八十五日目
八十五日目
テントを失ったのは存外に痛手だった。
無理をした姫ニャンは熱を出してしまっていた。
太郎丸の積み荷がほとんど残っていたおかげで怪我の手当てはできたけれど、熱に効きそうな薬はない。
冒険者の荷物もあさってみたけれど、それらしいものはなかった。
たぶん冒険者は、私たちが逃げたのに気付いて荷物も回収せずに追ってきたんだろう。テントを含めてほとんど荷物を持ってなかった。
そんな状態で一晩野宿をしたせいで、姫ニャンの容態は目に見えて悪化していた。
体を冷やさないように抱きしめて眠ったけれど、あまり効果はなかった。
どうしよう。
私が熱を出したときはオークさんたちが食べやすいおかゆみたいなのを作ってくれたけど、こんなところじゃ用意できない。
あと、冒険者の馬さんはまだ息があったけれど、介錯した。
私には手当てもできないし、こんなところじゃ苦しませるだけだと思ったから。それが攻撃した私の責任だと思ったから。
ガクシャが乗ってた方はどこかへ走っていってしまい、それっきりだ。
ケンシの死体は、悪いけど埋める暇がないから川の傍に置いたままだ。
本人のマントをかけてあげたけど、効果があるのかはわからない。
川の流れはだいぶ収まってきたみたいだけれど、まだ泥みたいに濁っていて病人に飲ませられる状態じゃない。
私は泥水を布で濾して、水を鍋で沸騰させた。
ちゃんとした濾過の方法がわかればいいんだけど、これでもやらないよりはマシだと信じたい。
それにぬるま湯の方が飲みやすいはずだ。
でも、このままじゃダメだ。
私は冒険者のテントを探すことにした。
姫ニャンもここに置いていくわけにはいかないから、いっしょに連れていく。辛いと思うけど、ごめんね。
来た方向はだいたい覚えている。でも拉致られたときにコンパスをなくしたから正確なところはわからないけど。
幸いというか、蹄の跡も目を凝らせば見えなくもない。
馬上からでも辿れることを祈ろう。
出発の前に、ケンシの遺体を少し検めさせてもらった。
私がパクられたナイフはケンシが持っていた。捨てられてなくてよかった。
他には異世界人の地図を見つけることができた。
悪いけれど、これももらっていく。これは私たちの世界の人間のためのものだから。
あとやっぱりケンシもネームタグを持ってたけど、回収はしなかった。
私が死なせたという後ろ暗さもあるし、どの面下げてギルドに持っていけばいいかわからなかったから。
最後にガクシャが落としたM-1も回収しておいた。
ガクシャが一発撃ったから残弾は三。最初から弓を使われていたら、私は殺されていただろう。こいつに助けられたことになるのかな。
ちなみにガクシャの弓は折れていた。
私が投げた剣が当たっていたようだ。これも遺品ということになるだろうから、ケンシの隣に置いておいた。
もうちょっとちゃんと調べたくはあったけど、これ以上は時間をかけられない。
私は姫ニャンを毛布でくるんで太郎丸に乗せると、後ろから抱きかかえるようにして走り始めた。
太郎丸が揺れるたびに、姫ニャンは小さなうめき声を上げる。
できるだけゆらさないようにがんばってみたけれど、ごめんね。
一時間くらい走ったかな。
周囲に何もない荒野だったのが幸いして、なんとか冒険者のテントを見つけることができた。
たぶん私たちが捕まったときも、冒険者からはこんなふうにテントは丸見えだったんだろうね。
後から追いかけても余裕で捕まえられたわけだ。
それでも、これで姫ニャンを休ませることができる。
異世界生活八十五日目。早く姫ニャンがよくなりますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます