八十六日目


八十六日目


 テントのおかげか、一晩経って姫ニャンの容態は少し落ち着いたみたいだ。


 熱はまだあるけど、昨日ほどじゃないと思う。

 ときどき意識を取り戻しては、私を安心させるみたいに笑ってくれた。胸が痛い。


 冒険者のテントを漁ってみると、飲み水や食料が残されていた。

 今の私たちにはありがたい。


 姫ニャンの容態がよくなるまではここを使わせてもらおう。


 固形食はお湯で溶いてスープにした。

 当然、味は微妙なものだったけれど、この前買った塩が役に立った。岩塩みたいな塊のものだから、入れすぎないようにするのが少し大変だったけど。


 姫ニャンはまだ食べるのも辛そうだったけど、何も食べてない帰還が三日も続いたんだ。

 水といっしょに、時間をかけて少しずつ飲ませてあげた。


 これ、本当は逆効果なんじゃないかって思うとすごく怖い。


 でもこれ以上体力が下がると本当に死んじゃう。

 何より、水分は取らせないと絶対に保たない。


 自分でも信じてるかも怪しいのに、何度も「大丈夫だよ」って話しかけた。

 言葉通じないから意味ないのにね。でも何か声をかけてないと、私の方が耐えられなかったんだと思う。


 テントの中を探してみても、薬らしきものは見当たらなかった。

 冒険者が持ち歩いてないなんてことはないだろうから、逃げていった馬に積まれていたのかもしれない。


 熱を冷ます薬って、この世界にはないのかな。


 今は濡らした布を額に乗せて看病しているけれど、どこまで効果があるのかわからない。

 水も川で汲んできたものだから、煮沸はしたものの衛生的には不安が残るところだし。


 それとすごく汗をかいているから体を拭いてあげたいんだけど(やましい気持ちはないよ? 本当に!)怪我があるからそれも難しい。


 傷口にばい菌が入ったのか、あちこち腫れてしまっているんだ。

 なんともなさそうな部分でも、布で触れたら痛そうな悲鳴を上げていた。


 ずっとそうやって傍にいたんだけど、よく考えたら私も脱水症状起こすくらいには疲弊してたんだった。


 いつの間にか眠っちゃったみたいで、夕方になっていた。


 ただ、目が覚めると何故か姫ニャンの布団で添い寝されていた。


 あっれー? おかしいな。布団に潜り込んだ覚えはないんだけど、なんで?


 まあ、たぶん寝落ちした私を姫ニャンが布団の中に引っ張り込んでくれたんだと思う。


 姫ニャンの寝息も穏やかなもので、少しは落ち着いたのかな。


 異世界生活八十六日目。姫ニャンが早くよくなりますように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る