないよ」


 埒が明かない。こんな事はしたくないが俺は見下すような目つきをする。すると背筋を震わせ、両手を握りしめて命令を待っている。


「まほろ、服を着ろ」


「はい!」


 先輩は既に支配者じゃない。支配される喜びを知ってしまった。だから、戻さないといけない。先輩は服をいそいそと着始める。それは真っ白なワンピース。季節外れの麦わら帽子。それはこの後、着るつもりだった服だろう。


 そして、見上げる様な顔で見つめてくる。


「に、似合うかな」


「ええとっても」


 先輩は崩れた笑い方をする。こんな弱い人ではない。どうにか直さないと俺は、まず先輩に支配者として命令する方法を試している。正直、可能性は薄いだろう。支配者を支配するなんて冗談だ。


「先輩、元に戻って下さい。あの気丈で僕を嫌っていたあの頃に」


「む、無理だ。君を知ってしまった。もう戻れない。もし、私に嫌った振りをしろというなら、わわわたしは死ぬ!」


 首を掻きむしろうとする。その手を抑えて、膝に戻す。だめだ。上手くいかない。妹の時は結構早く済んだのに、どうすれば・・・仕方がない。本当はするつもりは無かったがやらないと先輩は俺に隷属するだけの弱い者になってしまう。それは避けないといけない。仮に全てが変わってもいい。


「先輩、それならこれならどうですか。先輩はもうこのままでいいです。その代わり、俺が変わります」


「かか変わる?なな何を言って・・・」


 先輩の耳元に口を当てる。すると、先輩はくすぐったそうに笑う。そこに指をあてて黙らせる。


「俺の秘密を教えたでしょ。だからもう一つ教えます。南足近友ってのは本当の名前じゃないんです。正確には」


―――


「言え!!!お前の、お前の名前はなんだ!!お前の名前は分かった!!苗字だ!!苗字を言え!!!!!」


 恋愛探偵に首を掴まれる。そのまま流れで首を絞められる。だが、少し遅かったようだ。


 カラオケ画面が切り替わる。そこにはゆるがいる。真っ白い部屋、そこに真っ青な服を着た彼女がいる。胸が今にも落ちそうだ。スイング系のダンスを踊っている。あいつはなんでも出来る。相変わらず映像映えしている。今もそこにいるかのような・・・まるで生放送のような。


 すると画面が切り替わる。更に顔が近づいて、彼女が叫ぶ。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん、素敵な時間を貴方に!歌うのはこの曲、好き好き大好き!!」


 ゆるが歌っている。


 そして上にあるステレオから声が聞こえる。森羅まほろの声である。酷く臆病で震えているいつもの声である。


「ひひ、人の恥部を思い出させるなんて。なんて、げげ下世話な恋愛探偵」


 先輩の声だ。恋愛探偵は俺を突き飛ばすと、部屋を飛び出そうとする。だが扉の窓には満面の笑み、鳩がいる。


 あいつが俺に見せる可愛らしい獣っぽい笑みではない。人の肉を知ってしまった野獣が人を見た時に見せる避ける程、大きな口。笑顔はここまで攻撃的なのか?


「しんゆーに何してるの?」


―――


 「俺、郭公近友って言うんです。俺と妹は血が繋がっていません。だけど妹が俺の家族の元に来たんじゃないんです。みなしごだった俺を今の家族が拾ってくれたんです。感謝しています」


 俺の秘密を聞いて嬉しそうな先輩。秘密の共有は関係を深くする。先輩は俺の手を自分の口や首、その下に当てていく。少しでも温度を感じたいのだろう。・


「す、素敵な名前だね。でもどうしてそれを・・・」


「名前を教えるってのは親愛の印なんです。ぬーべーでもあったでしょ。真名の話、あれは人間だけじゃないんです。俺の様な存在にも適用されます。だから、先輩にはこの名前を憶えて欲しい」


 先輩は俺が最初に教えた秘密を思い出している。崩れても記憶力はちゃんとしている。


「君は人間だろ」


「ええ、人間ですよ」


―――


 「違う!お前を調べた!お前の血筋は最後まで調べた。お前の一族は人の家族に入り込み崩壊を誘う。いや正確には違う。その家の女を誑かしている。お前の本当の父親は別の街で何十人も子供を作った。。女に狂わせられた!よく言う、


