八十日目
八十日目
村を出発して二日目。まだ周囲に目立ったものは見当たらない。
まあ、それはそうか。そんな目立つ遺跡みたいなのがあったら、さっさと調査されちゃうだろうし。
となるとやっぱり冒険者たちが何を目印に探しているのかが気になる。
無目的にウロウロしてるんならさすがに帰っていいよね? 別れ方としても打倒だし。
ただまあ、実際に蒐集した遺物が結構な数あったから、実績はあるんだろう。
なんとかガクシャを躱してケンシに近づいてみたら、意外にも小さな地図を開いていた。
店で取り扱っている羊皮紙のものじゃなくて、布に描かれた手製っぽいものだ。
なるほど、秘密の地図みたいなのがあったわけか。
私に見られたことに気付くと、ケンシも降参したみたいに地図を見せてくれた。
……うわ、じゃあやっぱり地図を見られないようにガクシャが付きまとってたんだ。
ちょっと疑りすぎかなとか思ってたけど、疑っててよかった!
ただ、地図はずいぶんと曖昧なものだった。
川や池らしきものの位置は描かれているけど、目印といったらそれくらい。
隠してたわりにずいぶんあっさり見せてくれたと思ったら、向こうも道がわからなくて困ってたんだね。
まあ、私が見てもわからないとは思うけれど、せっかくだから地図を見せてもらうことにした。布自体にも少し興味があるしね。
その程度の動機だったんだけど、地図に触れた瞬間サイコメトリーが発動してしまった。
見えたのは一人の旅人の記憶。薄暗い場所で地図を描いている。
この場所が見つからないように、わざと曖昧にしている。
もしも自分と同じような境遇の者が見たら、その人だけにわかるような細工を施して。
ああ、そうか。この人は私と同じ世界から来た人だ。
そして私と同じように、後の誰かのためにこれを残した。
旅人は地図を書き終わると上を見る。
四角く刳り抜かれた頭上からは光が差し込んでいて、上へと登るはしごがあった。
その先に広がるのは石ころと砂に覆われた荒野。近くにはへし折れて中が空洞になった大木があった。
最後に、階段の扉を閉める。扉は地面にあった。
記憶は、そこで終わりだった。
ケンシが不思議そうな顔をしていたから、私は一所懸命地図とにらめっこしているように振る舞う。
どうしよう。ここに冒険者たちを連れていったらいけない気がする。
……でもあれ? なんか記憶で見た地図と違うような気がする。
地図を見てみると、左上に矢印みたいなマークが描かれていた。
北を示すマークだよね。ただ、その下に何か書かれていた。
筆記体で読みにくいけど、これ英語……だよね?
たぶんupside downって書いてあるんだと思う。
ええ……、こんなの習ったっけ? いやでも何かの歌でそういうのあったな。
なんだっけ。裏返し……じゃなくて逆さまだったかな?
試しに地図の上下を回転させてみると、記憶の中の地図と一致したような気がした。
そうかこれ、わざとひっくり返しに描かれた地図なんだ。異世界人じゃないと英語なんて読めないだろうし。
そして、そこで私は自分が失敗したことに気付いた。
ケンシとガクシャが無表情で私を見ていた。
この人たち、地図が逆さまだってことを知ってたんだ。で、私は初見ですぐにそれに気付いてしまった。
要するに、この地図のヒントを読めるか試したんだ。
一応、いかにもよくわかりませんみたいな顔で地図をくるくる回してみたりしてみせたけど、誤魔化せた気がしない。
異世界生活八十日目。今日から寝るときもM-1を傍に置いておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます