九十七日目
九十七日目
私と姫ニャンは村に向かって太郎丸を走らせていた。
あの工場を調べてば、他にも何か情報が出てくるかもしれない。
でも、とてもじゃないけどもう調べる気になれなかった。
死の記憶というものは、とても強いものなんじゃないかと思う。
サイコメトリーは記憶を読み取る能力なんだから、強い記憶に引っ張られるのは当然だった。
地図の染みのときも、手斧で冒険者を殺したときもそうだったじゃないか。
気付くチャンスは何度もあったのに、そう考えなかった私は愚かだった。
私がこの世界のことを知るためにはこれからもサイコメトリーを使うしかないわけだけれど、少しこの力との付き合い方を考え直さないといけないかな。
少なくとも凶器の手合いは一人で見るべきではない。
サイコメトリー中の自分が、傍から見るとどんな状態なのかはわからない。
でも私が普通の状態でなかったことは、姫ニャンもわかったんだろう。
あのあと、私たちは夜も震えながら抱き合うようにして眠った。
眠れる気なんてこれっぽっちもしなかったけど、生理現象ってのは抗えないみたいで、いつの間にか寝てたみたいだよ。
それから、私たちは探索をやめて村に引き返すことにしたんだ。
姫ニャンも、何も言わなかった。
私の前に来た人は、帰る方法を見つけられなかったんだ。
それで、絶望して死ぬしかなかった。
冗談じゃない。死んでたまるか。私は生きてやる。
ただ、元の世界に戻る方法は存在しないのかもしれない。
あの場所にいた先人は、戻る方法を見つけられなかった。
だからって自殺しなくてもと思わなくもないけれど、私だって姫ニャンがいなかったらその道を選んでいたかもしれない。
いや、たぶん同じことをしただろう。
でも、私には姫ニャンがいる。
何より私が自殺なんてしたら、姫ニャンは独りぼっちになってしまう。
白髪の人間が差別されるこの世界で姫ニャンをそんなふうに裏切るなんて、私にはできない。
とはいえ、まだ悲観するには早いとは思う。
あのストーンサークルだって調べたら何かわかるかもしれないし、時間をかければ戦闘機を飛ばす方法だって見つけられるかもしれない。
それにオークさんたちの集落という、帰れる場所だってあるんだ。
言葉を覚えるのはなかなか骨が折れそうだけれど、絶望するほどじゃない。
一日かけて気持ちの切り替えができたかと思えてきたころ、ようやく村が見えてきた。
たぶん、ガクシャが諦めていないならあそこで待っていることだろう。
私の緊張が伝わったのか、姫ニャンも緊張した顔をしていた。
空はもう、暗くなりかけている。
遠目に村を確認できたところで、私たちは野営をすることにした。
昨日の自殺未遂で、とうとうメガネが壊れてしまった。
暗くなったら本当に何も見えないんだ。そんな状態で敵がいるとわかっているところに行くのは、二度目の自殺と変わらない。
まあ、自殺未遂の代償がメガネだったならまだ安いさ。
異世界生活九十七日目。決着は明日だ。
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