九十五日目
九十五日目
死の間際、魔法使いが思っていた『あの場所に眠る力』というのは、戦闘機のことで間違いないだろう。
まあ、本当にあるのかはわからないけれど。
一夜が明けて、私は次に地下への扉を開けることにした。
とはいえ、地下への扉は砂に埋もれていて、探すのに少し苦労した。
まあ、埋もれているということは、誰も開けていないということだと思う。
私が扉を見つけると、何故か姫ニャンがめちゃくちゃ褒めてくれた。
いやまあすごい発見な気はするけど、あること自体は知ってたからズルして見つけたようなものなんだよ?
扉の下にはハシゴが延びていた。
こっちも金属製で、少し錆びている。そこまで腐食が進んでいないのは、ずっと閉ざされていたからかな?
試しに体重をかけてみるけれど、ハシゴが折れるようなことはなさそうだ。私と姫ニャンくらいの体重なら大丈夫だろう。
ひとまず私から降りることにした。
実際に降りてみると、ハシゴは思ったよりもずいぶん長かった。
二階か三階分くらいあるかもしれない。
登りと降りの違いはあるのかもしれないけれど、記憶だとそこまで深いとは思わなかったよ。
降りてみると、地面はコンクリートかな? 硬い感触だった。
中は真っ暗だ。
ライターを付けるとぼんやりと周囲が見えるようになるけど、正直頼りない灯りだ。
でも地下でたいまつとか一酸化炭素中毒になりそうだし、これで我慢するしかないかな。
周囲を照らしてみると、クレーンやよくわからない機械がたくさんあった。
これ、工場だよね。それが丸々こっちの世界に来ちゃったってことかな。でも座標がズレて地下に入っちゃったとか……?
電気のスイッチらしきものはあったけど、やっぱり付かない。電気が来てないんだろう。
工場なら発電機(ガソリンで動くやつ)とかありそうな気はするけど、この世界にガソリンはなさそうかな。原油ならありそうだけど。
ひとまず危険はなさそうだ。空気もある。
私は姫ニャンにも降りて大丈夫と合図した。
姫ニャンが降りてくると、私も中に足を踏み出す。
ずいぶん広い空間。奥に何か大きなものがあるのがわかる。
不気味な雰囲気を感じ取ったのか、姫ニャンがギュッと手を握ってきた。
私はその手を握り返して、ゆっくりと中に進む。
ライターの火を前に掲げて歩くと、次第に奥にあるものの全貌が見えてくる。
そこにあったのは、やはりというかプロペラのついた戦闘機だった。
翼には大きな星のマークがついている。
これは、アメリカのマークだったかな。レシプロ機ってことは第二次大戦中のものかな。
あいにくと戦闘機のゲームはあまりやったことがないから種類まではわからない。機体色は黒で、ちょっとずんぐりとした可愛いフォルムだった。
つまり、ここは戦闘機の格納庫だったんだ。
きっと他にも機体があったんだと思うけれど、これより奥は土砂に埋もれて途切れていた。
部分的にこっちに来ちゃったのか、地中だから埋もれちゃったのかはわからない。
ははは、これがあれば魔王でも倒せそうだね。
飛べれば、だけど。
工場の中を調べてみたけれど、この戦闘機を外に出せるような出口は見当たらなかった。
あるいは、ここにいた人はこれを地面の中から出す方法を探して旅に出たのかもしれないね。
サイコメトリーを使えば動かせるかな?
いや、あれは一日一度しか使えない。
飛ばすときに使ったら着陸するときに使えなくなってしまう。
そうしたら墜落して終わりだろう。サイコメトリーの経験は所詮付け焼き刃なんだから、訓練したパイロットみたいにはできない。
私が唸っていると、姫ニャンがすごく不安そうにこっちを見ていた。
ああ、そうか。
これが飛ぶものだってわかったのかはわからないけど、ここが私に所縁のある場所だってことは気付いていたんだろう。
私は姫ニャンにほっぺを擦り付けて返した。 大丈夫だよ。
異世界生活九十五日目。私はどこにも行かないし、行くときはいっしょだ。
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