九十二日目

九十二日目


 地図の○印は、存外に簡単に見つかった。


 幸い、ここまでガクシャからの待ち伏せはなかった。

 待ち伏せされるとしたここだと思っていたので、これは運がよかった。


 さて、それでは私が発見した露骨な○印についてだ。


 たぶん、これ以外にはあり得ないだろう。

 川沿いに下って進んでいたら、遺跡みたいなものがあったんだ。


 ストーンサークルというんだっけ。

 大きな岩を円形に並べた遺跡で、いくつは屋根みたいに上にも乗っている。

 ただ、一つ一つの大きさが私の背丈より高くて、しかも地中にも結構な深さで埋まっているみたいだ。


 こんなの、どうやって並べたんだろうね。

 滅茶苦茶重そうだけど、人力で動くものなのかな。

 それに形も綺麗に揃っているけれど、どうやって加工したんだろうね。神さま的な力の存在を信じたくなる。


 まあ、そいつは私のこと嫌いみたいだけどね。私もあんたのことが大嫌いだよ。

 よくもこんな目にばっか遭わせてくれる。


 話を元に戻そう。


 私の世界にもこういう遺跡があったよ。

 有名なところだとストーンヘンジだけど、割といくつもあったはずだ。ネットで軽くググっただけの知識だから、間違ってるかもしれないけれど。


 さてこの環状遺跡だけど、なんというか〝生きてる〟 ような感じがする。


 根拠は上手く説明できないんだけど、近くにいるとすごくあったかいんだ。

 あと岩にはコケやツタなんかが絡みついていて、上の方には小さいキノコや花なんかも咲いていた。


 川の傍とはいえ、周囲は砂利ばっかりでろくに緑も見当たらないのにだよ?

 なんか魔力的なエネルギーでも発生してそうなところだ。


 あと、環状ということでもう一つ思い出した。


 私の世界にもフェアリーサークルっていうものの逸話があったはずだ。

 私が知ってるのは小さなキノコが円を作るように生えるという現象だけど、その名の通りこの環は妖精の通り道だなんて言われているらしい。

 妖精の世界との通り道になっているのだと。


 上を見てみると……キノコも、生えてるね。


 ただの偶然かもしれないけれど、無関係にも思えない。


 もしかして、これが異世界人を召喚する門というか装置みたいなものだったりするんじゃないかな。


 私はこの環の中に放り込まれたわけじゃないけれど、最初にいた場所はたぶんここから南西に一日かそこらの位置だと思う。

 地図の×印も、方向こそ違えど同じくらいの距離にあるように見える。


 別にこの中に召喚されるわけじゃないのか、それともいかにも古そうだから誤作動を起こしているか、それはわからないけれど、この遺跡を中心に召喚されている可能性は高いんじゃないかな。

 検証するには事例が足りないけれど。


 この遺跡の動かし方がわかれば、元の世界に戻ることができるかもしれない。


 何より、こういう装置なら姫ニャンもいっしょに向こうへ行けるんじゃないかと思う。


 とはいえ、今は動かすことも壊すこともできない。この遺跡が本当に生きているのかも。

 先に地図の示す場所へと急ごう。


 異世界生活九十二日目。妖精の通り道、か。


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