九十四日目


九十四日目


 昨日は線○×の直線上に出たところで野営をしたよ。


 姫ニャンの怪我もだいぶよくなってきたみたいだ。包帯を交換したら腫れも引いていたし、傷もだいたい塞がっていた。

 無理をしなければこのまま治ると思う。


 というわけで、今日はこの線○×上を探してみようと思う。


 誤差は十キロもないと思う。

 ○方向に向かうか逆に向かうかだけれど、太郎丸は荷物も積んでいるし二人で乗っているわけだ。

 六十キロよりも遅い可能性の方が高い気がするので、○から離れる方向に進んでみることにするよ。


 結論から言うと、すぐに見つかった。


 いや、普通の人なら野営する前に気付いてたのかもしれないね。

 私、視力悪いから近づくまでわからなかったけど、野営のところから見えてたみたい。


 サイコメトリーで見た通りの倒木が転がっていた。


 朽ち加減は、記憶とあまり変わってないように見える。

 地図の作者がここを離れてそんなに時間は経ってないのかな。そんな何年も経っているふうではない。


 あと記憶では気付かなかったけれど、小さな小屋があった。

 サイコメトリーはあくまで誰かの記憶を見ているわけだから、本人の視界に入ってないものは見えないんだよね。

 たぶん、小屋を背に立ってたとかじゃないかと思う。


 どこかに地下への扉があるはずだけど、先にこの小屋を調べてみようかな。


 なんに使ってる小屋だったんだろう。

 屋根も剥げていてボロボロだけど、造りはしっかりしてる。崩れそうな感じではない。

 平屋で砂をかぶっているせいか、荒野と保護色になっていて遠目にはわかりくくなっていた。


 扉に鍵はかかっていなかった。

 中に何もいないとは思うけど、姫ニャンに声を出さないように合図をしてドアノブに手をかけた。

 姫ニャン、楽しそうに指立てて「しーっ」てやってるけど、わかってくれてるよね……?


 中に入ってみて、私は目を見開いたと思う。


 そこはいかにも作業場という部屋だった。

 真ん中には製図台(で合ってるのかな)天板の角度を変えられる机が置かれていて、壁際には錆びた棚が並んでいる。

 棚に置かれてるのは金槌やドライバー、六角レンチとかなんかよくわからない精密工具の数々。あと、壊れてるみたいだけど銃器の手合いもいくつかあったよ。

 おまけに天井からは豆電球が下がっていた。さすがに灯りは付かなかったけどね。


 確かめるまでもない。これらは全て私の世界の遺物だ。


 床には層ができるくらいホコリが積もっているけれど、そこにたくさんの足跡が残っていた。

 ここを訪れた魔法使いのものだろう。


 これを発見した魔法使いはどんな気持ちだったんだろうね。

 私は驚きと懐かしさを覚えたけど、ここにはファンタジーみたいな華やかさはない。がっかりしたんじゃないといいけど。


 別に親しかったわけでもなければむしろ敵だったわけだけど、私は何故かそんなことを思った。


 こんな工具、どうやって集めたんだろう?


 いや、もしかしてここは建物ごとこの世界に飛ばされてきたのかもしれない。

 私は着の身着のまま放り込まれたけれど、建物ごとなんて場合もあるのかもしれないね。なんだよそれズルいぞ。


 まあ、その場合私は餓死するまで部屋から出てなかったろうけど。


 調べてみると、棚からは弾薬を見つけることができた。

 M-1の残弾が少なかったから、これは助かるね。ただ他の銃器は錆びてたり破損してたりで、使えそうなのは見当たらないかな。


 ここはすでに魔法使いが見つけた場所のはずだ。

 たぶん、そのときめぼしいものは持っていってしまったんだろう。


 そんな中、私と姫ニャンが注目したのは製図台に残された一枚の紙だった。


 私には、それがレシプロ機の設計図に見えた。


 それも戦闘機だ。機銃らしきものが両翼から延びている。

 文字は全部英語みたいでちょっと読めないけれど、戦闘機なのは間違いないだろう。


 あるの? ここに? もしくは作ろうとしていた?


 だいぶ風化が進んでいて、下手に触ると崩れそうだ。

 だから魔法使いも持っていけなかったんだろう。


 ああ、それであの地図はわざわざ布に描かれていたんだね。


 異世界生活九十四日目。大変なものを見つけてしまったかもしれない。

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