九十九日目


九十九日目


 昨日は村に泊めてもらった。


 あんなことがあった直後だからすぐに出発したかったんだけど、杭に刺さっていたものの正体を知った私は腰を抜かして動けなくなってしまったんだ。


 本当にひどいものだった。


 一体、何日ぐらいあそこに晒されていたんだろう。

 ひどい臭いがしたし鳥にやられたのかあちこち千切られたような跡があった。

 私たちが来るまで、ガクシャはずっとああやって待ち構えていたんだ。


 もしもあれを見てしまっていたら、私は応戦するどころじゃなかったと思う。


 驚くのもそうだろうけど、あれは人間がやっていい所業じゃなかった。

 復讐の狂気とでも呼べばいいのかな。その狂気に圧倒されて、何も抵抗できなかっただろう。

 実際に、あれを見てしまった私は腰を抜かしたんだもの。


 相棒だった人間の亡骸をあんなふうにしてしまえること。そこまでして私に復讐しようとしていたこと。

 それらがただただ恐ろしくて、怯まないなんてできなかった。


 これから何があっても、ガクシャの持ち物にだけはサイコメトリーは使いたくない。


 ただガクシャが誤算だったのは、私メガネ壊れちゃったからろくにものが見えてなかったってことだよ。

 おかげで姫ニャンには怖い思いをさせてしまった。


 ここのところ、連続で怖いことが起こりすぎたよ。


 オークさんの集落に戻ったらとうぶんは引きこもって外には出たくない。

 姫ニャンは怒るかもしれないけど、ちょっと静養しないと無理。


 そうして出発しようとしたんだけど、何故か村人たちに止められた。


 なんかご馳走とか用意してもらえたし、労ってもらっているみたいだ。

 白髪見られちゃったし、村に厄介ごとを持ち込んだ張本人でもあるんだから忌避されてるものかと思ってた。驚いたよ。


 たぶん、それだけガクシャの所業に苦しんでたってことなんだろうね。


 さっさと出発したくはあったけれど、ご馳走まで作ってもらってるのに袖にする度胸は私にはなかった。


 姫ニャンもなんか食べたそうな顔をしてるし、ここは村人の厚意に甘えることにした。出発は明日かな。


 実際のところ、私のメンタルは自覚する以上にボロボロだったんだと思う。


 あったかいご馳走を食べさせてもらったら、なんでかわからないけど涙がボロボロ出てきた。恥ずかしいな。

 でも、誰かからの親切ってこんなに身に染みるものなんだね。


 そういえばオークニキに助けてもらったときも、こんなふうになったっけ。

 あったかいご飯には人を泣かせる効果でもあるんじゃないかと思う。


 想定よりもずっと長くなってしまったこの旅で、きっと私は成長もしたんだろうけど精神もゴリゴリすり減らしていたんだ。


 ガクシャたちとまともに渡り合えたのは、私が強くなったからじゃなくて、いろいろ感じられなくなっただけなんじゃないかな。


 ガクシャとの決着もそうだけど、先達異世界人の自殺。それに引かれて危うく自殺未遂しちゃったこと。ケンシの最期。拉致されて何日もひどい目に遭わされたこと。白髪は迫害されるって事実もそうだよね。


 早くオークニキに会いたいな。

 子供オークくん、ちゃんと無事でいるかな。生き残ったオークママたちも。


 ああ、でもみんなもう一度私のこと、受け入れてくれるかな。


 大丈夫だと信じてるつもりだけど、冒険者に襲われたことを考えると、オークさんたちが人間嫌いになってないか心配でもある。


 それにしても白髪を晒しても嫌な顔をされないのって、なんか変な気分だ。


 まだストーンサークルのこととか調べたいこともたくさんある。

 また旅に出ることになったら、ここに戻ってきても怒られないかな。


 異世界生活九十九日目。今日はぐっすりと眠れそう。


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