七十九日目


七十九日目


 冒険者と冒険に行くことになってしまった。


 名前わからないから、二人の冒険者のうち剣士っぽいのはケンシ、学者っぽいのはガクシャと呼称することにする。


 ケンシは私よりだいぶ強そう。

 ナイフ投げても弾かれそうだから、やはり穏便に別れる方法を探すしかない。なんか寡黙な感じでほとんど口も開かない。

 見た目は結構明るそうではあるんだけどね。


 ガクシャの方は魔法使いに似た格好をしているけど、魔法は使えない。あと学者っぽいのに私の言葉も文字もわからない。弓を持ってるけど腕前はちょっとわからない。

 でも下手なわけはないか。冒険者だし。


 どうにか冒険者を振り切れないかと地図を眺めていて、ふと気付いた。


 彼女たちの情報によると、この北に異世界の遺物がありそうな場所があるらしい。

 いつかの魔法使いは、そこからM-1を持ち出したんじゃないだろうか。


 それで『新しい力を手に入れたから試してみるぜヒャッハー!』って感じで通行人に辻斬り紛いのことをしてたと考えると、辻褄が合う。

 M-1の使い方もわかってなかったし、あれこれ短絡的な行動だったからね。


 異世界の遺物があるなら、私みたいにこっちの世界に来ちゃった人の足跡が残っている可能性が高い。

 元の世界に戻る手がかりがあるかもしれない。

 たぶん、私が無目的に探すよりはよっぽど近道になるだろう。


 そんな私の心境が伝わってしまったのか、ガクシャが寄ってきてなんかこう『いっしょに来てくれる気になってよかった!』みたいな感じで熱烈に握手されてしまった。


 そんなわけで、下手に逃げるより今は行動を共にすることにした。


 姫ニャン、ずっと警戒してるのにごめんね。

 たぶん一度調査についていったら別れるタイミングもあると思うんだ。


 今日は村を出発して、地図にない部分に進もうとしているよ。


 村には宿お店もなかったし、住民との接触もほとんどなかった。

 外見的には日焼けしてつば広帽かぶったいかにも〝開拓民〟って感じの人たちだった。ガクシャたちみたいな冒険者は見慣れてるけど、彼ら向けの商売をするほど余裕はないって感じなのかな。


 畑はあってもなんだか痩せてる感じだったし、肥沃な土地じゃないのかもしれない。

 まあ、単に煙たがってるだけかもしれないけれど。


 それでも水場を貸してもらえたのはありがたかった。


 村より北に進むと、さすがにもう街道みたいなものもない。


 まあ、オークさんたちの集落に近い地質みたいで荒野になってるから進むのは楽かな。


 ただ方角はきちんと確かめておかないと帰ってこられなくなるから、コンパスは出しっぱなしだよ。


 あと、ここで逃げ出すと弓で撃たれ放題だから逃げるのには適してないね。

 実際撃たれたらこっちも撃ち返すけど。

 FPSとサイコメトリーで鍛えてあるからちょっとやそっとの距離じゃ外さないし。


 移動中、冒険者が先導して私たちがそれについていく形になったんだけど、それにしてはガクシャがやたらと絡んでくる。

 学者なら陰キャだろ何パリピみたいな絡み方してんだよ。ケンシが迷子になっても知らないぞ?


 いや違うな。仲間見つけたときのオタクみたいな反応というべきか。

 お前それ推しがかぶっただけで戦争になるやつだぞ。


 まあ、とにかくガクシャは苦手だ。


 さすがに私が異世界人だって気付いたわけじゃないと思いたいんだけど、遺物の使い方を知ってることはバレちゃってるし。


 ちなみにその間、ケンシは特に注意することもなく黙々と進んでいた。

 何か道しるべみたいなものがあるんだろうか? そっちの方が気になる。


 ……その辺を詮索されたくなくて、ガクシャが付きまとってきてるっていうのは考えすぎかな。

 ちょっと疑心暗鬼になりすぎてるかもしれない。


 いずれにしろ、先に白髪見せておいたのは正解だったね。

 こっちが警戒する理由を提示できたわけだからね。


 このまま穏便に調査して別れられるとありがたいのだけど、どうなるかな。


 異世界生活七十九日目。腹の探り合いみたいなのは疲れる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る