八十九日目

八十九日目


 姫ニャンの怪我もだいぶよくなってきたみたいだ。

 本当は完治するまで待ってあげたいけど、動けるようになったらすぐにここを引き払おうと思う。


 ガクシャが生きてるなら、きっと追ってくる。

 もしくはどこかで待ち伏せをしてくるか。いずれにしろ、私たちをこのまま逃がすつもりはないだろう。

 あまり時間はない。


 私は異世界人の地図を見る。


 なんとなく因果関係がわかってきた気がする。


 この辺りには異世界の異物が残されている。

 私と同じ異世界人が残したものだろう。

 私が放り込まれたのもこの近辺であることを考えると、この地域に何か異世界人を召喚するような装置でもあるのかもしれない。


 だとすると、この辺りに召還された異世界人の遺物があるのは当然だろう。

 私だってこの辺りであれこれなくしたわけだし。


 そんな遺物や装置を探しにきたのが、あのときの魔法使いだった。


 いや、もしかしたら魔法使いだけじゃないのかもしれない。

 この世界で何度も冒険者と遭遇したけれど、そもそも彼らはなんでこんなところにいるんだ?


 最初はゲームみたいに、辺境が冒険者の稼ぎ場になってるんじゃないかと思った。

 でもそれにしてはここから北の地図は未開拓すぎる。


 だってオークさんみたいに強そうな異種族を、冒険者はたった三人で倒してしまったんだ。

 そんな連中がたくさんいて、どうして地図の一枚も完成させられないでいるのか。


 何か、この辺りに近づけない理由があったとしか思えない。


 それが魔王みたいに強力な敵対者なのか、それとも絶対的な〝しきたり〟なのかはわからないけれど、その中心に異世界人の召喚の秘密みたいなものがあるんじゃないかと思う。


 少なくとも、あの魔法使いはここに〝力〟があることを確信していた。

 だったら他にもそういう連中がいると考えるのが自然だと思う。


 ガクシャとケンシもそれでこの辺りを調べていて、何かしらの方法で死んだ魔法使いの地図を手に入れた。


 魔法使いが死んでから一か月も経っているわけだし、そのチャンスなんていくらでもあっただろう。

 冒険者づてに手に入れたのかもしれないし、町の雑貨屋とかに流れていたのかもしれない。


 いや、たぶん冒険者づてだろうね。

 あいつら初めからM-1がなんなのか知っていたし、私たちの髪の色を見てもそれほど驚いてはいなかった。

 魔法使いとのいざこざのとき、冒険者に髪の色を見られてたんだと思う。

 つまり向こうは最初から全部対策してきてたわけだ。


 それを踏まえた上で、私は目的地を決めなければいけない。


 ここを引き払うのなら、最後に寄った村に戻るのか、それとも先に進むのか。


 オークさんの集落に戻るのなら引き返すべきだけれど、ガクシャと遭遇する可能性が高くなる。

 怪我をした姫ニャンを抱えていくわけだから、それは避けたい。

 それにオークさんたちを巻き込む危険も高くなってしまう。


 先に進んだからといって休める保証はない。

 でも、ガクシャが追ってくる方向は予想しやすくなる。

 だってガクシャは地図の指す場所を正確には知らないのだから、先回りはできないんだもの。


 よし、決めた。


 私たちはこれから地図の場所を探しにいく。


 魔法使いの記憶を信じるなら、そこにはまだ何か残っているはずだ。

 元の世界に戻るヒントがあるかもしれない。


 そして、ガクシャを迎え撃つ。


 異世界生活八十九日目。今度こそ、姫ニャンは私が守るんだ。


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