幼馴染と近所で遊ぶ・裏
春日鳩が俺の事を好きになったのは小学生六年の時からだったらしい。
その頃の事は曖昧にしか覚えていない。妹との関係もまだ不十分であり、両親が今住んでいる新居に移った事もあり、ごちゃごちゃとしていた。だがそれでも目の前にいる恋愛探偵はそんな言い訳を許しはしない。必死に記憶を探っていく。
その頃から男友達として付き合っていた鳩、だが彼女はそうは思っていなかったらしい。
手の中で写真をくるくると回しながら恋愛探偵は下世話に笑う。
「彼女はね、むらついてたんだよ。性欲旺盛とでもいおうかな。思春期の男子中学生だけの特権じゃないんだよ。」
「下品な話になってきましたね」
別段、恋愛や色恋に夢を持ってはいない。だが、そんな風な品の無い言い回しは嫌悪感が出てくる。
「そんな顔するなよ。色恋が美しく童話の如くとでも、あんな怪物女達に囲まれてよくもまあそんな純粋なこと言えるねえ。童貞だって誰かで卒業してるんだろ?よ、女誑し!」
糞みたいな事を言われている。だが、しょうがない。今、解決できるのはこの女だけなのだ。
「まあ、いいじゃないですか。そんな事・・・話す必要ありますか?」
「そうだね。じゃあ話を戻そう。彼女、春日鳩は君を意識してしまったんだ。初めはそんな気はなかったんだろうね。いや、むしろその心の痛みを楽しんでいる節があると私は思うね」
「主観はいいですから」
「客観的な恋愛なんてあると思うのかい?」
この人は心底口が回る。
「まあいいさ。初めに男友達と認識していた相手を異性と認識した時、彼女はねえ、こう考えたんだ。『このままじゃ友達としていられなくなる』ってね。想像すると面白いな。初めは純粋に遊んでいたのに徐々に一つ一つの行動が気になってしまう。きっと恋愛は地獄だね」
なるほど、名前に恥じない下世話さである。さっきまでの緊張感が嘘である。
「どうしてそういう事を言うんですか?」
「探偵だからね、推理もするさ。男友達として始まった関係性を今さら男女間の関係に変化するのは恋愛的な労力と腕前が必要になる。だが、スポーツ一筋の真面目な彼女はやり方が分からない。だからねえ、彼女は考え方を変えたんだ。男友達として君を好きになろうとね」
理解しがたい話だ。だが、その理屈を証明する物を持ってくる。鳩の彼女の家系図をこちらに見せてくる。
かなり昔まで遡っている。その中にふと、奇妙な名前を見つける。横文字、異国人である。
「彼女の血筋には異国の血筋が入っている。アメリカ系だね。結構古い血の中に入ってるから彼女自身も気づいてなかったかもしれないけど、薄っすらと慣習自体は刻み込まれていたんだね。それを利用しようとは中々恋愛上手だね」
「慣習ってのは?」
彼女が色気の無い仕草で唇を指さす。如何にも小馬鹿にした態度である。
「キスだよ。彼女にとって最初キスは『外国の血筋が入っている私にとっては当然だ、スキンシップだ』と理屈を付けたんだ。こうなると彼女は抑えが聞かなくなる。彼女が自分の家系図を調べ始めたのは高校一年生、授業内容で自分のルーツを知るというものがあったんだ。調べさせてもらったよ」
「そうですね。俺も記憶してます。まあ、俺の家は家庭が少し複雑なので考慮して貰いましたが」
それは悪いと首を竦めている。嘘を付くな。
「そうなんだ。まあ、それはおいおい。で、彼女の今しているキスや抱擁は当然の行為と認識し始めた。そして、それで性欲を発散させていた。可愛いねえ」
だが彼女は指を絡めながら挑発的な仕草をする。
「だがね、悲しいのは都内において比べる人間がいない最速短距離走者であり、手習いでしていた空手も熟練者となった彼女にとってそんなの発散には程遠い刺激なんだよ。キスしようとハグしようと全く発散出来ないのに下腹部の疼き、ストレスは溜まる一方だ。どんどん活発になっていった」
