恋愛探偵の為に鐘は鳴る

 近友と会う2時間前。カラオケルームにいた。


 依頼していた調査資料を読むのは私こと恋愛探偵。流れているのは戸川純の好き好き大好きである。まさにバックソングには相応しい。韓国の方が作ったショートムービーも生かしている。

 

 そして今日起きている事に合致している。


―――


 本日三月七日正午。市民プール内で男性三名の死体が発見された。監視カメラの映像を確認しようとしたが全て何者かによって消去されていた。また、不適切な場所にあったと噂されている監視カメラをを確認したが痕跡はあるが既に処分されている模様。


―――


 同日夕方、芸能プロダクション社長・〇〇氏が保有するビルから飛び降り死亡。そこで読者モデルとして契約していた南足ゆると数時間前に会っていた記録はあるが、証拠はない。ゆるは寝間着であった事が記録されている。その後、ゆるは別の大規模芸能プロダクションと契約している。


―――


 同日朝、森羅グループ創始者である森羅幸三が老衰。公正証書遺言により、森羅グループの保有する株式及び資産は孫である森羅まほろが所持する資産管理会社に受け渡される。この際に発生する相続税に関しては調査中だが複数ルートによる資産洗浄が行われ、完全に辿る事は不可能である。

 また幸三の死には疑問が残り他殺の線で調査もされている。その際、最後に会っていたのはまほろである。


―――


 「始まってしまったか」


 私は薄っすらと理解していた。協力者であり好ましく無い恋愛をしてしまった教師や社会人を脅して得た情報はどれも最悪が起き始めている事を示している。彼女達は南足近友の忘却もしくは不理解によってぎりぎりの関係性だった。互いに牽制し合いだがお互いの領域に踏み込まない。だが、そんな均衡を私が昨日解いてしまった。下世話な好奇心で。


 私が調べた記録だと昨日の夜、私と別れた後に彼は鳩と共にホテル街に向かった。その後の事は語るに及ばない。だが、鳩は踏み越えたのだ。


 私も調査の為に今日ちらりと鳩を確認した。彼女はプールで彼とのデートを楽しんでいた。


 彼女は間違いなく綺麗になっている。同性の目から見ても分かる程、男っぽい雰囲気が少し薄れ、少し落ち着いた色気の様なものが出ている。そして、それがゆるもまほろの逆鱗に触れた。そしてそれに備えるべく鳩も動き出す。


 彼女達は彼と会っていない時間に力を保持する為に動き出した。その大半が犯罪行為である。


 私は机を叩く。そして頭を抱える。なんでこんな事になった!


 そんな事分かるか?一介の高校生と中学生の恋愛を解体しただけでこの結果になるなんて誰が想像した?


「くそ、下りたいよ」


 本当なら呼び出した近友の事を無視して、このまま家に帰り、そのまま恋愛探偵の看板を下ろしてしまいたい。だがそれも出来ないのだ。


 森羅まほろに気づかれた。それは調査をして貰っていた森羅グループの会社員、その消息が掴めなくなった事から分かっている。


 これにより、今回の始まりが私のせいである事が知られた。こうなったら最後まで解決しなければ納得しないだろう。彼女達は南足近友に知って欲しいのだ。


 それは分かる。だがこんな。

 

「だがこんな事信じて貰えるのか?」


 この恋愛を語ってしまえばこの事態が解決するかもしれない。だが、彼女達と彼を納得させないといけないこんな荒唐無稽で独自理屈が入り混じる奇々怪々な恋愛模様。これを解体し並べるのは、名探偵だって頭を抱えるだろう。


 私は確かに恋愛探偵を名乗った。だが、実際はケチな高校生探偵モドキである。少しそれに才能があっただけである。火遊びが過ぎた。もう足まで焼けている。逃げれない。


―――


 恐怖と畏れ、近友と会う時間まで後、一時間。黙ったままではいられない。仕方がない。歌うしかない。探偵は歌が上手いのが相場である。当然私もそこそこ上手い。


「そう、まずは落ち着かねば」


 マイクを手に取り、とにかく選曲する。防音性と匿名性を重視して、個人経営のカラオケを選んだが、無駄に設備が豪華である。ダムも最新型である。私が好きなラブコメアニメのOPが入っているのはジョイサウンドなのだが、仕方がない。


「プレパラードー」


 兎に角、歌い集中する。既に枷が外された三人。明日には更に状況が変わる。つまり、今日の森羅まほろの恋愛解説が終わったらすぐさま、南足ゆらに移行しなければならない。そして、私はこの街から出る。


 中卒でもいい。どっかの探偵事務所にでも弟子入りしよう。きっとそこそこ働ける筈だ。そこでいい助手と付き合って・・・最終的には事件の解決と同時に結婚する。素敵な人生設計である。


「オレンジ―」


 少なくとも近友みたいな男とは関わりたくない。あんな男とはこの部屋にいるのすら嫌だ。あいつは気付いていないが、とてつもなく女臭いのだ。比喩ではない。本当に複数の女の匂いが混ざって、噎せ返る。そりゃ男友達も出来ないだろう。


「バニラソルトー」


 しっかりと歌い倒して、すっきりする。


 今日あった三人の犯罪情報に関してはあいつに伝えるつもりはない。正直、伝えれば命が危ない。だが、頭が整理されると今の状況が理解出来る。


 彼女達はヤンデレなのだろう。


 ヤンデレなら好きな異性に暴力を振るう短絡的な恋愛表現をするかもしれない。だが彼女達の暴力性、破壊性は他者に向いているのだ。これなら近友が黙って死んでくれた方がましである。


―――


 近友と会うまであと5分。


 私は帽子を深々とかぶり、ポケットに手を入れる。ビビってはいけない。いつでも余裕が無いと舐められてしまう。あいつに足元を見られるは避けないといけない。あいつに絆される可能性が高まってしまう。


 そう、私もまたあの男に興味を持ち始めている。危険な兆候だった。


 そして、扉が開かれる。さあ、末路の最後の夜を始めよう。























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