九十八日目


九十八日目


 村に入ると、妙に閑散としていた。


 元々よそ者に友好的な雰囲気ではなかったけれど、今はなんというか怯えているみたいだ。


 やっぱり、いるんだろうね。


 私は姫ニャンに村の外で待っているように伝えたけれど、姫ニャンは頑として付いてきた。

 まあ、私でもそうするだろうから、仕方がないか。

 実際のところ、メガネもなくなったからものを見てくれるのは助かる。


 でもお願いだから、私の代わりに死んだりしないでよ?


 私はM-1をしっかり抱えて進む。


 太郎丸は村の外に置いてきた。

 ガクシャは拳銃を持っているんだ。流れ弾で太郎丸が撃たれないとも限らない。


 ガクシャはたぶん、村のどこかから狙いを付けているんだと思う。

 拳銃の射程距離は二十五メートルと仮定して、物陰からはそれ以上距離を取るようにする。


 でも村の雰囲気を見ると、ガクシャは単純に待ち伏せをしているわけではなく、何かを仕掛けてあるはずだ。

 罠とか、他にはなんだろう。


 私がガクシャの立場なら何をするだろう?


 いくら強い武器があるとはいえ、一度負けた相手に正面からドヤって挑むだろうか?

 心情的にはそうしたくても、まともにものをえる頭があるならそうはしないだろう。


 相手を必ず殺せるような、絶対に銃弾を当てられるような、そんな仕掛けをしておくはずだ。


 警戒しながら村の中央へと進んでいくと、広場があった。

 その中心に何か杭みたいなものが突き立てられてある。前に来たとき、あんなのあったっけ?


 ただ、それを見た瞬間、姫ニャンが「ヒュッ」と息を呑んだ。


 私は考える前に姫ニャンを突き飛ばし、自分も地面に転がった。


 一瞬遅れて、銃声が響く。


 銃声は後ろから聞こえた。


 地面に伏せたままM-1を構え、後ろを見るとガクシャが民家の一つから出てきた。

 手にはケンシのものだろう、一振りの剣が左手に握られていた。


 ガクシャは剣も使えるのかな。


 剣を握って姿を見せたってことは、拳銃にはもう弾丸が残ってないんだろう。

 対してこっちは銃の照準を合わせているし、観念したように見える。


 あれ? でもガクシャのやつ、右利きじゃなかったっけ?

 弓とか撃つとき、右手で引いてたように思うんだけど、今は左手に剣を握っている。


 もしかして……。


 ややあって、ガクシャは手に持っていた剣を手放す。

 それを確かめてから、私もゆっくり立ち上がろうとした。


 ガクシャが笑ったような気がした。


 そう思った直後、ガクシャが右手を突き出す。

 よく見えないけど、たぶん拳銃を握っているんだと思う。


 やっぱりそうだと思ったよ。


 そのときには、私もナイフを投げていた。

 立ち上がると見せかけて、ナイフを抜いておいたんだ。


 二度目の銃声。


 私が投げたナイフは、拳銃に命中していた。

 前に戦ったとき、剣を投げるのに失敗してからずっとナイフ投げの練習は続けていたんだよ。


 ガクシャは拳銃を取り落としていた。

 私は次のナイフを抜いて体当たりをする。


 もみ合うように地面に投げ出されて、上を取ったのは私だった。


 ナイフを首に突き付けると、さすがにガクシャも動けなくなっていた。


 私の勝ちだよ。


 ガクシャはそのあと、出てきた村人たちに拘束されて村の外へと連れていかれた。

 町の役場にでも突き出されるんだろう。


 姫ニャンも泣きながら抱きついてきた。

 姫ニャンは震えていた。ごめんね。心配かけたよね。


 あとになってから知る。姫ニャンが震えていた本当の理由を。


 異世界生活九十八日目。杭に刺さっていたのは、ケンシの生首だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る