九十三日目


九十三日目


 姫ニャンの体は万全じゃない。


 環状遺跡を発見したあと、昨日はそのまま野営に入った。


 よくよく考えれば、ガクシャは馬にも逃げられているし、荷物もほとんど持っていなかった。足もなく、食料を持っていたとしても少量だろう。

 あれから一週間も経っているのに、未だに蓄えが残っているとは思えない。


 つまり、ここで出くわさなかった以上、待ち伏せはもうないと判断してもいいと思う。


 待ち伏せがあるとしたら、北の村かな。ここからだと南だけど、最後に立ち寄った村だ。


 あそこなら食料もあるだろうし、冒険者の行き来も多いようだった。

 向こうも負傷しているはずだし、私たちもあそこを通らないわけにはいかない。これ以上の条件はないだろう。


 そんなわけで、昨日は安心して眠ることができたよ。

 さすがにM-1とかの武器は手元に置いて寝たけど。


 今日は×印の場所へ向かう。


 距離的にはたぶん、一日あれは余裕で辿りつけると思う。

 問題はその距離というものを計る術が曖昧だってことかな。


 馬の走る速度って、実際には時速何キロなんだろう。

 私、タクシーもろくに乗ったことないから比較できる記憶がないんだよね。


 さすがに車ほど速くなはいはずだし、人の全力疾走の倍くらいのスピードだって聞いたことがあったと思う。


 というわけで、太郎丸の走る速度を時速六十キロメートルと仮定する。


 速度に時間をかければ距離を出せるから、その時間だけX方向に向かって進む。

 Y方向へも同じ方法で進めば線○×の直線上には乗れるはずだから、あとはコンパスを頼りに当たりを付ける。


 書いてみれば簡単な気がするんだけど、時計壊れてるから時間を計るのも正確にとはいかないんだよね。


 日時計でも作ってみようか?


 移動しながらだと意味ないような気がするけど、ある程度の目安くらいにはなるかもしれない。


 即興で組み立てられて、できればメモリとかあるようなものがいいな。


 ……って、あったわ。壊れた時計!


 アナログ時計だから、文字盤をメモリに見立て使えば結構いけるんじゃないかな?


 支柱はどうしよう。


 いやそれも時計の中にあるじゃないか。

 時計には針が三本も入っているんだ。これを使わない手はない。


 というわけで思い出の時計は解体して日時計に生まれ変わることになったよ。

 安物だったおかげか、削った十円玉で普通にこじ開けることができた。


 そんな難しい工作でもないから、十分くらいでできた。

 針は裏からロウで固めたから、動かしても垂直が狂ったりしないと思う。そりゃあ、何かにぶつけたりしたら折れるけど。


 これの利点は腕に付けられるところだね。


 太郎丸に乗ったままでもある程度は時間がわかる。

 そりゃあ、馬上じゃ影も揺れるから正確には測れないけれど、目安程度なら十分さ。


 よし、これで時間を計れるようになったから距離も計測できるよ。誤差はそれなりだろうけどね。


 サイコメトリーの記憶から考えると、地図の×印には折れた巨木があるはずだ。それを目印に出発するよ。


 異世界生活九十三日目。今日は見つからなかった。


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