 恋愛探偵は鳩に拘束されている。ソファーに押し付けられている。だが、足は自由だったらしく資料を蹴り上げる。飛び散る絵、その中に古い資料がある。日本民間伝承総集、その一ページ。


 木陰に一匹の鳥が止まっている。その木の下に孕んだ女がわが子のを可愛がる様に雛を可愛がっている。その下に落ちている赤子の死体。


 そして、その鳥の胸は真っ赤に染まっている。その横に小さな文字が書かれている。


 女誑じょきょう


―――


 先輩は少し戻ったらしく、俺の手を引いて歩きだす。少し恥ずかしがっているがそれがしたい事なのだろう。

 

「そそそそうか。だったら君に従うよ。私は君が望む様に君を望む」


 そして先輩は俺をベットに寝かせる。先輩はその横に倒れ込む。俺が頭を撫でると子供の様に丸くなる。溶けて壊れているがこれで多少はましである。俺の手を彼女が掴む。それを自分がして欲しい場所に押し当てていく。


「先輩は可愛い森羅グループの代表です」


「そうだ。わわわ私は君が望む存在なる。だから、わわわ私が望む事をして欲しい」


 先輩は甘えたような声で抱き着いてくる。来ている服が多少皴になっても構わないようである。俺は先輩がして欲しい事を察する。指を彼女の口に入れる。


 ぐじゅぐじゅとかき混ぜる。先輩は酷く品の無い顔をしている。だが、それを望んでいる。食事とは快楽なのだ。当然、その為に使う口内はそれに準じて遺伝子レベルで作りこまれている。


 歯を舌を、行内の柔らかい部分を弄りまくる。快楽で何度も体が反り返る。だが、止める事を望んでいないので穿り、掻きだして、混ぜ続ける。

 

「はあ、わ私は森羅の全てを手に入れる。そそそして私は君に願うんだ。それを君に捧げる、受け取れと。きき君こそ私の主だ」


「必要ないです。先輩の主は先輩であるべきです」


 その言葉は先輩の逆鱗に触れる。俺の指を噛み千切るつもりで噛みついている。俺は痛みは感じるがそのまま頭を撫でて少しずつ弱めさせる。すると、今度はそこから出た血を舐め始める。


 本当の吸血鬼に見える。

 

「んぐんぐ、私を欲してくれ。私を望んでくれ!なんだってする。土下座もする。靴だって舐める。どんな屈辱も受け止める!私にして欲しい事言ってくれ!!!!!」


 先輩が自分の指を噛もうとする。それを止めてベットの上に起き上がらせる。そして目を見る。外はすっかり夕方だった。


「じゃあ、先輩。したい事を恥ずかしがらずに言ってください」


 先輩の顔が真っ赤になる。白さを忘れてしまった様に思える。膝や手を擦ってもじもじとしながら、言いづらそうな顔をしている。だが、今言えなければ生涯後悔すると覚悟を決める。


「そそそれは、えーと、その、あの、優しく抱きしめて欲しい。キスして欲しい。ずっと一緒にして欲しい。それでね、後デートして、一緒に動画も撮りたい!それでね、それでね、後」


 先輩は更に過激な事を望む。だが望まれたのなら。俺は先輩を掻き混ぜる。どろどろとしたそれらをより強く抉り、穿り、潰していく。まるで白い肉を抱いている気分だ。輪郭が朧げなこの感覚のまま先輩がしたい事を順番にして行く。


 崩れた先輩を無理矢理、成型しているようだ。


 朝日が目に当たる。ベットの上で起き上がると窓際に先輩がいた。こちらを向く。無邪気で汚れなく汚れ一つ無い忘却の笑み、その口から吐き出されている言葉は汚らわしく酷く性的である。そして、ただ一つだけこちらを見ると舌を伸ばす。手を自分の下に向ける。

 

 真っ白な肌に真っ赤な舌。真っ赤な下。


「次はしたね」


 ああ、先輩は崩れてしまった。


―――


 カラオケルームで一つ死体が見つかった。経営者である老婆の物だった。首はねじ切られており、使用履歴が全て破壊されていた。誰がいたか、何が行われていたか。それを知る人間は誰もいなくなった。

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