九十一日目

九十一日目


 今日から地図の場所を探して出発するよ。


 姫ニャンもなんとか移動に耐えられそう。まだ病み上がりだがら、移動の時間はできるだけ少なめにするけれど。


 それを苦肉の策として、太郎丸の後ろに冒険者のテントをビリビリに破いたものをぶら下げることにした。


 これを引きずることで足跡を誤魔化すことができる……はず!


 一応実験した限りでは、走ったときの蹄の跡でもそれなりに消すことができた。

 もちろん完全ではないし今度は引きずった跡が残るけれど、時間が経てばすぐに消える程度のものだ。


 これならガクシャが追跡してきたとしても難しいはずだ。

 まあ、魔法みたいなチート能力で追われたらどうしようもないけど、捕まった期間も含めてガクシャたちが魔法を使うことはなかった。


 たぶん、魔法っていうのはこの世界でも希少な力なんだろう。


 だとすると、いつかの魔法使いも何かしらの地位を持っていたのかもしれないね。

 その力の使われ方は間違ったものだったけれど。


 ただ地図の場所を追うとなると、○の印に戻ることは予想されて然るべきだと思う。

 ガクシャに待ち伏せされている可能性も低くないはずだから、できるだけ見晴らしのよいルートを通りたい。


 今のガクシャは弓を持っていない。でも、拳銃を持っていたはずだ。


 大きさにもよるらしいけれど、拳銃の射程距離は十から二十五メートルくらいだって、何かのマンガで読んだことがある。

 細かい理由は忘れたけれど、それ以上の距離になると威力だか命中率だかが極端に下がるらしい。ガクシャが持ってたのは、名前はわからないけどリボルバー式の小さいものだった。


 ガクシャの腕がどの程度かはわからないけれど、冒険者は基本的に身体能力が高いからね。

 二十五メートルでも当ててくると考えた方がいいだろう。


 そう考えると、怖いな。


 迷彩みたいな技術を持っていたら見晴らしのいい場所でも気付かないだろうし、そうでなくても岩陰とかに隠れられたらこっちから見つけるのは難しい。


 でも、行かないわけにはいかない。


 こっちの有利な点は、地図の謎を解いたことと、射程距離の差だろう。

 M-1の射程距離は二十五メートルなんて至近距離じゃないからね。それともう一つ。


 私がM-1を抱えて太郎丸にまたがると、姫ニャンも緊張した表情で頷いた。


 姫ニャンは人間よりずっと鼻が利く。

 ガクシャのにおいだって覚えているはずだ。近くにいたら教えてくれる。


 ガクシャのにおいがしたら教えてほしいと、ガクシャの似顔絵と共にジェスチャーで伝えた。

 責任の重大さを感じてしまったのか、姫ニャンは難解なパズルでも突き付けられたかのように険しい表情をしたけど、たぶん大丈夫。


 さて、ここでやり残したことはもうない。


 テントも回収させてもらったし、出発だ。


 異世界生活九十一日目。異世界人の地図を辿る旅に出発した。


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