次見せて来たのは彼女のスポーツ経歴である。知らなかったが空手だけではなく、柔道やボクシングなども学んでいたらしい。俺も知らない事だった。隠したかったのだろうか。
「君とは友人でいたい。でも、異性としてみられたい。そんな風な自己矛盾はぐつぐつと煮込まれて行って暴力で発露され始める。サンドバックじゃ満足できないんだねえ。だが、彼女はあれで正義感が強いんだよ。善良な人間は殴れない、そうなると理由が欲しくなる。だからね、今の倒錯した状況が生まれたんだよ」
彼女の暴力性、彼女の前提は理解する。だがこれは俺が聞きたかった話ではない。
「分かった。だが、やはり前提が分からないんだ。何故、彼女は俺を好きになったんだ。そこが分からないんだ。仮に男友達から異性として認識する。そこがまず知りたい」
「これに関してはもっとよく考えたほうがいいよ。南足君、中学生3年の時には彼女は君への思いが募っていた。つまりもっと前って事になる。彼女の様な人間はね、女の子扱いされた事とかが効くんだよ」
「最低ですね」
「探偵だからだね。さあ、思い出しなよ」
そんな風に聞かれて俺は、小学6年生の頃を思い出す。会った日、そもそも最初に俺は・・・
―――
新しい小学校、新しい教室。何もかもが真新しく、ついつい視線がさまよってしまう。だが、学校に来るまでにあった周囲の家はそこまで新しい物は無く、昔から住んでいる人が昔からいますみたいな顔でいる。そんな親の子供は当然、面構えが似てくる。
如何にもお呼びでない。そんな空気感の中でハイトーンボイスが聞こえる。
「そんな顔すんじゃねえぞ。新入生!仲良くしような!!」
真っ黒に焼けた肌。短く切られた髪にタンクトップは良く似合っている。少し夏に近づいた今の時期に真っ黒なのだ。余程遊んでいたのだろう。塩素の香りを漂わせながら、教室前までやって来る。教師もいつもの事なのかため息を付きながら何も言わない。
周囲の生徒もじっとりとした目線が切れる、このクラスのガキ大将なのだろう。
「ああ、よろしくな」
俺は握手をして、そのまま隣の席に移動した。自分勝手な奴である。
まあ、そうやって遊んでいる内にこいつが女の子であると気付いた。それはたまに見せる笑顔だったり、お化けが嫌いだったり、案外甘い物ずきだったりと、最後に一緒にプールに入った時に確信した。
夏休みの学校プール。鳩に誘われて一緒に行き、先に言ってろと命じられプール際で待っていた。すると、鳩はやって来る。
恥ずかしそうにもじもじとしながらスクール水着を見せてくる。シャワーを浴びたせいで少し水に濡れて、いつも以上に可愛く見える。だが、ついつい心の声が先に出る。
「男だと思った」
「うっせえ!!」
彼女が飛び上がり、蹴りを入れる。そのまま二人でプールに突き落とされる。水の中は妙に青い、日の光が乱反射して目に入る。万華鏡の様である。その中に彼女の顔が映る。ふと、何かに見える。彼女の顔は青さに染まるには赤すぎた。こいつも照れてるのだろう。
そのまま二人で泳ぎながら俺は少し笑いながらこう言った。
「でも悪くねえな」
「・・・うっせえ」
二人で水を掛け合う。そして馬鹿みたいに笑ってしまう。気恥ずかしさを隠すために。
―――
意識は今に。
恋愛探偵の言葉を信じるなら、鳩はこの時に惚れた事なる。そんな些細な事で人は人を好きになるのだろうか。信じられない。都合が良すぎるのではないか?いや、そう考えると中学3年以降の変化を理解出来る。
徐々に鳩のスキンシップは過激になっていったのだ。
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